沖縄・南大東島の深海から続々と発見される新種の生物たち 吸盤を持つ<ゴカイ>&緑色に光る<スナギンチャク>
南大東島周辺海域の深海域を中心に行われている調査・研究「D-ARK(Deep-sea Archaic Refugia in Karst)」。
このプロジェクトでは、代表機関であるJAMSTEC(海洋研究開発機構)と様々な大学、研究所が共同で研究を実施。深海洞窟など未知の海域を探査し、生物多様性を明らかにすることを目的としています。
これまでに日本初記録となるホラアナヒスイヤセムツ、新種のダイトウヒメクマノアシツキを発見。さらに今月、D-ARKで採集された無脊椎動物2種が新種記載されたようです。
海洋のうちほとんどが深海深海という環境
地球は水の惑星と呼ばれるように表面の約7割が海で覆われています。さらに、この海洋のうちほとんどが深海と呼ばれる環境です。
ここでは高圧、暗闇、低温、飢餓という過酷な環境が広がっており、素晴らしい進化を遂げた生物たちが数多く生息。加えて、深海という場所は人間がアクセスするのは非常に難しく、そこで形成されている生態系の多くが謎に包まれています。
これまで、深海における生物調査では大型の網で海底を引きずる底曳網をはじめ、ドレッジや釣り(延縄)等の手法が用いられてきました。しかし、これらの手法、特に底曳網とドレッジについては、複雑な地形を有する環境では採集が難しいのが現状です。
大東諸島が保有するカルスト地形
沖縄本島の東方に位置する大東諸島は大規模なカルスト地形を有し、海底にはサンゴ礁の沈降により複雑な洞窟や亀裂、孔が存在します。
こうした複雑な地形では未知の生物が生息していると考えられていたものの、従来の底曳網などによる生物採集は困難でした。
しかし近年、ROVが登場したことにより、アクセスが非常に難しい深海環境の生物の観察が実現。さらに、生物の採集が可能なROVの登場は、新種や日本初記録種の発見に大きく貢献しています。
D-ARKは深海洞窟を調査し未知の生物多様性を明らかに
JAMSTECが代表機関となり実施されている調査・研究「D-ARK」。このプロジェクトの舞台はまさに南大東島周辺海域です。
本研究では、まだ調査が十分に行われていない、深海洞窟を調査し未知の生物多様性を明らかにすることを目的としています。
また、この調査では深海洞窟の謎を解くべく様々な分野のプロフェッショナルが集結。調査機器も最新のROVや小型機器が用いられていることも大きな特徴です。
2024年4月27日~5月11日の初航海の後、早くも成果が出ており、これまでに多毛類の新種ダイトウヒメクマノアシツキFlabelligena daitoensis 、日本初記録種のホラアナヒスイヤセムツEpigonus glossodontus が、今年の5月にはダイトウキノボリヒモムシAlvinonemertes daitoensis が新種記載されました。
そして、ダイトウキノボリヒモムシの新種記載がまだ記憶に新しい中、今年の11月には南大東島から得られた生物2種について新種記載が行われています。
吸盤を持つゴカイ
2025年11月3日、「Scientific Reports」に掲載された論文(New deep sea terebellid polychaete with sucker like ventral pads adapted to a sediment free environment)では南大東島沖から得られたフサゴカイ類 Lanice spongicola (和名:キュウバンフサゴカイ)が新種記載されました。
キュウバンフサゴカイ Lanice spongicola が発見された南大東島沖の深海は、サンゴ礁が沈降してできたカルスト地形が広がっています。しかし、この海底は急な斜面であることから、堆積物がほとんどありません。堆積物の中に巣をつくるフサゴカイ類には向かない環境です。
一方、この環境には堆積物がないもののガラスのような骨格を持つスギノキカイメンが生息しています。そして、スギノキカイメンの表面に張り付いて巣を作っていたのが本種だったようです。
また、他のフサゴカイにない吸盤を持つことも本種の特徴で、堆積物のない環境に適応するために吸盤を獲得したと考えられています。
キュウバンフサゴカイという和名はこの吸盤を持つという大きな特徴に因んでいるようです。
輝くスナイソギンチャク
キュウバンフサゴカイの論文が出版された2日後の11月5日には「Royal Society Open Access」に掲載された論文(Glow in the D-ARK: a new bioluminescent species of Corallizoanthus (Anthozoa: Zoantharia: Parazoanthidae) from southern Japan)で南大東島から得られたスナギンチャクが新種記載されています。
本種は古い言葉で大東島を意味する「ウフワガリ島」に因み、ウフワガリアカサンゴスナギンチャクと命名。また、スナギンチャク目の中には、発光する種の存在が既に知られていたため、本種も発光する可能性があるとして実験が行われています。
実験の結果、本種に発光能力が認められ、ポリプ1つ1つが緑色に点滅していたそうです。
さらに、本種と他のスナギンチャクで遺伝子情報を比較したところ、少なくともスナギンチャク目センナリスナギンチャク科では発光能力を持つ種が同一の系統群に属することが明らかになっています。
このことから発光はこの科で共通した能力である可能性が示されたのです。
まだまだ未知の生物は見つかる
D-ARKはまだ始まって間もないプロジェクトですが、すでに新種・日本初記録種が複数報告されています。今後の研究でも未知の生物が発見されることは間違いないでしょう。
このプロジェクトで調査対象となっているのは古代の環境を残していると言われている海底洞窟。海外ではムカシウナギやシーラカンスが発見されている環境です。
もしかすると、大東島から古代生物が見つかるかもしれませんね。
(サカナト編集部)