全公開【子育て中のリスキリング】“国家試験合格“への道 発達障害のシングルマザーが見つけた「頭に残る」勉強法
シングルマザーの『リスキリング』挑戦。第3回~ポンコツ脳の壁~。アラフォーのフリーランス、シングルマザー、さらに“抜けもれ”の多いADHDの特性を持つママライターが国家試験「社会福祉士」に挑み合格をつかんだ勉強法をルポ。
【写真➡】試行錯誤を繰り返し自分に合った勉強法を見つけるまで社会人になってからも学習を続ける「リスキリング(学び直し)」は、政府の支援もあり、子育て世代にも広がりつつあります。シングルマザーでフリーライターの藤川ユキさんは、国家試験「社会福祉士」を目指し通信制養成校に入ったものの、仕事・子育てに追われ、勉強はさっぱり進まないまま卒業。それでもなんとか無事に試験合格までたどり着けました。
第3回は、発達障害のADHD(注意欠陥・多動症)でもあるというユキさんの学習法と、モチベーションアップについて。
どう勉強したらよいのかまるで見当がつかなかった1年目
私がめざす社会福祉士の国家試験日は2025年2月2日だった。試験に合格するための勉強時間の目安は、一般的に300時間程度だといわれている。1日2時間勉強すれば約5ヵ月、1日1時間勉強すれば10ヵ月ほどだ。
それだけ聞くと実現可能にも思えるけど、常に何かが勃発し、計画倒れになりがちなのが子育て世代だ。スタートは早ければ早いほど有利なのは間違いない。……そうわかっていながらも、結局私が本格的に勉強へ取りかかれたのは、2024年の11月下旬以降、つまり試験の約2ヵ月前だった。
もちろん、それまで一切勉強していなかったわけではない。たとえば、2023年の秋ごろ、試験対策用のテキストを買って持ち歩き、暗記にチャレンジしたことがあった。だけど、全く頭に入らず、読んだ1秒後にはすっかり忘れてしまう。ほかにも、過去問アプリをスマホにダウンロードして、隙間時間に解いて解説を見ることもあった。でもやっぱり覚えられない。
今思えば、これらの勉強は、知識のない私がいきなりインプットするには難しすぎた。ひと通りの勉強を終えた段階で使えば知識の強化になったはずだ。要は、教材を使うタイミングを間違えていたのだ。
養成校指定のテキスト群。これ全てが出題範囲だとか……。中身を開くと似たようなカタカナ言葉や制度名などが羅列されていて全く頭に入らなかった。
覚えられない&わからないを繰り返し、勉強の暗中模索が続いていた2024年4月、あるYouTube動画を見つけた。
その無料動画は、小難しい制度や法律などの内容を、わかりやすくかみくだきながら、なぜその制度ができたのか、どんな意味があるのか、背景を交えてストーリー形式で解説してくれるのだ。これは私の「わからない」に画期的に響いた。
また、語呂合わせや替え歌による暗記法も多数教えてくれ、これもありがたかった。
たとえば、杖歩行についての問題。
杖歩行の順番は、平地では「杖→患側の足→健側の足」、階段をあがるときは「杖→健側→患側」、階段を下るときは「杖→患側→健側」。
この問題は何度解いても、理由を理解していても、どうしても覚えられなかった。それが、階段をあがるとき以外は「つっかけ」(「つ」=「杖」、「か」=「患」、「け」=「健」)と覚えればよいと聞いて、二度と間違えることはなくなった。学生時代も「鳴くよ(794)ウグイス平安京」を覚えたっけ。語呂合わせはやはり強い!
YouTubeには勉強の仕方やスケジュールも示されていた。まずは、その先生がYouTubeにあげた160本超の講義動画を3周は見ること。動画を見た後に、動画に応じたテキストを読み、知識を定着させていく。なお、動画とテキストは、解説後は必ず過去問があり、インプットの直後にアウトプットできる構成になっていた。
勉強の方向性が少しだけ見え、動画を見始めたのは2024年の5月ごろ。試験まで約8ヵ月、この時期からちゃんと始めれば、余裕で「動画を3周」できるという。だが、前回(#2)述べたように、何度勉強計画を立てても、子どもと自分の体調不良などでことごとく破綻していた。
2024年9月になっても、10月になっても、1周目すら見終わらない。せめて、11月の模試に向けて1周目を終え、膨大な試験範囲を一通り網羅はしたい。そんな目標もかなわなかった。
1つ覚えると1つ忘れる
スケジュール以外で困ったのは、自分の「忘却」っぷりだ。動画を見て理解したつもり、覚えたつもりでも、なぜか翌日にはキレイサッパリ忘れているのだ。もとより、気が散りやすく注意散漫なADHDである。動画を視聴しながら無意識に別のことを考えてしまう癖がある。
ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスは「覚えたことの7割は翌日忘れている」といったらしいが、私の場合、9割は忘れていた。
しかし、エビングハウスの理論では、繰り返し復習することで忘却率を下げ、記憶を定着させることができるという。いわゆる、「忘却曲線」の理論だ。動画の先生も、「動画を3周してやっと知識として定着する」と強調していた。
とはいえ、私には座ってじっくり動画を見る時間はほとんどなかった。そこで、食事中、入浴中、家事の最中など、あらゆる時間を動画視聴にあてていった。洗い物やドライヤーで髪を乾かしているときに聞きづらくならないよう、ワイヤレスイヤホンも買った。いわゆる「ながら視聴」「聞き流し」作戦である。
しかし残念ながら、私の場合、聞き流しはあまり頭に残らなかった。食事中や入浴中に集中してしっかり見る。これをひたすら繰り返すことが肝だとわかった。
試験の約3ヵ月前、11月に受けた第1回目の模試でも、私は合格基準点には6点足りなかった。さらにマークミスもしていた。ADHDの私、塗りつぶすときも集中力がいるのか……と気づいた。
第1回目の模試の結果は、合格基準点に達せず。マークミスによる失点も……。
「手で書いて口で唱える」がいいと判明
試験日まで残り約2ヵ月となった2024年12月、ようやく、160本超の動画を3周見終えることができた。しかし、暗記必須な勉強の半分も覚えられていない。どうしよう。
次に試したのが「壁貼り」作戦。どうしても覚えられないものは紙に書いて部屋に貼り、とにかく視界に入れる作戦だ。CMや流行歌もひんぱんに見聞きすることで自然と頭に残る。その手法を活用することにしたのだ。
とはいえ、我が家は母子2人、約30平米のワンルーム住まい。必然的に壁が足りない! トイレの壁はすぐに満室御礼、シンク周りの壁、引き戸、洗面所等々、家中の壁が見えなくなるほど紙でおおい尽くした。まるでメニューの短冊が壁一面に貼り尽くされた居酒屋のよう。もし誰かが訪れたら、異様な光景に映っただろう。
朝起きてトイレに向かう途中も、「福祉三法」「福祉六法」「福祉八法」などの各法律名や、日本人の死因ランキングなどを大声で唱える日々。いつしか、その隣で食事をしている息子まで、用語が頭に入っていた。なお、息子は今でも「日本人の死因TOP3」や、私でさえ忘れていた専門用語をスラスラ唱えられる。
並行して、12月末から単語帳も作り始めた。過去問などで間違えた箇所や記憶があやふやなところは全て単語帳に書くようにし、試験前日まで、全部で7個は作った。
細かい説明を書き写すのは、膨大な時間がかかる。だが、効果は抜群だった。「×」だらけだった予想問題集の正答率が飛躍的に上がったのだ。
カードに書く。寝る前や起床後に単語帳をめくって、見て、口に出す。こうした作業だけでも、頭に残っていく実感を得られた。単語帳がなかったら、絶対に合格に至らなかったと断言できる。
目に飛び込みやすい太字のマジックで書いては壁に貼った暗記モノ。
壁貼り用の暗記用紙や単語帳で、私は「手を使う」ことで頭に入っていくタイプだと実感した。書くことこそ、遠回りに見えて最大の近道なのだと確信。
単語帳や問題集を解くときは、25分集中して5分休憩を繰り返す「ポモドーロタイマー」のYouTube動画を流す勉強法に切り替えた。すると、メリハリができて集中力がUP。何かと気が散りやすい私には劇的な効果となった。
受験生が集うオープンチャットでモチベーションを維持
勉強にモチベーションは不可欠。私の場合、受験生仲間の存在が、モチベーションを上げてくれていた。
前述のYouTube講義動画では、1万数千円支払う有料会員になることで、受験生が集うオープンチャット(以下オプチャ)に入ることができた。試験2~3ヵ月前に入ったそのオプチャでは、語呂合わせ暗記法など有益な情報を多数得られた。
また、がんばっているのは私だけじゃないことがわかったのも、大きなモチベーションになった。私と同じシングル親のほか、介護者や夜勤勤めの人も多かったし、さらには育児と介護を同時に担う「ダブルケア」や、障害を抱えながら受験に挑む人等々、過酷な中で懸命に勉強時間を作っている人も少なくなかった。
何より救われたのは、「覚えた直後に忘れる」人がオプチャにごまんといたこと。私だけが特別にポンコツなわけじゃない。忘れるのは当たり前のことなんだ──。忘れても忘れても落ち込まずに勉強を続けられたのは、オプチャのおかげといっても過言ではない。
もうひとつ、忙しくて勉強時間を確保できない私を奮い立たせた言葉がある。養成校のスクーリング講師の一言だ。
「試験に不合格になった人には共通点があります。それは、家事、子育て、仕事など、“勉強できない言い訳”をしていた人です」
この訓戒が胸にあったおかげで、「○○だったから仕方ない」と逃げ道を作ることなく、背水の陣で勉強にのぞめた。
次回(第4回)は、試験直前期に現れた「魔物」との闘い、そして試験当日のパニックについて。
【やってよかった勉強法】
・わかりやすい解説動画を見つける
・暗記モノは「ストーリー」「語呂合わせ」「イメージ」で覚える
・「手で書く」
・最強アイテムは単語帳
・ポモドーロタイマーで集中力UP
・モチベーションの維持は勉強仲間の存在
取材・文/藤川ユキ
【プロフィール】
藤川ユキ
フリーライター。出版社勤務を経てフリーに。結婚・出産・離婚を経て、2025年7月現在、小5(10歳)の息子と2人暮らしをするアラフォーのシングルマザー。2023年4月に社会福祉士養成課程のある通信制養成校に入り、2024年9月に卒業。現在はライター業を続けている。