「極右ゴロと握手」は既視感ありすぎ?“保身のための虐殺”を暴露する衝撃作『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』
ネタニヤフの大罪を暴く
イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフの汚職裁判に際して行われた、警察による尋問。その様子が初めて世界に向けて流出・公開された。
ネタニヤフの野太い声が部屋に響き渡る。「思い込みだ」「何もない」「理不尽な捜査」「首相を罪に陥れるなんて異常だ」――憮然とした表情で警察を怒鳴りつけるネタニヤフ。汚職による逮捕への恐怖をにじませているものの、その不遜な態度からは、これまで何度も握りつぶしてきたという自負もにじませる。
汚職で起訴されパニック→極右ゴロを取り込んで完全闇堕ち
※注意:作品内での言及や構成に一部触れています。
11月8日(土)公開のドキュメンタリー映画『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』は、ほぼ全編が先述の尋問映像で構成されている。その合間に、ネタニヤフをよく知る関係者や旧友、ジャーナリストの証言、そして現在に至る彼の半生が挿入され、彼の<嘘>が都度暴かれていく(※出演者の詳細や時系列については公式サイトを要確認)。
ネタニヤフが問われているのは巨額の収賄罪。警察に尋問された関係者の中には、「これ(映像)が流出したら終わる」と狼狽する者もいる。英国アカデミー賞受賞作品にも関わってきたハリウッドの大物プロデューサーであり、武器商人だった過去を持つアーノン・ミルチャンもネタニヤフの“太客”の一人で、大量の貢物と引き換えに政策をねじ曲げるほどのコネを得てきた。
イスラエルでは過去、ネタニヤフよりも軽い罪で刑務所送りになった首相もいる。そうした前例があるからこそ彼は、批判的な国民やメディアに責任を転嫁し、自分を陥れるための陰謀だとうそぶき、誠意に欠けた(私たちも日常的に見覚えのある)言動で煙に巻こうとする。強欲で支配的な彼の妻サラの存在はまるでソープオペラだし、独裁思想に染まった息子ヤイールも王族気どりだ。
尋問が進むにつれ当初の余裕はなくなり、机をバシバシと叩いて逆ギレしまくるネタニヤフ。ここまでシコシコと違法に溜め込んできたアレコレは、些細な罪であれ服役となれば一瞬で崩れ落ちかねない。ところがいざ起訴されるや、なんとネタニヤフは前科持ちの危険人物たちとの”連合”によって発言力を強化し、問題のすり替えを図る。その危険人物とは、「もし彼が退陣しても後ろにはさらなる過激派がいる」と揶揄されていたフダツキの極右ゴロだ。このなりふり構わない態度が、某国の現与党政権による排外ポピュリズム的ムーブと酷似していることは言うまでもない。
権力維持のための侵略戦争、終わらない大量虐殺と民族浄化
自身の老い先がかかっているネタニヤフは、こうして対テロ戦争という建前を掲げて“非常事態”を作り上げ、保身のために汲々としつつも、その手を血に染めている。抵抗勢力をテロリストと呼んで憎悪を煽り、難癖をつけては苛烈な攻撃を繰り返し、のっぴきならない状況であることを大げさにアピールして。すべては自らが長年積み重ねてきた罪から逃れるために。
2023年10月7日に端を発する……という詭弁は、もう通用しない。あの日を境に起こったのは“権力維持のための大量虐殺”であり、その地獄の門のテープカットを主導したのがネタニヤフと、権力の器に便乗した戦争犯罪者たちだ。その結果、乳幼児を含む6万人以上が殺害され、どう控えめに見積もっても正当化できない非人道的な行為が現在も続いている。“停戦”が発効してから1ヶ月弱が経過した今、この瞬間にも。
本作では歴史的背景、パレスチナ入植や非人道的な侵略行為についてはほとんど語られない。それでも“10.07”に至った主要因を把握し、イスラエル国民も憤る愚策が導火線になったことを知るために、いまこそ観ておきたいドキュメンタリーだ。
『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』は11月8日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか公開