【静岡・久能山東照宮】「具足は将軍様そのもの」3将軍の甲冑を間近で見たい! 2月16日開催「御具足祭」
静岡市駿河区にある久能山東照宮の3大祭祀の一つ、春季大祭。その初日に行われるのが「御具足祭(おんぐそくさい)」です。具足とは甲冑(かっちゅう)のこと。いったいどんな祭りなのか徹底解説します!
春季大祭の初日「御具足祭」とは
徳川家康を祭る久能山東照宮の春季大祭は、毎年2月16日から18日まで行われます。
その初日に行われる祭儀が「御具足祭」。
15代にわたる徳川将軍のうち3人の将軍の具足を、3日間御社殿に飾ります。
幕末までは旧暦のお正月の行事として「具足飾」が行われていました。
なぜ具足を祭るのか?
具足祭は1年の平和を祈願する祭典です。
午前10時半から祝詞が上げられ、1時間ほどの祭典は一般に公開されます。
なぜ戦道具である具足が平和を願う祭典で飾られるのでしょうか。それは戦がなくなった徳川4代将軍以降も具足が作られた続けた理由と重なります。
久能山東照宮 権禰宜・竹上政崇さん:
歴代将軍が必ず具足を作った理由に、いざ本当に戦となった時に体を守る防具として作られることもありますが、使わなくて済みますようにというお守りの役割もありました。家の隆盛を願い、末長く平和を祈願するための具足でもあります
15代将軍のうち幕末を除くと、大きな戦があったのは3代将軍家光公の時代まででした。しかし4代以降も具足は作られ、7代目以外は複数領残っています。それらは実戦向けでなく、威厳的なものとして作られていました。
具足はどうやって見られる?
3領が飾られるのは国宝である御社殿の中で、真ん中に5代目綱吉公、右に7代目家継公、左に15代目慶喜公と並びます。
遮る物がない場所に置かれるので、社殿の拝観料を払えば見ることができます。さらに近くから眺めたい方は御祈祷を申し込み、拝殿の中に入りましょう。
大祭期間中、御祈祷は予約が必要です。
5代目の具足は、7代目と15代目が飾られる場所より数段低い石の間に飾られるため、御祈祷で中に入らない限り足元まで見ることは難しいかもしれません。
見学する際はお供えも見てみてください。
御具足祭のお供えは「御具足餅」とも呼ばれています。
鏡餅に菱餅を重ね、上には松・干し柿・ダイダイ・ヤブコウジ・勝栗(クリを乾燥させた保存食)、小豆など、お正月と同じような縁起物が並びます。
鼓楼の裏に自然と生えているヤブコウジや、御社殿の裏に植えられた木からとったダイダイなど、境内から調達するものもあります。
久能山東照宮 権禰宜・竹上さん:
縁起物ということに加え、松以外は体にいい食べ物です。家康公が健康志向であったことも、お供えに選ばれた理由だと言われています。一つ一つに家康公の思いが込められているのがわかります
具足は将軍様そのもの! 3具足の見どころ解説
具足は兜(かぶと)、胴、手足の装備のフルセットのことです。
御具足祭でも、フルセットで飾られます。
今回の3将軍の具足は、戦がない時代だったため、実戦向きでなく美術工芸品の要素が強く出ています。
久能山東照宮博物館 学芸員・細倉和樹さん:
レプリカなど一切使用せず、本物を見られるのが御具足祭の見どころです。江戸時代、フルセットの具足は、将軍様そのものと思われてきました。ですので、御具足祭でもまさに“そこにいらっしゃるもの”と感じていただけたらと思います
今回飾られる綱吉公、家継公、慶喜公の具足の特徴や見るべきポイントを教えてもらいました。知っていれば何倍も深く鑑賞できること間違いなしです!
将軍候補ではなかった綱吉公の具足
5代目綱吉公所用・縹絲威具足(はなだいとおどしぐそく)
綱吉公が将軍になる前に作った具足です。
他の将軍のように、徳川家の家紋である葵の御紋を金具に使用していません。当時は館林藩の藩主だったため、将軍に配慮して使わなかったのかもしれません。
当時は将軍でなかったので徳川家の家紋である葵の御紋を使うことは畏れ多いと考えたのか、綱吉公夫人の実家である鷹司家の家紋・牡丹の花が施されています。
この当時綱吉公は、まさか自分が5代目将軍になるとは思っていなかったかもしれませんね。
久能山東照宮博物館 学芸員・細倉さん:
5代目の具足は歴代将軍が葵の御紋が多い中、葵の御紋でないところが珍しいと言えます
早世の家継公 せつない具足
7代目家継公所用・写形歯朶具足(うつしがたしだぐそく)
5歳で将軍となった家継公は、家康公の歯朶具足を模した具足を作りました。8歳で亡くなったので、遺品がほとんど残っておらず、久能山東照宮には甲冑は一つしかありません。ここ久能山東照宮でしか見られない非常に貴重な品です。
幼少期に将軍となりましたが、4代以降の歴代将軍は家康公の歯朶具足を模した具足を江戸城に飾ることを慣例としていたため、立派な成人男性のサイズで作られています。しかし、その年齢までは生きられなかった家継公。早世の将軍に、思いを馳せることができる遺品です。
久能山東照宮博物館 学芸員・細倉さん:
7代目家継公の具足は兜に家康と同じシダが付いています。他に残っているものがとても少ないので7代目が遺した非常に貴重な品と言えます。黒い糸を鉄の錆で染めているため、当時は発色がよかったのですが、今は落ち着いた色合いとなっています
意外に“お堅い家柄”?! 慶喜公の甲冑
15代目慶喜公所用・卯花威胴丸(うのはなおどしどうまる)
まだ将軍になる前で、一橋家当主であった時代にあつらえた胴丸です。
胴丸は鎌倉時代からある古いタイプの防具です。軽装防具として発展し、甲冑の一つのカテゴリーとなりました。兜には龍頭(龍の飾り)が付いているなど古典的なデザインです。
これは父である徳川斉昭公の影響を受け、保守的な考えを表しているとされています。
明治以降のカメラ好きなど、モダンな人のイメージとは全く異なるお堅い家柄だったそうです。
久能山東照宮博物館 学芸員・細倉さん:
慶喜公の具足は当時の人から見ても古典的なデザインで、いかに伝統主義的であったかがうかがえる具足でもあります
平和への思いがこもった装飾
具足だけでなく、久能山東照宮の彫刻も忘れず見学を。
建物のあちこちに、家康公のメッセージである平和への思いが込められた装飾があります。
その一つが、楼門の四方を見守る4体の獏(バク)です。四方、すなわち全世界が平和に暮らせるよう願って彫られました。
想像上の動物である獏は鉄を食べる動物と言われています。武器となる鉄を使うと獏の食べ物がなくなってしまうので、獏が生きられる世界は、平和であることを意味するのです。
他にも御社殿には。中国の故事にちなんだ彫刻があり、命の大切さを伝えています。
共通券でお得に博物館へ
博物館では、他の歴代将軍が所用していた武器武具が見られます。
3月末まで開かれている企画展では、将軍たちが描いた貴重な絵画も見られるので、ぜひ博物館にも寄ってみてくださいね。社殿と博物館の共通券は800円(大人)で、それぞれ支払うよりもお得です!
これ本当に将軍が描いたの? と思うほど上手な作品や、意外な作品が見られます。絵から将軍の暮らしが垣間見えるのも面白いところです。江戸時代にこれはあったの!?と思う物もモデルになっていますよ。
具足が作られた背景を知って見ると、一段と感慨も深まります。めったにない機会なので、ぜひ近くで見てみてください。参拝の際は平和であることへの感謝も忘れずに!
■イベント名 久能山東照宮 御具足祭
■会場 静岡市駿河区根古屋390
■日程 2月16日※具足の見学は~18日
■時間 祭典10:30~11:30頃
拝観時間10:00~17:00
■問合せ 054-237-2438
取材/麻衣子