「まずは国内向けに、という発想は捨てよう」ブランドンが教える“ガラパゴスなプロダクト”を開発しないために知っておきたいこと
景気低迷に伴い、国内スタートアップの資金調達額が冷え込んでいる*。「スタートアップの元気がない」と囁く声もちらほらと聞こえ始めた。
しかし、この先の日本経済を盛り上げるのは、間違いなく、スタートアップのようなアイデアと気概にあふれた存在だ。
一体何がその成長を阻んでいるのか。その原因が「日本特有の環境」にあるのではないかと語るのが、米国企業の日本進出、日本企業の米国進出をデザインで支援するbtraxの代表 ブランドンさんだ。
ブランドンさんが語る、下記三つの話から日本のスタートアップが飛躍するヒントを探ってみたい。
①日本とシリコンバレーのスタートアップを取り巻く環境の違い【記事はこちら】
②日本からグローバルなプロダクトが生まれにくい理由←今ココ
③日本でイノベーションが生まれにくいと思ったポイント←coming soon
2回目となる本記事のテーマは「日本からグローバルなプロダクトが生まれにくい理由」だ。
※本記事は、btrax のブログ『freshtrax』、およびブランドンさんのポストより内容を抜粋してお届けします。
Founder & CEO
btrax
Brandon K. Hillさん(@BrandonKHill)
北海道生まれの日米ハーフ。サンフランシスコと東京のデザイン会社btrax代表。サンフランシスコ州立大学デザイン科卒。 サンフラン市長アドバイザー、経済産業省 始動プログラム公式メンター。ポッドキャストも運営
目次
まずは日本向けバージョンから営業オリエンテッドな顧客獲得方法黒字化や上場が目的になりがちリソースが分散される起業家のモチベーション源泉まとめ: スタートアップを取り巻く環境の差【About Mr. Brandon K. Hill】
こんにちは。Brandonです。
Webやモバイルアプリを中心に、現在世界で利用されてるサービスの中に「日本製」のものはほとんどない。GAFAを中心とした、アメリカ西海岸発のものや、BeautyPlusやTikTokなどの中国系のプロダクトが多い。
そして実は日本国内で多く使われているプロダクトも、世界的に見るとほとんど使われていないケースも少なくはないのである。
SNSを例にとってみよう。LINE、X、Instagram、Facebook、Tiktokなど、人気のSNSのリストであるが、日本国内シェア60%を超えているLINEでも、実は世界的に見るとそのシェアは2.8%にしか及ばず、他のSNSサービスと比べても、ユーザー数は一番少ない。
まあ、そもそもLINEが日本初のサービスであるかどうか自体の議論もあるかもしれないが、兎にも角にも、日本で作られ世界中で利用されているデジタルサービスは非常に少ない、もしくは皆無に近いと言わざるを得ないだろう。
しかし、今の時代であれば海外向けにサービスを展開すること自体はあまり難しくはない。
多言語のサイトを公開したり、アプリを海外でもダウンロード可能にすることの技術的難易度は高くはない。しかし多くの人たちが「自分たちには難しい」と勝手に思ってしまっている。
ブログが公開された2019年時の資料
では、なぜそのような状況になっているのか?
日本はIT後進国でもないし、多くの企業が素晴らしいサービスを生み出しているのも間違いない。
しかし、おそらく下記に紹介する、言語自体に加えて五つのポイントが原因で、世界で使われないプロダクトしか出てこないのではないかと感じる。
まずは日本向けバージョンから
以前に孫泰蔵さんとの対談「【対談】孫泰蔵氏 x Brandon Hill -スタートアップがグローバルに展開するための五つの秘訣-」にも出てきた話題であるが、日本のスタートアップが作るプロダクトのほとんどが「まずは国内向け」になっているのが現状だ。
まあ、それは至極当たり前で、プロダクトは作っている人たちの目線で生み出されることが多く、日本国内で日本人によって作られるものは、多くの場合、「まずは」日本国内向けになるケースが多い。もちろん日本語バージョンで。
しかし、それを続けていると、プロダクトの言語だけではなく、内容や仕様も国内ユーザーに最適化されたものになってしまい、いざ海外版を作ろうとしても、グローバルユーザーになかなか刺さりにくくなってしまう。
結果的に、いわゆるガラパゴス状態のプロダクトが生み出されるのだ。
一番重要なのは最初から海外でも展開しようというマインドセットを持つこと。まずは国内から、という思い込みを取り払うこと。
これがシリコンバレーのスタートアップであれば、最初から世界中のユーザーをターゲットにサービスを作ることを考えている。
そうすることで、よりグローバルで使ってもらいやすいプロダクトが生み出される。
営業オリエンテッドな顧客獲得方法
新規のサービスを展開する際にはどのような方法で顧客を獲得するだろうか?
おそらく、最初のうちは頑張って営業で稼ぐことを考えるだろう。これが、既存の顧客を多く抱えている企業の強みであり、リクルートや楽天、サイバーエージェントなどの企業の競争優位性を生み出している。
それ以外でも、営業代行会社を利用したり、路上でティッシュ配りをしたりして、どうにかユーザー数を増やしたりするケースもある。
しかし、アメリカの場合、このような体育会系な営業はかなり難しい。そもそも国土が広すぎて「営業を走らせる」のは無理なのである。
したがって、ほとんどのスタートアップは営業をしないし、営業職も日本ほど一般的ではない。ちなみに「シリコンバレーに来るならスーツは着ないこと」でも語っている、シリコンバレーでスーツを着ている人をほとんど見ないのも同じ。
では、どのようにユーザーを集めるのか? それはプロダクトのクオリティーをできるだけ高くし、口コミやデジタルマーケティングを通じて、急成長を達成する。そして、かなりの短いスパンでプロダクトの改善を行い続ける。
地道な営業が難しい分、ユーザーが本当に欲しいプロダクトの追求にエネルギーが注がれるのだ。
これが営業ヘビーな日本の場合、経営者が営業畑出身だったり、横のつながりを活用した法人営業を通じた顧客獲得をする企業が多かったりする。
その結果、日本の企業では、プロダクトの品質よりも、営業に重点が置かれ、世界的に見ても魅力の低いプロダクトになってしまいがちである。
黒字化や上場が目的になりがち
日本のベンチャー企業のひとまずの目標ななんでだろうか? 恐らく上場だろう。その為にはなるべく売り上げを稼ぎ、黒字化を目指す。すでに上場している企業でも、サービス展開するにあたり、売り上げと利益の獲得がゴールとなる。
実はこれもグローバル視点で見ると、日本企業が抱える大きなハンデとなっている。上場や利益獲得を目的にすると、どうしてもユーザーにとって使いにくいサービスになりがちであるからである。
例えば、メディア系のサービスを例に考えてみよう。恐らく、その収入源は主に広告となる。しかし、画面上に広告が表示される事はユーザー体験的にマイナスになる。イコール、プロダクトの魅力が下がる。
これが、例えばシリコンバレー発のサービスの場合、売り上げや利益度外視で展開される。なぜなら、彼らにとって最も重要なのはユーザー数であり、ユーザーの伸び率であるからだ。
すなわち、ユーザーが最も喜ぶプロダクトを作ることに全力が注がれる。なぜそんなことができるのか?それがスタートアップと呼ばれるゲームのルールだからだ。海外では、売り上げが少なくても、大赤字でも、大型の資金調達もエクジットができる。
例えば、Instagramは売り上げがほとんど無い状態にも関わらず、Facebook社に1000億円以上で買収されたし、Uberに至っては、毎年3000~ 5000億円の赤字でも、10兆円近い規模での上場を達成した。
これが、グローバルで戦う際のルールであり、ユニコーンやGAFAのようなメガ企業を生み出す下地になっている。
しかし、日本国内だけでビジネスを展開してしまうと、評価額も投資額もエクジット額の規模も1/10以下になりがちで、全てがスモールスケールになる。
それにより、日々の売り上げと利益に重点が置かれてしまう。そして上場する為に、どうしても限られたユーザー数の中から黒字化のための日銭稼ぎが優先され、ユーザー体験が犠牲となる。
結果として、ユニコーンも生まれにくいし、世界的な競争力のあるプロダクトも出てこないといった悪循環に陥っていると言わざるを得ない。これが、日本における全てがスモールスケールの「箱庭エコシステム」なのである。
リソースが分散される
日本国内だけでサービス展開をしていると、獲得できるユーザー数に限界がある。それもそのはずで、世界で日本語を話すユーザーは2%以下なのだから。(参考:どんなに頑張ってもお前がカバー出来るのは世界の2%)
そうなってくると、企業のスケールが大きくなればなるほど、複数のサービス展開が余儀なくされ、人的リソースも、投資も分散されてしまう。その結果、一つ一つのサービスのクオリティーや更新頻度が下がってしまい、グローバルにおける競争力を欠く結果となる。
日本で上場している上位のIT企業の多くが複数のサービスをどんどんリリースして、運営している理由がこれ。例えば、リクルート、GMO、楽天、サイバーエージェントといった企業は、全て複数のサービス展開を行なっている。
これが、最初からグローバル展開している企業のサービスともなれば、一つのサービスにリソースをぶっこむ事ができるため、とてつもない頻度でプロダクト改善を進め、よりユーザーに喜ばれるプロダクトが生み出されるのだ。
TwitterはTwitterを、AirbnbはAirbnbを、DropboxはDropboxを、PinterestはPinterestを、SlackはSlackだけを追求することで、それぞれのサービスがの品質が高くなる結果に結びついている。
個人的にはこれが一番日本企業がグローバル展開するべき理由だと感じている。
起業家のモチベーション源泉
最後に意外と見落としがちなポイント。そもそも起業家や経営者が何を達成したいか、そのモチベーションはどこにあるかという点。普段サンフランシスコやシリコンバレーで生活していると、本気で世界を変えたい起業家と接することが多い。
もちろん、日本でもそのような大きな志でビジネスをしている人もいるが、やはり現実的に考えると、まずは上場、そして利益の拡大などの「目先の結果」をメインの目的になりがちである。
これは次回お届けする「日本でイノベーションが生まれにくいと思った三つのポイント」でも詳しく紹介する予定だ。起業家が評価されるポイントはどうしても、会社の規模や年商、資本金、利益率、時価総額などのいわゆる”ビジネス”的な点にフォーカスされる事が多い。
では、上場したり儲かったりし始めた起業家はどうなるのか?
東京のIT企業を中心に、成功者は六本木や麻布で豪遊することが文化となっているようだ。
もちろん成功者はちやほやされるし、無理に世界を変えなくても、とってもエキサイティングな日々を送ることができる。明らかに彼らを取り巻く世界を変えることには成功している。
まだ上場や大きな利益を生み出していない状態だったとしても、カンファレンスで目立つことや、メディアに露出することで、周りからの注目を集め、精神的な満足感を得てしまう。
そして、いつのまにか、それ自体が目標になるケースもある。
これが例えば、シリコンバレー地域だと、そもそも派手に遊ぶ環境がない。上場しても近づいてきてくれる異性もいないし、お金の使い道も、より会社を成長させる為にフォーカスするのが一般的だ。
その結果、ノイズが少ない環境で日々世界を変えることをよりピュアに追求しやすい。
まとめ: スタートアップを取り巻く環境の差
このように、東京とシリコンバレーではスタートアップや起業家を取り巻く環境、そして成功の定義が大きく異なる。
日本の場合は、最初は世界に挑む高い志を持っていたとしても、周りの環境に飲み込まれてしまい、いつの間にか「上場できたし、お金も稼いだし、無理にグローバルに展開しなくても良いか」なんて気になってしまう危険性がある。
その点、アメリカ西海岸では、青空の下の健全な環境で、ピュアにユーザーの課題を解決するプロダクト作りに没頭することができる。そもそも夜遊び自体が本当に皆無に近い。起業家にとってのノイズが極端に少ないと言っても良いだろう。
環境が習慣を作り、習慣が行動を促し、行動が結果を生み出す。
現在の日本の起業家やベンチャー企業を取り巻く環境自体が、実はグローバルなプロダクトを生み出すことを妨げているのではないかと感じてしまう。
これもbtraxがあえてサンフランシスコでクライアントと共にプロダクト作りを進めている大きな理由なのである。
【About Mr. Brandon K. Hill】
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