【サックス奏者・渡辺貞夫さんインタビュー】91歳で生涯現役。8月31日の静岡公演、新作「PEACE」のこと
演奏者としてのキャリアが70年を超えてなお、精力的なライブ活動を続けるサックス奏者の渡辺貞夫さん。8月31日には、静岡市葵区の市民文化会館でエレクトリックバンドを率いた公演がある。来静まで1カ月となった7月下旬、東京・大久保のリハーサルスタジオを訪ね、今回の公演や4月の新作「PEACE」について聞いた。(聞き手=論説委員・橋爪充)
ツアー名が「RENDEZVOUS」のわけ
-今回のツアー名は1984年録音のアルバム「RENDEZVOUS」(ランデブー)から取っていますね。全米ビルボード・ジャズ・チャート2位 にも入った代表作の一つです。この意図を教えてください。
(渡辺)ツアーのたびに毎回選曲して、シークエンスを作っていますが、今回は変化がほしいということですよね。1980年代の「ランデブー」「カリフォルニア・シャワー」あたりを懐かしんで聴いてもらいたいなと。リズミックなアルバムだから、8月という夏の時期にちょうどいいんじゃないでしょうか。
-「ランデブー」はラルフ・マクドナルドのプロデュースで、スティーブ・ガッド(ドラムス)、マーカス・ミラー(ベース)ら豪華なメンバーがそろっていました。
(渡辺)それまではデイブ・グルーシンにプロデュースをお願いしていたんですが、ちょっと気分を変えようと思ってラルフに声をかけました。当時、一番活躍していたミュージシャンが集められたと思います。ラルフが『歌が入るとアルバムの売れ行きがいいから』というので、ロバータ(・フラック)にも参加してもらって」
-ジャンル横断的なサウンドで、ビルボードのジャズ・チャートの2位まで上がりました。
(渡辺)当時のアップ・トゥ・デートというと、やっぱりロックなんですよね。気分的にそういうリズムの時代だった。チャートが良かったのはロバータがいたからじゃないかな。
-今回のツアーのメンバーは渡辺さん、小野塚晃さん (キーボード)、養父貴さん(ギター)、三嶋大輝さん (ベース)=藤枝市出身=、竹村一哲さん(ドラムス)、ンジャセ・ニャンさん(パーカッション)の6人編成です。リズム隊に比較的若い世代を起用していますね。
(渡辺)特に意図はないです。竹村はすごくいいんで。このところずっと使っています。その竹村が三嶋を紹介してくれた。去年の暮れに会ってみたら、期待一杯のミュージシャンだと分かりました。彼は「当たり」です。よくジャズを聴いている感じがしますね。今までになくベースソロをさせているんですが、非常に好感の持てるソロです。
アルバム「PEACE」に込めた思い
-4月下旬発表の新作「PEACE」は前作「リバップ」から7年ぶりのスタジオ・アルバムですね。バラードが中心ですが、制作に至ったいきさつは。
(渡辺)だいぶ前からバラードアルバムを作りたいと思っていたんです。結婚当初家内と聴いていたフランク・シナトラ の「 In The Wee Small Hours」が頭にありました。ドラマーは(竹村)一哲。後は好きなミュージシャン2人、ラッセル・フェランテ(ピアノ)、ベン・ウィリアムス (ベース)に声をかけて、去年の暮れ、ツアーが終わった後にスタジオに入りました。
-2024年に「PEACE」というタイトルのアルバムを出すということは、世界中で続く紛争や戦闘が頭にあったのですか?
(渡辺)ありましたね。フェイクブック(楽曲集)をパラパラめくっていたら、「そういえば、昔『PEACE』っていう曲を演奏したな」と思い出したんです。探したら(ピアニスト)ホレス・シルバーのピースが出てきた。もう「これだ」と。1曲目に入れました。
-レコーディングはどのように進めたのですか?
(渡辺)曲目は最初からぼくが決めていました。全曲、1回リハーサルして1テイクです。どのアルバムもそうです。
-ビリー・ホリデイの「I’m A Fool To Want You」、アントニオ・カルロス・ジョビン「Eu Sei Que Vou Te Amor」 を取り上げた理由は?
(渡辺)僕の好きな曲だから。いい具合にセレクトできたと思います。アルバム全部バラードだとさすがにキツいので、ジョビンを入れることにしました。
-全体を通して、今どんなふうに聴こえていますか?
(渡辺)気に入っていますよ。アルバム作ってから、こんなに聴き返すのは珍しいんじゃないかな。いつも12回しか聴かないので。
「しょうがない、性格なんで」
-齢91にして、キャリア70年以上。演奏がしんどくなったりしないものですか?
(渡辺)好きなことをやっているだけだから。でも今も、ライブが終わるともっと違う歌い方があったんじゃないかとか、これは必要なかったんじゃないかとか、思うことがある。演奏している時は納得しているんですが。
-「いい音」のイメージをどう捉えていますか?
(渡辺)僕の音について、僕は僕なりに自信を持っています。他の人に負けないぞというより、誰とも違う音だという自負があります。この楽器を吹くのは結構しんどいんですよ。楽できたらいいなっていつも思っている。でも、いざとなるとそうはならないですね。しょうがない。(こういう)性格なんで。
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■「渡辺貞夫グループ」のライブ「RENDEZVOUS」
日時:8月31日午後6時開始
会場:静岡市民文化会館中ホール(同市葵区)
入場料:全席指定一般9500円、大学生以下4000円
問い合わせ:054-284-9999(サンデーフォーク静岡)