通信制高校でも週5日通う自閉症息子。一人での外出経験がなく電車通学が心配で待ち伏せしてみると…
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
心配だったASD(自閉スペクトラム症)息子の電車通学
ASD(自閉スペクトラム症)の太郎は通信制高校へ進学した。通信制といえど週に5日間通学する。
太郎が通う通信制高校は入学前の1月から2月の間で新入生の交流の意味を含めた通学日が数日間設けられていた。強制参加ではなく自由参加で、学校での学習だけでなく校外学習の日もあった。太郎は3回目の通学日のみ参加すると私に伝えてきた。
太郎が毎回通っていいことを知らないのではないかと思い全て参加していいことを伝えたが、3回目の参加のみを選んだ。本人の意思が固いためその通りにさせようと決めていた。
通信制の高校の先生からも1、2回目と不参加の太郎を心配しての電話が入った。「太郎さん大丈夫ですか?面接で電車通学が心配とも言われていたので……」と電車通学が心配なことも覚えてくださっていた。すごいフォロー力だとこの時もこの高校の良さを感じた。太郎が3回目しか参加の意思がないことを伝えると先生は安心されて「お待ちしております」と言ってくださった。
太郎は公共交通機関も苦手としていて吐き気を催すことが多かった。だから電車に乗る練習を一緒にしようと私の方から誘ったが、放課後等デイサービスのスタッフとの電車体験(※)があるから大丈夫だとソフトに断られた。私は自主練習もした方が良いのではと伝えたがそこも「大丈夫」と一言返ってくるのみであった。
一人で外出もしたことがないし、お店のスタッフの前では話もできずに固まるし、周りの会話には入らないし、アナログ時計を読むことができないし……。私は不安ばっかりであった。
(※)対応は放課後等デイサービスによって異なります
電車に乗るにあたって電車の時刻表のアプリの使い方、読み方を太郎に教えた。スマートフォンについては私よりも詳しいためすぐに使用することができた。もちろん抜き打ちで「明日何時何分に何駅に着くには何時何分の電車に乗ればいい?」と質問して時刻を調べてもらうこともしていた。この抜き打ちテストには難なくクリアできていた。
これで行きも帰りも電車の時刻を調べることには困らないなと私の心配が一つ減った(全ては私の安心のためにしている笑)。あとは分からないことがあったら駅員さんになんでも聞くように伝えた。質問することは恥ずかしいことではないからと何回も言った。
放課後等デイサービスのスタッフの方との電車体験は、「特に問題なかった、これで一人でも行ける」と自信をつけて帰ってきた。
その一週間後が体験通学の日であった。私は太郎が心配で学校近くの駅で隠れて待ち伏せしていた。以前も同じような光景があったなと自分で思い出したりもした。
待ち伏せしている状態で太郎に電車に乗れたか確認のメッセージを送ると「乗れた」と返ってきた。太郎のメッセージはいつも単語で素っ気ない(太郎らしい)。乗れたならあとは無事目的の駅で降りてくるのを待つだけだと思いながらも「吐き気は大丈夫かな」「ドキドキしていないかな」など考えて多分私のほうがドキドキしていたのかもしれない。
そして太郎が駅から現れた。周りも見ることなく目的地に向かって真っ直ぐ、ひょこひょこスンスンと歩いていた。その姿を見て心の中で「太郎ー!頑張れー!」「頑張ったねー!やったねー!」と大きな声を出していた。心の中だけでは物足りなくなってついに声に出してしまった。
「太郎ちゃーん!おーい!」そう言って私は手を大きく振った。太郎は私に気づくとチラッと見て少しずつ近づいてきた。「やったね!行ってらっしゃい!」そう声をかけると太郎はこくんとうなずいて学校の方へ向かった。
その後ろ姿を見て太郎の成長を目の当たりにしたような気がした。なんだか大きな第一歩を私は見られたのかもと思った。
まとめ
4月以降、ほぼ毎日電車に乗って通学をしています。公共交通機関が苦手、一人で外出をしたことがない。それがすべて嘘だったかのようです。
何か明確な目的があればきっとどこにでも行けるのだろうなと感じた出来事でした。そこにはもちろん放課後等デイサービスの先生方や通信制高校の先生からの声かけなど周りの人たちの支えと本人の意思が重なってのことであると感じています。
執筆/まゆん
(監修:初川先生より)
太郎くんの電車通学にまつわるエピソードをありがとうございます。高校入学にあたって電車に乗る、しかも一人で乗るという子も結構いらっしゃると思います。これまでのコラムの中でも、太郎くんは各種練習について自分でどうするのか決めて、それをやり遂げることができるお子さんでしたね。今回も高校入学前の体験通学日の参加の仕方や、電車通学の練習について、自分で決めて、その通りにやり遂げていて何よりだなと感じます。
今は電車の時刻表アプリがあったり、そもそもスマートフォンを持っているから連絡が取りやすかったりととても便利な世の中になりました。そうしたツールも使いながら、できる範囲での予行練習(電車の乗り方の抜き打ちテスト、いいですね)をして、ハラハラしながら見守るまゆんさんの思いも、とても伝わってきました。体験通学の日、まゆんさんは待ち伏せしながら待たれていたのですね。後ろからバレないように尾行する方も多いだろう中で、待ち伏せするのは太郎くんを信用しているんだなという感じもしました。太郎くん、順調に電車通学できているとのこと、何よりです。明確な目的や頑張りたいという思いなどがあると、子どもはぐんと成長することがありますね。今回の高校進学もその1つだったのだろうと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。