神山健治監督から物語を受け継ぎ、主人公カーラの「成長」を描く――『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume3『The Ninth Jedi: Child of Hope』塩谷直義監督インタビュー
2021年、世界中のクリエイターが独自のビジョンでスター・ウォーズを描く画期的なプロジェクトとして始動した『スター・ウォーズ:ビジョンズ』。
その待望のシリーズ第3弾となる『スター・ウォーズ:ビジョンズ 』Volume 3が、2025年10月29日(水)より、ディズニープラスにて独占配信を開始しています。
Production I.Gが制作を手がけるのは『The Ninth Jedi: Child of Hope』。今作は、Volume1で発表され、壮大な物語で世界中のファンから絶賛された『九人目のジェダイ』の続編。さらに、2026年には「ビジョンズ」初の長編シリーズ化となるオリジナルアニメーションシリーズ『Star Wars Visions Presents -The Ninth Jedi』の配信も決定しています。
今回の短編は、そんな壮大な物語へと繋がる重要な一編として、主人公カーラがジェダイを探し父を救う旅の途中で新たな試練に直面し、成長していく姿を描きます。
アニメイトタイムズでは、前作の神山健治監督から監督のバトンを引き継いだ、塩谷直義監督にインタビュー。偉大な物語をどのように受け継ぎ、主人公の成長という新たな“ビジョン”をどう描いたのか。創作の裏側をじっくりと伺いました。
【写真】『スター・ウォーズ:ビジョンズ』『The Ninth Jedi: Child of Hope』塩谷直義監督インタビュー
会長からの言葉をきっかけに始まった『スター・ウォーズ』への挑戦
──今回は神山健治監督から「九人目のジェダイ」を引き継ぐ形となりましたが、どのような経緯で監督を務めることになったのでしょうか?
塩谷直義監督(以下、塩谷):私が長年携わってきた『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズの劇場版『PROVIDENCE』までを作り終えた後、弊社(Production I.G)会長の石川光久から話があると呼ばれたんです。
その時に、フランクな感じで「塩谷、お前は今まで俺の言うことを聞いたことは一回もないよな」と言われまして(笑)。「そんなことないですよ!」と返したのですが、その流れで「ぜひ、今回の企画をやってほしい」という話をされました。
神山監督ご自身からも「塩谷くんが作ってくれるといいな」というお話があったと石川づてに聞きまして。これまで自分はオリジナル作品しかやってこなかったですし、誰かが作った世界観を引き継いで動かすという経験もなかったので、新しい挑戦でした。ですが、『スター・ウォーズ』という作品自体はもちろん大好きな映画でしたし、もちろんリスペクトをしていましたから、この壮大な世界観の中で自分がどういう表現ができるのかな、という興味もあってお引き受けしたという経緯です。
──塩谷監督ご自身は、神山監督が作られた前作「九人目のジェダイ」にどのような印象をお持ちでしたか?
塩谷:ある意味前作の物語は「プロローグ(序章)」として、非常によく出来ていると感じました。サスペンス要素や、いろんな展開に主人公が巻き込まれていきながら、旅立ちの物語として完結していました。その構成はさすが神山健治監督だなって思いましたね。
僕としては短編はたくさんの制約がある難しいジャンルだなと思っています。前作で登場した魅力的な登場人物たちを、「今回の続編では何を目指し、どのようにまとめ、次に繋げたらいいかな」と考えながら観ていました。
主人公カーラの成長と、相棒テトに託した想い
──前作が物語の「起点」だとすれば、今作では特にカーラの「成長」に焦点を当てられているように感じました。
塩谷:はい。今作はカーラの「成長」、その一点に集約しました。先程も話しましたが前作は、これから始まる壮大な物語の「プロローグ」のような筋立てだったと思います。どういうふうに「スター・ウォーズ」の世界観が、「九人目のジェダイ」という作品の中で生まれ広がっていくのかを、主人公カーラと集うジェダイの二つの視点で物語を描いていました。
そして、この物語には今後予定されている「その先」シリーズ化されることを、みなさんファンの方は事前に知っているわけです。だとすれば、そのシリーズへと繋ぐこの短編で僕が果たすべきポジションは、カーラがどういうモチベーションで旅を続けていくのか、彼女が自らの意志で動き出す「動機」「成長」をより鮮明に描くことだと思いました。
またジューロ伯や仲間たちの視点もシーンとして作り、彼らから見たカーラを語らせ、彼らにとって彼女がどれほど重要な存在であるのかを仲間の口から語らせています。前作から現在に至るまでの関係性・時が流れを感じるでしょう。そして、もっとも重要なのは“この物語が彼女にとって“忘れないであろう出来事”を描いた短編にすることでした。
──カーラの成長を描くうえは、ドロイドの「テト」の存在が非常に大きいと感じました。
塩谷:はい。カーラは前作では「巻き込まれる」側で、まだ主体性がなく感じるところがありました。今作ではテトと出会い、二人で行動する中で、彼女が「自分から動いていく姿」という変化を見せるべきだと考えました。見ず知らずのドロイドと出会った時、カーラはどう反応するのか。そのリアクションの取り方は、より感情が見えるような表現にしたいなと。特に、若い子が観た時に、キャラクターが何を考えているのか理解しやすく見える仕草や反応を意識し制作していました。
──テトのデザインも、眉があるような形で表情が豊かで、印象的でした。
塩谷:感情が受け取りやすいデザインになるようにデザイナーの品川さんと色々話して作っていきました。一番意識していたのは、シークエル(エピソード4、5、6)の中にある、ちょっとアナログ的な世界観。それが「スター・ウォーズ」の起点だと僕は思うので、カッコよさだけではなく、単純なパーツの組合せで構成されたドロイドとして、テトのデザインに落としていきました。子供っぽくも見えるけど、テトは執事用のロボットでもあるので、テトの業務がビジュアルでもすぐわかるように作っています。
Production I.Gが描く「スター・ウォーズ」の世界観
──冒頭に登場するカーラたちの宇宙船は、非常に独創的なデザインでした。
塩谷:あれは、一番の基礎としては、やはりミレニアム・ファルコンを意識しています。その上で、デザイナー品川さんと色々話す中で、神山監督が作られた「和」のテイストをどう加えるか考えました。たくさんのアイデアの中から最終的に採用したのが、「前方後円墳」をモチーフに加えて、あの独特の形になりました。
ジェダイハンター船も同じくデザインするにあたって、まずは改めて「スター・ウォーズ」の百科事典を買ってきて、徹底的に調べ直したんです。膨大な資料の中から、辺境惑星の輸送船団の一つの船をモチーフにしました。元々「スター・ウォーズ」の世界に存在する3つか4つのパーツを組み合わせて製作した形です。
──船といえば、カーラが乗り込むことになる漂流船の内部も印象的でした。
塩谷:船の内部は、船の持ち主であるマスターが生まれた星を想像して制作しています。エリアごとに船の持ち主であるテトのマスターが“思い出深い場所”を想定したデザインを分けているんです。カーラがこれまで生きてきた中で遭遇したことのない文化圏なので、彼女にとっては少し「怖い」と感じるような、意図的に異質な空間として設計しました。
──今作を制作するうえで、最も「産みの苦しみ」を感じられたのは、どのような部分でしたか?
塩谷:それで言うと、一番初めが肝でしたね。特に「宇宙をどういう風に表現するか」というライン引きに、すごく悩みました。自分の肌感覚として、今までリアルを意識して作る作品を多く作ってきたので、その感覚で宇宙を捉えていたんです。
──当初はリアルな宇宙表現を目指されていた。
塩谷:そうですね。でも、ルーカスフィルム側と密にお話していく中で、「これはスペースファンタジーなんだ」と言われたんです。続けて、冗談の例え話として「宇宙に飛び出したとしても、5分ぐらいは大丈夫な感覚で持っててほしい」と(笑)。
その言葉で全てが腑に落ちました。リアルな方向にシフトしていくことが、「スター・ウォーズ」の魅力を表現することとは限らないと改めて気がつきました。
──「スター・ウォーズ」の華であるライトセーバーのアクションについてはいかがですか?
塩谷:今回のアクションで一番意識したのは、「負ける」ということです。これからの長いシリーズを考えた時、主人公が最初から強すぎると、物語の天井が見えてしまう。だから、今作ではまだ勝てない状況をちゃんと作ってあげないといけない。必死に頑張るんだけど、最終的には負けてしまう。その中で何を得るのか、という点を大事にしました。
──音楽も、「スター・ウォーズ」らしさ全開で素晴らしかったです。『PSYCHO-PASS』でもタッグを組まれた菅野祐悟さんが担当されていますね。
塩谷:音響チームも音楽も、『PSYCHO-PASS』と同じチームでお願いしました。最初の打ち合わせの時に、菅野さんから「塩谷さんの『スター・ウォーズ』らしい音楽を一度見てみたい。それを自分なりに解釈して作りたい」という提案があったんです。そこで僕がやったのは、一度、「スター・ウォーズ」の実際のサウンドトラックを映像に当てはめて、仮の音楽を入れた編集版を作ることでした。
例えば、アクションシーンではダース・ベイダーのテーマ(「The Imperial March」)を流したりして、「こういう雰囲気の曲が欲しいんです」というイメージを菅野さんに伝えました。効果音についても、どうすればこの世界観に溶け込めるかをすごく意識して作っています。
未来へ繋ぐ「希望の子」
──今作は、今後予定されているオリジナルシリーズへと続いていきます。今回の短編は、どのような役割を担うエピソードになるのでしょうか?
塩谷:まさに、シリーズに「繋ぐ」ための物語です。
前作で旅に出たカーラが、今作での経験を経て、自らの意志で未来を切り拓いていく為の“覚悟”を決める物語。彼女の変化・成長を描くことが、この短編に与えられた最大の役割だと考えています。このエピソードを通して、観客の皆さんにはカーラという人物がどういう女の子なのか、彼女がこれから何を目指し何を成そうとしていくのか、その一端を感じて、今後の配信されるシリーズをより楽しみに待っていていただけたら嬉しいです。
──最後に、今作で描かれたカーラの成長、そしてこれから始まる壮大なシリーズを楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします。
塩谷:前作から始まり、今作があり、そして今後のシリーズへと、カーラの物語は続いていきます。「九人目のジェダイ」という、「スター・ウォーズ」の中の一つの作品が、これからどうなっていくのか。カーラという主人公が頑張っていく姿を、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。
[インタビュー/失野]