女性のキャリアに立ちはだかる「壁」とは。育児退職を防ぐために「今やるべきこと」
結婚・出産後も正社員としてキャリアを継続したいと考えている女性は少なくありません。
一方で、正社員として働くことを希望しながらも、育児との兼ね合いで退職を経験したり、退職を検討したりしている女性が「全体の3分の1に上る」という調査結果もあります。
なぜ、望むキャリアを実現するのは難しいのか。ライフステージが変わってもキャリアを諦めたくない女性は、どのように行動すべきか。専門家のコメントをもとに解説します。
監修者
中野 円佳(なかの・まどか)
1984年、東京都生まれ。東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社入社。育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に入学。同研究科に提出の修士論文を基に、2014年『「育休世代」のジレンマ——女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)を出版。15年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程、23年に満期退学。25年、博士号(教育学)取得。。現在、東京大学多様性包摂共創センターDEI共創推進戦略室准教授。著書に『上司の「いじり」が許せない』(講談社現代新書)、『なぜ共働きも専業もしんどいのか——主婦がいないと回らない構造』(PHP新書)、『教育大国シンガポール——日本は何を学べるか』(光文社新書)、『教育にひそむジェンダー——学校・家庭・メディアが「らしさ」を強いる』(ちくま新書)
「妻に正社員で働いてほしい」と考える男性が、「正社員希望」の女性より少ない理由
マイナビ転職が実施したアンケート調査(※)によると、小学生以下の子どもを持つ正社員のうち、育児との兼ね合いで退職を経験した人、あるいは退職を検討したことがある人が全体の3分の1に上りました。
この結果について中野さんは「子育て中の女性のキャリアについて調査を始めた2012年ごろは、子どもを育てながら正社員として働き続けるというケース自体が少なかった。当時と比べると、育児を機に退職する女性は減ってきているのでは」と述べます。
「日本経済の先行きが不透明で、夫の給与がこの先どこまで伸びるかは読みにくい。そんな中で、夫が大黒柱、妻は専業主婦というモデルを目指しにくくなっているのではないかと思います。
もう一つ、企業側もコロナ禍を経て制度面でフレキシブルな働き方を支援するようになっていて、女性の働き方が多様化していることも背景にありそうです。
そうした変化は今回のアンケートにもあらわれていて、『小学生以下の子どもを持つ正社員』と調査対象にやや偏りはあるものの、約9割の女性が『子どもの年齢にかかわらず正社員として働きたい』と答えています。
逆に、まだ3人に1人が育児との兼ね合いで仕事を続けることに難しさを感じているとも言え、この事実は無視できないでしょう。
たとえば、働き方の側面では、教育コストやコミュニケーションコストの高さを理由にリモートワークから出社に切り替える企業も増えています。
また、パートナーの協力という側面でも男女間で意識の違いが見られます。実際、アンケート結果からは、男性より女性のほうが『(パートナーには)家事育児にもっと協力してほしい』と考えているのが見て取れます。
《画像:「パートナーの家事育児への協力の必要性」を挙げた人の割合が、男性は20.7%なのに対し、女性は33.0%となっている》
一因として、妻が家事・育児を自然とやっていることに夫側が気づけていないケースがありそうです。家事・育児に限らず、誰かが自然とやっていることは、自分が関わったり意識したりしないと、なかなか見えてこないものです」
そもそも、女性が正社員として働き続けることへの捉え方は、女性と男性とでやや異なるようです。アンケートでは、「正社員として働きたい」と考える女性より「妻に正社員として働いてほしい」と考える男性のほうが明確に少ない結果となりました。
この結果について、中野さんは以下のように分析します。
「(男性は)妻が自分と同じくらい働くと、家事や育児の負担が増えるかもしれないと考えているのではないでしょうか。アンケート結果を見ると、専業主婦になりたい女性より妻に専業主婦になってほしい男性のほうが多いようです。これは、家事や育児を妻にやってほしいという期待の表れとも取れます。
一方で『妻にフルタイムの正社員で働いてほしい』と考えている男性の割合が『自分はフルタイムの正社員で働きたい』と考えている女性より多いという結果も出ています。男性側がフルタイム共働きの大変さについてやフルタイム以外の働き方についての解像度が低いとも解釈できそうですが、自分と妻の二本柱で家計を支えることを想定している人も一定数いるということでしょうね。
実際、理想の結婚相手に『稼ぎのある女性』を希望する若い男性が増えているとする調査結果も出ています。家事や育児、生活費の負担を夫婦間で平等にしようとする男性がいる一方で、生活費を稼ぐから妻に家事・育児を任せたいという男性もいる。そんな価値観の二極化が進んでいるのかもしれません」
当事者じゃなくても、働き方の改善提案には「積極的に賛同すべき」
アンケート結果から、結婚・出産後もキャリアを諦めたくないと考える女性が多い一方で、それが簡単ではないことも分かります。キャリアの断絶を防ぐために、職場や家庭でやるべきこと、心がけておくべきことは何でしょうか。
「子育てに限らず、職場では『お互い様』の関係を築いておくことが大切だと思います。誰だってインフルエンザなどの感染症にかかることだってあるでしょうから、たとえば他の人がいろいろな事情で休むとき、積極的にカバーしたりすると、自分が休んだり育児をしながら働くシチュエーションになったりしても助けてもらえるでしょう。また、職場で子育て中の人が過ごしやすくなる働き方についての提案が出た場合は、自分が今それに当てはまらなくても賛成しておくことが大事です。当事者になってからだと『自分の利益のために言っていると周囲に思われるのではないか』と萎縮して、声を上げにくくなる可能性もあるからです。
もう少し大きな視点で見た場合、育児を両立しやすい会社を選んだり、制度改善のため積極的に声を上げたりしていくことも必要でしょう。
一人ひとりが、育児をしながら働きやすい制度がある会社を選ぶと、制度のない会社は選ばれにくくなり、改善を迫られます。そうした流れが起きると、社会も変わっていくのではないでしょうか。
併せて、『できるだけ休めるようにする制度』ではなく『働けるようにするにはこんな制度が必要』という目的で、リモートワークや時間単位の休みを取得できる制度の新設を会社に求めていく。特にリモートワークは、育児に限らず介護や療養との両立にも役立つので、さまざまなステータスの人を巻き込んでいくと、会社にもその重要性が伝わるかもしれません」
キャリア継続のカギは「テーマと専門性」
結婚や出産によってキャリアが断絶するのではないかと不安を抱えている女性は少なくありません。そうした女性に、中野さんは次のようにアドバイスを送ります。
「私自身、新卒で入った新聞社に8年勤務し、その後ブランクを経験して、この先どうするか決めていない時期もありました。でも『これなら私もできるな』といった公募に応募するなど、その時々でできることに挑戦していった結果、今は大学の教員として働いています。
自分がキャリア断絶の危機に晒されているときは、得てして『今の正社員の立場を手放したら終わり』と思いがちです。でも、一度転職してみると、意外と大丈夫だったということもあります。
そもそも今はあらゆる業界で人手不足で、企業も中途採用を積極的に行っています。長い目で見れば、一度仕事を離れても、また別の会社で正社員として働けばいいという考え方もあるでしょう。
子どもが小さい頃は、時間の流れは長く感じるものです。でも、子どもはいずれ手がかからなくなります。仮に子どもが18歳くらいになって、自分が50歳台くらいになったとき、そこからの人生をどうしたいのか。逆算して行動するのも一つの手です。フリーランスで働くのか、就職するのか、大学院に入ってみるのか、10年後・20年後を見越してチャレンジしてみるのもいいでしょう。
そして、そうしたキャリアを考える際に意識しておきたいのが、テーマや専門性という『軸』です。私なら『書くこと』と『ダイバーシティ』でしょうか。私の友人で転職を繰り返している人がいますが、その人は『人事』の分野で働くという軸を持っています。
テーマや専門性を持っていると、何度も転職していても『ただ転職を繰り返している人』ではなく、『いろいろな会社でずっと人事をやってきた人』というポジティブな評価を得られます。
転職活動でも、『このポジションに応募したいけれど(求人要項に書いてある)この条件には当てはまらない』という場合、面接などで『こういう専門性を持っていて、ここは貢献できると思うけれど、ここの条件だけ合わない』みたいな交渉や対話ができそうです。
自分自身の『軸』が何か、今から棚卸ししておくといいかもしれません」
アンケート結果、そして中野さんのお話からもわかるように、女性にとって出産・育児を経てもキャリアを継続していくことは決して簡単ではありません。
「正社員の立場を手放したら終わり」という考えから脱却する、長期的な視点でキャリアを考える、専門性などの「軸」を持ってそれを生かせる場所を探す。そんなマインドやアクションを心がけながら、パートナーや会社とも日頃から細かく意向をすり合わせることで、大きな壁を乗り越えましょう。
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( https://tenshoku.mynavi.jp/ft/woman-job/?src=mtc )
取材・文:山田井ユウキ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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