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公開45周年「ルパン三世 カリオストロの城」銭形警部が放った名セリフを徹底深読み!

Re:minder

1979年12月15日 映画「ルパン三世 カリオストロの城」劇場公開日

映画『ルパン三世 カリオストロの城』公開45周年記念上映


映画『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年公開)は、アニメ『ルパン三世』の劇場版第2作として宮崎駿が脚本と監督を初めて手掛けたアニメ映画である。その面白さはアニメのみならず、実写映画も含めた数ある冒険活劇のなかでもトップクラスなのは誰もが認めるところだろう。

ジブリ映画と共に日本テレビ系列『金曜ロードショー』にて、数年に1度のペースで再放送されるのも納得である。その大人気映画『ルパン三世 カリオストロの城』が、2024年11月29日から全国のスクリーンでリバイバル上映されるのだ。これは、公開45周年記念上映であり、今回は初めてIMAXでも公開される。このコラムを書きながら “臨場感溢れるIMAXでの公開は見逃せないな!” と、今から期待に胸膨らませているのだが皆さんはどうかな?

さて今回は、物語のラストでヒロインのクラリスに対して銭形警部(以下:銭形)が放った印象的な台詞

「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました…あなたの心です」


について考えてみようと思う。銭形とルパンとの関係性を考察することで、この名言にたどり着いた宮崎監督の真意に迫ってみたい。

“緑ルパン” が活躍するTV第1シリーズのクールな銭形こそが本来の姿である


銭形といえば、ルパンが緑ジャケットから赤ジャケットに変わった『ルパン三世』テレビ第2シリーズ(1977年〜1980年)のコメディリリーフを想像する人が多いだろう。『名探偵コナン』でいえば毛利小五郎のポジション… そう、言葉は悪いがポンコツのイメージだ。

ルパンはもちろん、銭形を含めた脇役陣の演出が全体的にコミカルになったのは、テレビ第2シリーズから視聴ターゲットの年齢層を低めに設定した番組の方針によるところが大きい。銭形の声を担当する納谷悟朗の提案もあって、徐々にコミカルさが強調された銭形は万人に愛されるキャラクターへと生まれ変わった。ただ、成人向けのアダルトな演出が光っていた『ルパン三世』テレビ第1シリーズ(1971年〜1972年)を惜しむ声があったことは否めない。

そう、元々モンキー・パンチの原作漫画で描かれていた銭形は優秀な敏腕刑事であり、ドタバタ劇もあるが基本クールな立ち振る舞いであった。僕の印象に残っている銭形の描写は、TV第1シリーズの第4話『脱獄のチヤンスは一度』(原作漫画では第2話『脱獄』)だ。その回で銭形はルパンを逮捕して牢屋にぶち込んでいる。当たり前だが、銭形は頭脳明晰であり優秀な警察官… 国際刑事警察機構(ICPO)に警視庁から出向する逸材なのである。

ちなみに、TV第2シリーズ放送中に制作された劇場版第1作『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978年公開)でのルパンは赤ジャケット… “赤ルパン“ である。ところが、その後に制作された『ルパン三世 カリオストロの城』に登場したルパンは緑ジャケットを着ていたのだ。当時の僕らは興奮を抑えられず “緑ルパンが帰ってきた!” と歓喜したものである。

これは、宮崎監督がシリーズ中盤以降を担当したテレビ第1シリーズの世界観を継いで制作したからであり、監督自身がインタビューで “この作品は、ルパン三世や東映時代にやってきたことの大棚ざらえなんですよ” と答えている。ルパン同様に銭形も、多少のコメディ演出はあるものの基本はクールに描かれている。これこそが本来の銭形の姿と言っていいだろう。…閑話休題、本題に戻ろう。

ルパンと銭形警部のお互いを認め合う信頼関係


物語の序盤… カリオストロ伯爵の “お宝” をルパンが狙っているという情報(実はルパン自身がリークした)を得た銭形は、伯爵のもとに参上する。銭形が城内の警備を担当すると伯爵に伝えるのだが、伯爵は衛士隊長グスタフに “この日本人に協力してあげなさい” と追い払い、その間にインターポールの友人を抱き込んで体よく銭形を追い返す根回しをする。ただ、そこに至るまでのわずかな時間で、銭形は厳しすぎる城内の警備に対して違和感を覚える。刑事としての勘の良さと洞察力の鋭さが描かれた場面だ。

こういった場面はテレビシリーズでも度々描かれていて、特にルパンの変装を見破る観察眼は並大抵でない。ルパン逮捕に燃える銭形の執念がそうさせるのかもしれないが “俺が最も苦手とするとっつぁん” と舌を巻くほど銭形のポテンシャルの高さをルパンは認めているわけで、同様に “ルパンを侮ってはいけません” とカリオストロ伯爵に進言する銭形も、ルパンの能力の高さを認めている。お互いを認め合う関係だからこそライバルとして成立するのだ。

物語は中盤… 城内の警備システムの罠にハマって結構な高さから地下深くに落ちたはずの銭形。それなのに大きな怪我がなく、同じく地下に落とされたルパンと鉢合わせする。これって、クラリスが幽閉されている北の塔を目掛けて大ジャンプしてしまったルパンに引けを取らない驚異的な身体能力の高さではなかろうか。もちろんアニメの脚色なのだが、銭形はルパンと同等の運動神経を兼ね備えていると言えよう。

この後、2人は偶然にゴート札工場を発見する。実はこれ、警察官として見過ごすことができない銭形の性格を知った上で、お互い協力してこの状況を打破するためにルパンが一芝居打ったと言うカラクリ。“だが盗人の手助けはせんぞ。脱出した後は必ずお前を逮捕するからな” と握手を拒む銭形の矜持… セリフにはないが “それでこそ、とっつぁんだ” というルパンの声が聴こえてきそうである。お互いを認め合うってこういうことだと思う。

さて、ルパンの目論見通り休戦協定を結んだ2人はゴート札工場に火を放って騒動を巻き起こし、その隙を突いて塔の上へと駆け上がる。剣を振りかざす衛士たちを次々投げ飛ばす銭形… その後、ルパンと銭形はオートジャイロを奪取。そして銭形は、クラリス救出に向かうルパンから、やったことのないオートジャイロの操縦を交代する羽目になる。このシーンも、ルパンが銭形を信頼しているからこそ大事な場面で運転を任せたわけであり、その結果、銭形は被弾したオートジャイロを強引に操縦して撃たれたルパンを救出するという期待以上の働きをすることになる。

常日頃から “ルパンは俺が捕まえる” と豪語している銭形なので、ルパンが死んでしまっては元も子もないのだが、それはもちろん建前である。まさにルパンと銭形の信頼関係を象徴するシーンなのだ。

「ルパン三世」とは「トムとジェリー」と同じく、ルパンと銭形の友情物語だ


対立する関係にありながら認め合う間柄… この設定にピンとくる人は多いはず。そう、これは有名なカートゥーン・アニメ『トムとジェリー』だ。これは『ルパン三世』アニメ化40周年記念した『ルパン三世大感謝祭』で原作者のモンキー・パンチ自身が語っていたが、子どもの頃からハンナとバーベラの『トムとジェリー』が好きで、ルパンは人気だった映画の『007』と『トムとジェリー』の要素を取り入れたということだ。『ルパン三世』におけるルパンと銭形の関係は、『トムとジェリー』の主題歌同様に “なかよくケンカしな“ なのである。

銭形は、劇場版第1作において処刑された男がルパンだと信じなかった。この『ルパン三世 カリオストロの城』でも瀕死のルパンに対して “ルパン、俺が捕まえるまでくたばるなよ!” と荒げた声を投げかける。そう、こんなことでやられてしまうルパンじゃないことを銭形は信じて疑わない。宮崎監督は、ルパン三世という物語の集大成を描くと決めたとき、『トムとジェリー』から発展させて、対立する関係でありながらお互いリスペクトして信頼する心を分かち合うストーリーへと行き着いたのだろう。

ここに冒険活劇と究極の友情を描いた物語が完成したのだ。主人公はルパンであり、ヒロインはクラリスだ。けれど脇役の筆頭は銭形である。宮崎監督がこの物語を通して描きたかったのは、ルパンとクラリスとの淡い恋心ではなく、ルパンと銭形の厚い友情なのだ。

いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました… あなたの心です」その真意は?


最後まで引っ張ってしまったが、ようやく考察のまとめである。物語のラストを飾った銭形警部の名言 “いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました… あなたの心です” は、横にいるクラリスに話しかけているのだが、これは銭形自身の心の声でもある。世の中にある全てのお宝を手にしてきた大泥棒が盗む究極のものとは何か… という問いに、宮崎監督がたどり着いた答えは、形を持たない人の心だった。その想いを、スクリーンを通して伝えたかったのだ。

僕はこう思う… 銭形は “少女が想いを寄せる気持ちをそっと取り除き、初恋という淡い思い出だけを残した引き際の美学… 俺が生涯をかけて追い続ける奴にこそ相応しい幕引きじゃないか” と感じてしまったのだ。銭形は、その悔しくも晴れやかな本心を抑えることができず、とんでもなくキザな言葉がつい口から出てしまったのだ。最後、クラリスに不器用なウインクをする銭形の表情がそれを雄弁に物語っている。

この映画の主役はあくまでもルパンなのだが、当初から宮崎監督は、ルパンと同等に張り合う銭形の男らしさ、そして格好良さをメインに描きたかったのではないか? 影の主人公は銭形なのではないか? など、銭形が活躍するシーンの多さから僕はそう考察したのだけれど、皆さんはどう感じるかな? おっと… もう多くは語らない。劇場で “緑ルパン“ と再会したときに、ぜひ銭形目線で物語を追ってみてほしい。そして感じ取ってほしい… この映画における究極のロマンチストである銭形警部のルパンに対する最大級の愛情の深さを。

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