【福岡市・六本松】朝定食から炉端焼きまで、"素材のギアを上げる"干物マジック
六本松のディープな飲食スポットとして知られる「京極街」。そのすぐ隣にできた新築ビルの1階にこの4月、以前「UMAGA」でも紹介した春吉の超人気海鮮居酒屋「魚ト肴 いとおかし」の姉妹店「炉端ノいとおかし」がオープンしました。
本店は長浜市場や九州各地の漁港から取り寄せる新鮮な魚が評判ですが、こちらではあえて生の魚は提供していません。大将の泊信志さんが、「素材のギアを上げる」と表現する"干物"で勝負する期待の新店です。
16時開店というまだ日の高い時間に店を訪ねると、店頭には開いた魚やホタルイカ、貝柱が天日干しにされていました。まるで呼子あたりの漁港を思わせる光景に、大将の本気度が伝わってきます。素材によって塩分濃度を変え、吟醸酒、炒り酒、ナンプラーなどの隠し味を加えた漬け汁に漬け込んだ後天日干しにし、さらに1度冷凍するのがポイントだとか。一枚の干物に、板前として15年以上の経験から魚介類の扱いを知り尽くした泊さんの技が凝縮されています。
「いらっしゃいませっ!」という威勢の良い挨拶に迎えられていざ店内へ。縦に長いカウンターには、客の目の前に1人1台の炉が設置されています。彫刻が施された欄間や障子の設えや、古い家具などを配した内装も趣きがあり、新築のビルとは思えない雰囲気です。
席に着くなり炉に火を熾した炭が用意され、挨拶代わりのお通しにその日オススメの干物を焼いてくれます。冷たいビールで喉を潤しながらメニューを眺め、まずは名物という「まぐ炉もり」を注文しました。マグロ専門の仲卸から仕入れるのは、刺身でも食べられる新鮮な中トロやホホ肉、脳天などの希少部位。漬けや一夜干しなどそれぞれに味付けと薬味を変え、順番に焼いてくれます。最後のトロがっこ手巻きは、「どうぞ!」と笑顔のスタッフから手渡しで。この内容で1人前1280円は、かなりのお値打ち価格です。
次に注文したのは、その名も「本気ノ肉豆腐」(1200円)。小ぶりな鍋で煮込んだ国産和牛と豆腐に卵をトッピング(+100円)すれば、これはもうほとんどすき焼きです(笑)。残った汁にご飯を入れてチーズを焼いたリゾット(+250円)も絶品なので、ぜひお試しを。
そして、メインの"いとおかしな干物"たちは、「銀鮭」や「銀鱈みりん」などの定番が890円から揃っています。写真は対馬産の「穴子白焼き」(1200円)、滅多に食べられない希少部位の「マグロテール」(1600円)、さらに魚だけでなく鶏のもも肉一枚を干した「若鶏一夜干し」(890円)も。どれも素材の持ち味を生かしつつ、漬け方を変えて一段ギアを上げたおいしさに仕上がっています。正直これまで刺身よりも下に見ていた干物の概念が、あっさりと覆されました。
また、春吉の本店で行列ができるほど人気の朝食を、こちらでも提供しています。メニューは今のところ「銀鮭定食」(1800円)一本で、塩漬けにして3日間かけて仕込んだ銀鮭をメインに、ゴマ鯛、高知産のアサリ汁、小鉢、釜炊きご飯といった充実のラインナップ。朝9時から12時半オーダーストップなので、旅行者などの朝食はもちろん、ランチとしてもギリギリ間に合います。
「食材の季節感とスタッフのおもてなしで、お客様に趣きと風情を感じてほしい」と、店名の「いとおかし」に込められた思いを語る大将の泊さん。これから夏にかけては、少し早めに行って店先の縁側でしばし夕涼みをするのも良さそうです。
炉端ノいとおかし
福岡市中央区六本松2-3-13
092-406-8690