「本当に幸せな時間でした」アーティスト和田雅成が1stワンマンでみせた心のこもった歌と温かな想い
和田雅成1st ONEMAN LIVE「Raise」 2025.02.08(sat)関内ホール 大ホール
舞台『刀剣乱舞』シリーズ、舞台『呪術廻戦』、ミュージカル『ヴィンチェンツォ』などに出演し、テレビドラマや映画などでも大活躍している和田雅成。昨年12月に1stアルバム『Raise』をリリースした彼が、1st ONEMAN LIVE「Raise」を開催した。2月8日(土)・神奈川・関内ホール 大ホールで行われた2公演の内、昼の部【1部】の模様をレポートする。
ステージにバンドメンバーが登場して、インスト曲「Raise」の演奏がスタート。1stアルバム『Raise』を締めくくった曲がオープニングを飾ると、作品とワンマンライブが地続きとなったような感覚になる。そしてステージ後方からゆっくりと歩きながら現れた和田雅成。観客が掲げた青色のペンライトに出迎えられながら歌い始めたのは「Dice」だった。マイクを握り締めながら響かせる歌声が、歌詞で描かれている想いを奥行き深く浮き彫りにしていく。開演を待ちわびていた人々が、耳を傾ける喜びに浸りきっていた。
観客の盛り上がりを一気に加速した「Game is over」と「Brand New World」の後に迎えた最初のMCタイム。「ワンマンライブの最初の曲、「Dice」は緊張するって! 自分の気持ちを中に入れなきゃいけないから」と言った和田は、その後も親しみやすいトークを繰り広げて観客を沸かせた。会場に届けられたお祝いの花の中には、両親からのものもあったそうなのだが、添付された札に書かれていたのは「マー君へ パパ ママより」という文字。しかし彼は「マー君」と呼ばれたことは一度もなく、両親をパパ ママと呼んだこともない。そんな花を父が手配したのを知って呆れた旨を語りつつも、愛情を自ずと滲ませる様に和まされた。そして彼は集まってくれた観客に感謝。「“私たち”と思うなよ。“私”でいい。芝居とかも全部そうだけど、ひとりひとり、あなたと向き合って俺は生きていきたいと思ってる。ひとりひとりに向けて届けていこうと思っているので、最後まで盛り上がってください!」――気持ちをまっすぐに受け止めた観客は、力強い歓声で応えた。
観客からの「大好き!」という言葉を全身に浴びて、「今日はもうここで終わりです(笑)。本当にありがたい」と喜んだ和田。そして曲がさらに届けられていった。ビートに身を任せながら歌う姿が伸び伸びとしていた「own world」。座っていた観客が一斉に立ち上がって笑顔を輝かせた「エキストラ」――2曲が披露された後、再び迎えた小休止。蜂蜜を舐めて喉のコンディションを整えた和田は、マイクをスタンドにセット。そして、曲に刻まれた物語、想いをじっくりと表現するひと時が始まった。瑞々しいメロディを精緻に歌い上げた「memories」。情感豊かに表現していた「The one」。歌いながら曲の世界に没入する姿が舞台の一場面のように感じられた「虹の彼方」。真っ直ぐな愛情を歌声に滲ませた「最後のひと」。未来に進んで行く穏やかな足取りが刻まれていた「ピリオド」――俳優としての経験で培われた表現力が歌に昇華されているのを感じた。
バンドメンバー各々がソロプレイを披露したインスト曲を経て突入した後半。白を基調とした衣装に着替えた和田が現れて、「Someday」がスタートした。客席で輝くペンライトが切ない恋を描いた歌を彩り、穏やかな昂揚感で満たされた会場内。そして「本日のスペシャルゲスト!」という声が響き、蒼井翔太がステージに招き入れられると、観客は歓声を上げた。2人の共演で届けられたのは、アルバム『Raise』に収録されたコラボ曲「Resurgence」。交わされる歌声がグルーヴを生み、美しいハーモニーが何度も響いた。歌っている彼らも気持ちよくて仕方なかったのだろう。度々視線を交わして浮かべる表情が輝いている。エンディングをハーモニーで飾って喝采を浴びた直後も、興奮冷めやらぬ様子だった。「(ドラマで)共演をさせてもらって、初めてマー君が歌う姿を観たんです。役としての歌唱を聴いて、音楽でももっともっと表現できる人だと思いました。前からマー君のオリジナル曲をすごく聴きたいと思ってたんです」と蒼井に言われて喜んだ和田。彼らのやり取りを眺めていると仲の良さはもちろん、互いの間にあるリスペクトも伝わってくる。そして2人のコラボはもう1曲用意されていた。披露されたのは、共演したドラマ『REAL⇔FAKE Final Stage』の主題歌「MISLEAD」。共に歌う相乗効果によって、声の輝きが増していくのが痛快だった。歌い終えた直後、「贅沢!」と言いながら余韻を噛み締めた和田。共演を終えてステージを後にした蒼井は、「マー君が大好きなみなさん。全力の大好きな気持ちを伝えてください!」と観客に呼びかけて、熱い歓声を浴びていた。
「不安だったんですけど、リハでバンドのみなさんが僕の気持ちを鼓舞してくださったんです。一緒にステージに立てて光栄です」と感謝して、バンドメンバーを1人ずつ紹介。そして観客に歌ってもらいたいフレーズの練習を経て「Fly Higher」がスタートした。観客と声を交わすのが嬉しかったのだろう。彼の歌が一際清々しく響き渡っていた。アカペラから始まり、バンド演奏の合流によって爽やかなエネルギーが一気に放たれた「プライド」。観客の温かな手拍子で彩られた「fragile」。そして本編を締めくくったのは「Now Loading」。客席の各エリアに視線を送りながら届ける歌が、人々の心を鼓舞しているのを感じた。曲が幕切れてから「楽しかったですか? 僕も楽しかったです。また笑顔で会える日を心から楽しみにしております!」と観客に呼びかけて、ステージを後にした和田。手を振りながら浮かべた笑顔がとても明るかった。
アンコールを求める手拍子が続いた後、突然鳴り響いた音楽。すると和田が突然2階席に登場してびっくり! 「2階に来ないと思って気抜いてただろ? 俺のファンたちよ、ありがとう!」――彼は通路をゆっくりと歩きながらファンとのコミュニケーションを楽しんでいた。「どうだ、俺に見下される気分は?」と言って見下ろした1階席に移動して、「近くで見たら、なお男前だろ?(笑)」と言っていたのも思い出される。溢れまくっている愛情と感謝を時々毒気のある言葉で表現するのが、彼の独特なかわいらしさだ。そんなところもファンに愛されているのだと思う。そしてステージに戻った彼は、改めて想いを語った。「本当にありがたいね。大阪から出てきていろいろな場所に立たせていただいて、こうして自分がライブをやるという時、おひとりおひとりに伝えるパワーというのは変わらないんです。でも、100人に伝えるのと1000人に伝えるのとでは変わっていくじゃない? この状況は当たり前じゃなくて、おひとりおひとりが届けてくれる気持ちが本当に幸せです。気持ちにできる限り寄り添えるように過ごしていくので、これからもよろしくお願いします」という言葉が温かかった。
「アーティストの和田雅成はここから始まりました。もう一度この曲を歌わせていただきたいと思います」という言葉が添えられて、アンコールで披露された「Dice」。ライブのオープニングでも歌った曲だが、改めて受け止めると、迷いや不安を乗り越えてさらに前に進む姿が映し出されているのを感じた。映画/ドラマ『神様のサイコロ』の主題歌であると同時に、彼の人生ともリンクしているのだと思う。
「ずっと不安だったんですけど、みなさんの顔を見て、心を感じて、本当に幸せな時間でした。またこういう機会を作れるように売れてやるぜ! 本当にありがとうございました! お気をつけて! またな!」――ステージから去る直前に挨拶をした和田を歓声と拍手が包んだ。そして終演を迎えた1st ONEMAN LIVE「Raise」【1部】。心のこもった歌と温かな想いが終始、素敵な空間を作り続けたライブであった。
取材・文=田中大