女優としての魅力爆発!中森明菜主演のトレンディドラマ「素顔のままで」主題歌は米米CLUB
「素顔のままで」は、恋愛ドラマの旗手として注目された北川悦吏子の出世作
1992年4月13日、フジテレビ系月曜21時のドラマ枠… いわゆる “月9” で『素顔のままで』の放送が始まった。脚本は、当時まだ駆け出しの北川悦吏子である。本作は、北川が初めて手掛けた連ドラ作品にもかかわらず、平均視聴率26.4%、最終回ではなんと最高視聴率となる31.9%を叩き出し局内を歓喜させた(関東地区:ビデオリサーチ調べ)。もちろんこれはビギナーズラックなどではない。その証拠に、北川は90年代恋愛ドラマの旗手として『あすなろ白書』『愛していると言ってくれ』『ロングバケーション』など次々と名作を世に放つことになる。
その筆頭が『素顔のままで』というわけだ。このドラマは安田成美と中森明菜を配したダブル主演作品であり、女性目線で女性同士の友情を描いている。これは、当時のトレンディドラマにおいて実に新鮮な舞台設定であった。
さて、今回はこの『素顔のままで』に出演した “役者” としての中森明菜に焦点を当てて語ってみたい。“歌手・中森明菜” の素晴らしさは言うまでもないのだが、“女優・中森明菜" としても語るべき魅力に溢れているからだ。
役者としての演技が高く評価された中森明菜
1985年に公開された映画『愛・旅立ち』が、中森明菜のスクリーンデビューである。そのときも役者としての演技が高く評価されたのだが、本格的に女優業に力を注ぎ始めたのは1988年の4月、フジテレビ系列で放送された単発テレビドラマ『スパゲティー恋物語』あたりからだろう。
90年代に入り、彼女は日本を離れニューヨークで暮らす選択をする。ニューヨーク中心部にあるホテルのペントハウスに滞在し始めた彼女は、誰に気遣うこともなく解放的な時間を過ごし、夜には行きつけのピアノバーでお気に入りだった松田聖子の曲を歌っていたという。ただ仕事で東京に戻ると、一抹の不安に苛まれ躓いてしまう…そんな、心身のバランスが不安定のまま『素顔のままで』の撮影が始まってしまった。
撮影当時の様子を語る栃内克彦氏(当時の所属事務所「コンティニュー」元社長)のコメントが生々しい。
「明菜が楽屋からまったく出て来なくなり、共演の安田成美さんも困惑していました。一報を受けて私がスタジオに駆け付けると、今度はトイレに籠もって出て来なくなったのです。ようやく出て来たかと思ったら、目は真っ赤で、何度も嘔吐し、フラフラの状態になっていました」
この時期テレビ画面からは知り得ない彼女の本当の姿は、壮絶な苦しみでがんじがらめだったのかもしれない。想像することすら憚られる辛さだ。
女優・中森明菜としての魅力を爆発させた “月島カンナ” のガラッパチな愛おしさ
重い気持ちにさせて申し訳ない。そのやるせなさは取りあえず横に除けておき、ここからは役者として輝く “女優・中森明菜” にスポットを当てていく。
今回『素顔のままで』を久しぶりに視聴したのだが、テレビ画面のなかの彼女は、どんな場面でも意気揚々として光り輝いていた。破顔一笑の愛くるしさからバカ笑いの弾けた笑顔、そこから一転して顔を歪め歯ぎしりをして怒りの感情を爆発させ、さらに顔をくしゃくしゃにして泣きはらす。細かい目の動きとシーンごとに使い分ける声のトーンなども含め、こんなにも表情をくるくると変化させて喜怒哀楽を表現できる役者が他にいるだろうか。
画面に映る彼女は僕らの知る中森明菜ではなく、そこにいるのは彼女の演ずる “月島カンナ” だった。これを天性のセンスと言ってしまえばそれまでだが、中途半端な演技では納得できない彼女の性格が、ストイックなまでに自身の内面までをも突き詰めて、月島カンナという口の悪いガラッパチな女性に生命を宿らせたのである。特に最終回で子どもと戯れるカンナのやさしい笑顔は特筆ものだ。中森明菜にとって、月島カンナ役は運命的な出会いだったのかもしれない。それくらい彼女の持つ魅力が余すところなく映像化されている。未見の方はぜひご覧いただきたい。本当に素晴らしいドラマなのだ。
中森明菜は、歌手というカテゴリーに留まらず、役者にチャレンジすることで自身をさらに磨き上げたのだ。たとえ周囲から “才能がある” と言われても、磨かなければただの石である。表面上の華やかな部分だけに目が行きがちだけど、中森明菜とは “努力の人” なのだ。
主題歌は、米米CLUBの「君がいるだけで」
印象的なドラマのオープニングが今も記憶に残る人も多いだろう。特に片瀬白田の海岸沿いを走る伊豆急行線を空撮したダイナミックな映像が心に残る。空の上から列車にズームインするカメラは窓側席に座る物憂げな表情のふたりを捉え、これから始まる物語を予感させていた。
このオープニング映像に合わせて流れるのが、米米CLUBの「君がいるだけで」である。CDの累計売上枚数がトリプルミリオンに届くほどの大ヒット曲だ。ドラマがヒットしたことによる影響は計り知れないが、頭サビから始まるヒット曲の法則と美しいメロディライン、そこにカールスモーキー石井の甘い歌声がマッチしたのだから、ヒットしないわけがない。
物語のすべてを言い尽くしている歌詞に注目
たとえば 君がいるだけで
心が強くなれること
何より大切なものを 気付かせてくれたね
『素顔のままで』は、性格も育ちも真逆なふたりが、ぶつかり合いながらもお互いのやさしさに気付いて成長してゆくという物語。まさにサビであるこの歌詞の部分が、この物語の全てを言い尽くしている。
ありがちな罠に つい引き込まれ
思いもよらない くやしい涙よ
自分の弱さも 知らないくせに
強がりの汽車を 走らせていた
めぐり逢った時のように
いつまでも変わらず いられたら
wow wow True Heat
この辺りの歌詞は、第1話から2話で取りあげるカンナの物語が綴られているようで、「♪強がりの汽車を 走らせていた」という比喩表現もドラマを観ていれば「なるほどね!」と膝を叩いてしまうところだ。後に続く「♪めぐり逢った時のように いつまでも変わらずに いられたら」という部分はドラマの最終回に繋がっている。決してハッピーエンドではないけれど、この部分もまた物語の世界観を美しく表現している。
今後の中森明菜から目が離せなくなるはず!という予感と期待
中森明菜は、今年4月に公式YouTubeチャンネルで36年前の未発表曲「HELLO MARY LOU」を公開。その後も「TATTOO」JAZZバージョンを皮切りに、5週連続でセルフカバー曲を配信。そして、7月13日の誕生日を挟んでファンクラブ限定のディナーショーを行うと発表した。いよいよファンの前に生の姿を見せてくれるのだ。間違いなく最高のステージを見せてくれるに違いない。
そうなると “女優・中森明菜” もぜひ復活して欲しいと考えてしまう。それは欲張り過ぎだろうか…。役者としての彼女は、まだ我々に見せていない潜在的な資質があるはずで、それがゆっくりと熟成されたいま、再び花を咲かせるのではないかと期待せずにはいられないのだ。
それは、多くのファンも同じ気持ちのはずである。体調を優先してほしい気持ちはもちろんだが、ぜひ、遠くない未来に “女優・中森明菜” が織りなす世界へ案内して欲しいと願っている。