専業主婦からパートに。働けるか不安もあったけれど、メリットの方が大きかった
結婚を機に退職した後、12年間専業主婦をしていた塩辛いか乃さん。
子どもが小学校高学年になり、通塾で家を空けることが増えたのを機に、数年前にパートタイムで仕事復帰しました。
ブランクや体力面、子育てとの両立など不安要素はたくさんあったものの、仕事を通じて世界が広がり、働くことに想像以上のポジティブな効果を感じたそうです。
こんにちは、塩辛いか乃です。記事の執筆やWeb制作会社でのプランナー業務を中心に、フリーランスとして活動しています。
今は自分の好きな「書くこと」を仕事にできていますが、結婚後に専業主婦になってからは、長らくどこか満たされずモヤモヤする日々を過ごしていました。
そこから抜け出すきっかけとなったのは、偶然見つけたパートタイムの求人でした。
「家族以外の誰か」に認められたかった専業主婦時代
仕事を離れ専業主婦になることを選んだのは、社会人になって10年目のことでした。仕事は好きでしたが、結婚を機に「家事育児に専念してみたい」と思い、勤めていたIT企業を退職。「主婦として頑張っていくぞ」とやる気満々で新婚生活をスタートしました。
しかし近所に友人がおらず平日はいつもひとり。さらに、専業主婦になってみて初めて、自分は家事が苦手なんだと気づいてしまったのです。
「専業主婦になったら、平日昼間におしゃれなカフェで友人たちとゆっくりランチしよう」「テラスで育てたハーブを使って丁寧にパンを作りたい」というぬるい想像とはかけ離れた生活にモヤモヤしているうちに妊娠し、あれよあれよと息子を出産。
はじめての育児に戸惑いつつも、息子と過ごす時間は幸せでしたし、ママ友もできてひとり孤独に過ごすことはなくなりました。けれど常に、何か物足りない気持ちがありました。
振り返ってみると、当時は「家族以外の誰かに認められる」ことに飢えていたのだと思います。苦手な家事を頑張っても、神経をすり減らしながら育児をしても、誰にも褒めてもらえない。当時は夫も忙しく、また私自身も家族以外の人との交流を深く持てていなかったこともあり、悶々とした日々を過ごしていました。
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再び一人の時間が増え「今なら働けるかも?」
そんな日々の中で、仕事復帰が頭をよぎったことは何度もありました。特にその思いが強くなったのは、子どもが小学生に上がった頃。周りの専業主婦仲間がちらほらとパートタイムで仕事に復帰し始め、わたしも「パートで働く」ことに興味が湧いてきました。
しかし、内気な息子は放課後の学童保育を断固拒否。またわたしは心配性なので「もし子どもが急に熱を出しても仕事を休めなかったらどうしよう」「パートを始めたら気持ちや時間の余裕がなくなってしまうのでは」という不安から「そのうち、育児がもう少し落ち着いたら……」と二の足を踏む状態が続きました。
ようやく気持ちに変化が訪れたのは、子どもが小学校高学年になったときでした。
中学受験をするため5年生から塾に通いはじめた息子は、6年生の夏休みは夏期講習でほぼ毎日家を空けるように。
送迎とお弁当作りは必要だったものの、それ以外特にサポートすることもなく、突然ひとりの時間が増えたのです。
ふと「今なら働けるのでは?」と思い求人情報を眺めてみると、自宅から歩いてすぐの場所にできるリユースショップが、オープニングスタッフを募集していました。
長年温めてきた「いつか」が今だ!と反射的に応募し、早速面接を受けることにしました。
面接では条件面のほか、働く上でハードルに感じていた「子どもが急に熱を出した際にお休みをいただけるか心配です」という不安も正直に伝えてみました。面接官だった女性社員の方には小さいお子さんがおり、わたしの気持ちに共感してくれた上で「その場合は休んで大丈夫ですよ」と笑顔で答えてくれました。ここならやっていけそう。
すぐに採用の連絡をいただき、あっという間にパートデビューが決定! あまりに展開が早過ぎて、夫には事後報告になりました(笑)
専業主婦になってから10年超。悶々(もんもん)とする期間がとても長かったですが、「その期間でさえも、この一瞬のためにあったのだ」というくらいスパっとハマった感覚がありました。
体力や家庭との両立……働く前の不安はどんどん解消
とはいえ長い長い専業主婦時代からのパートデビュー。
「40代で体力もないのに大丈夫か?」「夏休み明け、仕事から帰ってすぐに塾のための弁当作りと送迎なんてできるのか?」「そもそも時間通りに帰れなかったらどうしよう?」など心配がエンドレスに出てくる出てくる。
そんなときは「もしやってみて、どうしても無理だったらやめればいい」と自分に言い聞かせました。
ですがパートが始まると、それらの不安はどんどん解消されていきました。
心配していた体力面は、職場の活気のおかげかむしろ家でぼーっとしているよりも気力が湧き、働き始めた方が体調がよくなるという事態に。
30代の店長、40代の女性社員、幼稚園生の子どもを持つ女性、孫がいる60代の主婦の方、大学生のアルバイトなどさまざまな年齢の人と一緒に働けるほか、お店にはいろんなお客さんがやってきます。
毎日必ず同じ時間に来るおじさん、新生活のために家具や家電を揃えに来る親子、ワイワイ賑やかに掘り出し物を探しに来るご婦人方……子育て生活でこんなにいろいろな人と関わることがなかったので、それだけでものすごく刺激的。
パート仲間と休憩中に「今晩のおかず何にする?」と雑談をするのも、お客さんと「これ、掘り出し物ですよね!」と談笑したり、古着で全身コーディネートしてあげて喜ばれたりすることも全てが新鮮で楽しく、充実感が疲れを上回っていました。
不安の多くを占めていた「子育てとの両立」も、子育てに理解がある職場環境のおかげで特に問題なし。子どもの体調不良時などはシフトを調整してもらえました。
「子どもと接する余裕がなくなってしまうのでは」という心配も杞憂でした。子どもと言い合いした翌日も仕事に行けば気分転換ができ、逆に職場で嫌なことがあっても、帰って家族の顔を見るとほっとする。家庭と職場、ふたつの場所に身を置くことで、かえって心にゆとりが生まれたのです。
「仕事が早いね」と店長から褒められることや、働いた成果がお給料になることも達成感につながりました。初めての給料はたしか3万円ほどでしたが、久しぶりのお給料は格別の喜びでした。
さらに、自身では「ブランク」ととらえていた専業主婦期間が、思わぬ形で仕事にも生きることを実感したのは大きな発見でした。
専業主婦として育児をしながら過ごしてきた日々は、会社員時代とはまったく違う立場で社会を見るよい機会でした。世の中にはいろんな人がいて、いろいろな価値観があり、さまざまな立場の人が支え合うことで成り立っていると実感し、以前より他人に寛容になれている自分に気づいたのです。
そうした内面的な変化は、多様な価値観・年代の人と接する仕事においてとても役立ちました。
パートとして働き始めたことが人生の転機になり、次のステップへ
息子が無事中学校に入学してからもパートを続けていましたが、年上のパート仲間の「年齢的に、もう立ち仕事はきついわ」というひとことを機に、少し先の働き方について考えるようになりました。
まだピンとこないけれど、きっとわたしにも体力の限界は来る。その日のために、より長く続けられそうな仕事も並行して準備しようと考えました。
昔から書くことが好きだったわたしは、ひとまず「ライターの仕事をしてみたい」と思いブログを立ち上げることに。「10年後までにはライターとして身を立てたい!」と目標を掲げ、夕方までパートをして夜はブログを書く生活を1年間続けたところ、少しずつお仕事をいただけるようになりました。
そして徐々にライターの仕事が増え、両立が難しくなったため、丸5年間お世話になったパートの職場を退職することを決めました。
結果的に辞めることにはなりましたが、パートとして再び働き出したことがわたしの人生の転機になったことは間違いありません。
今でもときどき近況報告をし合うほど気の合う同僚に恵まれましたし、ブログをコツコツ書き続けられたのも、パートで安定した収入があり「早く稼がなきゃ」という焦りがなかったおかげです。
モヤモヤを感じていた専業主婦生活から、思い切って仕事復帰してみると、始める前には山ほどあった心配事のほとんどは杞憂に終わり、その先は新たな刺激と楽しさとやりがいに満ち満ちていました。
もちろん、家事・育児にやりがいを感じる人、専業主婦(主夫)が向いている人もいるはずで、「誰もが働くべき」とは思っていません。
ただ、もし今「子育てが少し落ち着いてきたから、そろそろ仕事をしてみようかな」「でもブランクがあるし働けるか不安だな」と考えていらっしゃる方がいたら、ほんの少しだけ勇気を出して、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
もしかしたら、それが新たな世界につながる扉になるかもしれません。
編集:はてな編集部
著者:塩辛いか乃
世の中の当たり前を疑うアラフィフ主婦ライター。同志社大学文学部英文学科卒。繊細マイペース息子と20歳年上の旦那と3人暮らし。乳がんサバイバー(乳房全摘・抗がん剤)。K-POPとフラメンコに夢中。