映画から知る! アメリカ大恐慌時代の失業対策プログラム『CCC』にまつわるジャケット|ウディ・ガスリー わが心のふるさと(1976)
まだインターネットの無い時代、憧れた海外の情報を得るツールは映画だった。そのスタイルに、信念に憧れた若き日の自分がいまの自分を作り上げている。スクリーンに映る格好良い男たちから、ボクらは様々なことを学んだ。今回は、「ウエアハウス」の藤木さんが「世界恐慌時代のアメリカを生き抜いたたくましいアメリカ人を体現した1着」を深く知るきっかけとなった映画のお話。
ひとりの男の人生を通しアメリカの光と影を描く。|ウディ・ガスリー わが心のふるさと(1976)
『This Land Is Your Land』や『Do Re Mi』などアメリカの労働者や世界恐慌という時代に翻弄された市民の苦悩などを歌い、アメリカの弱い部分にスポットライトを当て続けたフォークシンガーのウッディ・ガスリー。彼の生み出すメッセージ性の強い楽曲は、様々な人物に影響を与えた。若き日のボブ・ディランが病床のガスリーを訪ねたのは有名なエピソードだ。そして、20世紀のアメリカ音楽や文化を語る上でも、重要な人物でもある。そんな彼の半生を描いたものが1976年に公開された『“BOUND for GLORY”(邦題:ウッディ・ガスリー わが心のふるさと)』である。ヴィンテージへの深い造詣と、日々研究を重ねる努力を惜しまない藤木さんは、昨年この映画を見て、時代背景の再現性の高さに驚愕した。
「昨年、『ケネスフィールド』の草野さんに紹介されて観たのが最初なので、割と最近観た映画です。もっと早く観ておけばよかったとも思うようないい映画でしたが、20代の自分では気付けない、いま観たからこそ楽しめたそんな映画でもありました。冒頭にガソリンスタンドのシーンがあるのですが、そこにニューヨークのワークブランド『Sweet Orr』の看板が見えるんです。映画の舞台は1930年代のテキサス。どちらかというと西海岸の方が近いような場所なんですよ。そんな田舎町に、『リーバイス』ではなく東海岸の『Sweet Orr』の広告が出ている。そんなディテールから時代背景の再現性の高さや東海岸の強さが伝わってきて、グッと引き込まれましたね」
『ケネスフィールド』の草野さんから紹介された際に「主人公のガスリーが着ているジャケットに注目してほしい」と伝えられたという藤木さん。映画で着用されている衣類は、ストーリーや背景と密接に結びついており、当時の状況を知る手がかりとなる。
「ウッディ・ガスリーが20代を過ごした1930年代は世界恐慌が起こった不況の時代です。そして、ガスリー本人も、その影響を大きく受けたひとりでした。草野さんに注目しておいて欲しいと伝えられたジャケットは劇中で身につけているバッファローチェックのジャケットのことで、型はミリタリーの[A‒1]とマッキノーコートを合わせたようなデザインをしたもの。ガスリーはカバンも持たずこのジャケットを羽織り、テキサスから楽園とされたカリフォルニアを目指し、ヒッチハイクやホーボー(鉄道の無賃乗車)をしながら旅をしていきます。
特に印象的なシーンはカリフォルニアの音楽スタジオで、歌唱するシーン。『そのみっともない服を変えろ。』と言われるシーンがあり、そこで言及されているわけではないのですが、その理由はジャケットが『CCC(市民保全部隊)』によって支給されたものだからなんです。1933年にニューディール政策の一環として始まった失業対策プログラム『CCC』。18歳から25歳までの失業中の男性を対象に公共工事など仕事を斡旋し、アメリカの価値観を若者に植え付けることを目的とする団体です。その当時、22歳であったガスリーもその対象だったはずなんです。なので、そういった背景を考えると劇中で着用しているバッファローチェックのジャケットは『CCC』によって支給された、言わば労働者層の証。美談とされがちなニューディール政策にも、光と影が存在し、『CCC』に従事する人を世間はどんな目で見ていたのか、ガスリーにとってどんなものだったのかを慮らずにはいられませんでした」
映画を観終えた藤木さんは、改めてこの1着のジャケットを見た。それは、世界恐慌という不遇の時代を生き抜いた、たくましい人々を象徴するものだった。
「映画を見て、自分の中で点在していた情報が線で繋がる感覚がありました。1930年代の細やかなディテールの再現、映画に登場する人々の格好やセットの作り込みなど50年前だからこそ再現できるのだと思います。フォークシンガーとしての注目を集めていくことになるガスリーは、『CCC』だとひと目でわかるランバージャックを着て、自分と同じ境遇に苦しんだ庶民たちを代表し、彼らの声を歌というツールで発信することを続けました。
グレーのフランネルパンツにタックインしたカーキツイルのミリタリーシャツ。そしてその上から引っ掛けるように着た、自身の思想を物語る相棒とも言える『ランバージャック』は僕の心に強く残りました。公開当時の1970年代のアメリカ映画は豊かだった時代のアメリカ、理想のアメリカを描いた作品が多いなか、この作品はかなり異端だと言えます。アメリカの建国200年を記念して作られ、それまであまり触れられてこなかった暗い過去にも目を向けることを始めたきっかけの1作です。アメリカという国を様々な視点で見ることができる名作だと思います」