三浦半島の農漁業 生産者が語る気候変動 「環境変化への対峙」テーマに
気温上昇や集中豪雨など、地球環境の異変を多くの人が感じている昨今。その影響を最も受けていると考えられる農漁業者の生の声を聞くトークイベントが1月26日、地域の食の魅力発信に取り組む「三浦半島食彩ネットワーク」の主催で開かれた。会場となった横須賀市小川町のシェアオフィス「16スタートアップス」には危機意識を共有する25人の参加者が集まり、熱心に耳を傾けた。
テーマは「生産の現場から見た気候変動」。葉山町真名瀬海岸で漁を営む「桜花丸」長久保晶さん、横須賀市長沢で環境保全型農業を実践する「ながしま農園」長島勝美さん、東京湾でわかめ養殖を行っている「安浦港佳栄丸」栗山義幸さん、三浦市で年間150種類の野菜の生産と直売所を開設する「高梨農場」高梨雅人さんの4人がスピーカーとなり、同ネットワーク事務局の桑村治良さんの進行で議論を交わした。
限界が近づく
就農して約30年になる長島さんは、気象状況に「平年」という概念がなくなったとこぼした。集中豪雨や大型台風、記録的少雨と異常気象が常態化しており、特に近年の夏場の気温上昇で従来通りの生産が難しくなっていることを伝えた。畑に種を蒔いて水やりを行うと苗床が60度まで上昇して湯だってしまうため遮光シートで日陰をつくる必要があるが、今以上の上昇は対応にも限界があるとした。長島さんは欧州で1年間、農業研修に励んだことがあり、「施設園芸の盛んなオランダでは、化石燃料削減など環境に配慮した生産体制が整っている。海抜0m以下の低地国だからこそ、温暖化による海面上昇への危機意識が高い」と語った。
害虫の増加も温暖化と無縁でないという。「カメムシの多発により果樹栽培に影響が出ており、その対策として殺虫剤を用いることになるが、ミツバチを飼育している養蜂家への配慮も必要となり、悩ましい問題」と高梨さん。長島さんもトマトの価格高騰の要因となっているコナジラミが三浦半島で広がっている現状を嘆いた。
長久保さんは、相模湾の磯焼けの深刻さを紹介。「近年、暖流である黒潮が相模湾に流れ込んでいることで海水温が上昇し、本来生息しない南方系の魚種が増えており、旺盛な食欲で海藻を食べ尽くしてしまう」と話した。これにより、海藻を住処とする魚や貝が居場所を失い、漁獲量の低下に繋がっているとした。漁師が減っているため一定の収入分をなんとか確保できているが、持続性という観点から将来への不安があるという。
悲観ではなく挑戦
自然環境の変化を受け入れて対策を取っているのが栗山さんだ。温暖化に対応したワカメの種苗開発に取り組んでいる。生育に適した海水温は23度以下が定説とされていたが、25度でも盛んに生育する個体を見つけ出して集中的に育てているという。水温の低下を待って種付け時期をずらすという考え方もあるが、市場が待ってくれない現実課題があり、「生産者と販売者と消費者の共通理解が必要」と話した。
長島さんも消費者の意識変化を期待している。
「ドイツでは冬にトマトを食べないなど旬へのこだわりが強い。食文化にも繋がるもので、社会全体で環境に負荷を与えないという理念を共有している」と述べ、フードマイレージを下げる発想や地産地消の促進を唱えた。
「環境変化のスピードに生産者が追い付けるのか?」。司会の桑村さんが今回のテーマの核心でもある質問を投げかけると長島さんは「近年、横須賀でレモンの栽培が盛んに行われるようになっているが、背景に温暖化がある」と回答。さらにこれを発展させたアイデアとして「気候条件を含め栽培に適した土地に農家が移動する。東北エリアなどの農地を活用できないかと思っている」と独自の考えを披露した。