「宿題しなさい」と言わない方がいい理由は?前明石市長泉房穂と天才キッズたちが考える理想の街
前明石市長の泉房穂さんが、天才キッズたちと大激論!? 泉房穂さんと将来の日本を担う3人の子どもたちの座談会後編は、子どもの没頭のために必要なこと、そして子どもたちが考える理想の街について。
学校は子どもの没頭を邪魔する?
――次のテーマは「子どもが没頭できる環境を作るには」。夢中になれる対象を見つけて、それに取り組んでいるみなさんは、どんな場所や制度があれば没頭しやすいと思いますか?
水野:私は、周りの人に認められることかなと思います。自分の行動が正しいかどうか、なかなか判断するのは難しいと思うんです。誰かに評価してもらえると自信がつくし、褒めてもらったり認めてもらったりすることは一番うれしいことなので、そこは必要かなと思います。
小林:僕が一番必要だと思うのは、時間です。学校のように決められたスケジュールで過ごすんじゃなくて、自分で考えて行動する時間が大事だと思います。
神谷:小林くんも言ってたように、やっぱり時間がない。だからちょっと極端な意見かもしれないけど、没頭できる環境を作るには学校から離脱することが一番手っ取り早いんじゃないかなって。ただそれをやるには、周囲の大人とか親の理解がないと難しいとは思います。
――「親の理解」という言葉が出ましたが、実際にはどんなふうに保護者とコミュニケーションを取っていますか?
神谷:僕は学校の校則の活動を始める時、親から大反対を食らいました。だから基本的にはもう、全部無視して。
――すごい!
神谷:ちゃんと許可を取ろうとすると、ひとり挟んで、またひとり挟んで、と大変になって、時間もかかる。それで全然進まなくなるくらいなら、と思って、親含めて許可を取るフローは全部取っ払いました。
――そうやって突破されたんですね。
神谷:でもその分自分自身に責任があるので、そこは自覚して。どうすればいいかちゃんと考えてやってるつもりではあります。
水野:私はもともと両親とコミュニケーションを取る方かな。私は小さいころから話をするのが好きで、どちらかというと私が一方的に話したり歌ったりしてる感じですけど(笑)。だけど、両親は無視するわけじゃなくて聞いてくれてはいるので、「自分がしゃべっていいんだ」とずっと思えています。自分のことをさらけ出してもいいと思えるし、素直にもなれる。両親の前で素直でいられることは、私にとっては一番大きいことかなと思います。
――小林さんはどうですか?
小林:僕は未就学児の5歳くらいまでは、もうすべてのことに疑問を持っていて、すべてのことをしゃべっていたらしいんですけど、それが親にはうるさかったみたいで(笑)。なので、しゃべる代わりにノートに書くようになったんですけど、次第にそれもめんどくさくなって。で、コロナの時に3Dとかプログラミングを始めて、その時にはもう自分でやり方を調べて何も言わずに黙々とやって自分で公開して、というふうにやってました。
「宿題しなさい」は無意味?
泉:なるほど、3人の話から時間と評価というキーワード、あとは親を含めた周囲の理解というものが出てきましたね。人間生きてる時間は限られてるから、私も子どもの時から時間をどうやって有効に使おうか考えてました。
電車に乗る時もホームまでの階段をかけあがった瞬間ドアが開くように逆算してますもん(笑)。時間ってぼーっとしてると流れて行ってしまうけど、自分自身で管理すると作れるんですよ。
泉:評価については、人によって違うでしょうね。自分の場合は村のお地蔵さんが評価の基準でした。家の横のお地蔵さんに、朝と夜に挨拶してたんですけど、お地蔵さんが怒った顔してる時は「ごめん、今日悪いことした」と。お地蔵さんが笑顔のように見えると「今日はいいことした」「今日は頑張った」って。親の評価を大事にするとか、先生の評価を大事にするとか色々あると思うけど、評価基準にも色んな選択肢があっていいのかなと、みなさんのお話聞いてて思いました。
周りの理解もね、あるとうらやましいけど、あったりなかったりですよね。
――ちなみに、親に「宿題しなさい」と言われたことはありますか?
水野:私はないです。「宿題したら?」「勉強は将来絶対役に立つし、選択肢が広がるよ」とすすめられることはあるけど、強制されたことはないですね。
小林:僕も同じで、「やったらいいんじゃない?」って。
――神谷さんはいかがでしょう?
神谷:僕はめちゃくちゃあります。「やりなさい」と言われ続けたけど、やらないんですよね……(笑)。
大人も子どもも拘束時間を減らしてみる
――最後のテーマに移りましょう。「天才キッズと考える理想の街」をテーマに、みなさんに発表をしていただきます。では、水野さんからお願いします。
水野:私が思う理想の街は、「ありのままでいられる街」です。「私はこれをやりたい」「私はこれが好き」と、自分のことを自信を持って言える環境が整った街は素敵なんじゃないかなと思います。
具体的な制度としては、子どもが社会に触れる企画を提供したいです。私自身も会社を作って活動していく上でいろんな人と出会って、いろんな体験をすることができました。子どものうちに外の世界を見て体験しておかないと、いざ社会人になった時に何をどうしたらいいのかわからないと思うんですよね。なので、将来自分が何をしたいのかという具体的なところも含めて、外の世界を見てみる機会を作れば、やりたいことや好きなことをみつけるきっかけになるんじゃないかと思います。
この制度を具体的に考えていくと、職業体験も素敵ですし、一番理想的なのは自分事として社会に触れることだと思います。というのも、私は会社を経営しているので、そうするとお金のことも生々しくわかるようになりました。この年齢でお金についてリアルに感じられたことは良い経験になっています。
泉:職業体験みたいな機会って、いまはあるんですか?
水野:あったけど、コロナ禍で受け入れ先があまりなくなってしまいました。
泉:明石市のある兵庫県では、県をあげて中学校2年生に一週間の職業体験をしてもらってるんですよ。私は市長になる前弁護士をしていて、職業体験の受け入れもしていました。裁判所の法廷に行ったり、刑務所見学したりを何年もやっていたら、うちに来てくれたうちの2人が実際にその後弁護士になりました。うれしかったですし、聞いてみたら職業体験で頑張る気が起きたって。そういう機会が広がったらいいんじゃないかと思いますね。
――確かにそうですね。次は小林さんお願いします。
小林:僕が現状の社会に対して思うのは、先ほども言った通り朝から晩まで学校や会社に行って時間がないと。時間がなければ、自分の好きなことをすることもできないし、リラックスしたり明日のことを考える余裕もなく、ただどんどん日々が過ぎていってしまいます。
あと、学校の生徒や会社の社員だったりすると、型にはめられてしまって、チームの一員として見られるけど、僕は個人として自分を見てほしいと思う。
それで僕が考える理想は、大人も子どももいきいきと過ごせる街です。
まず、学校や会社は朝から昼までにします。終わりが早くなると集中できると思います。それで午後は好きなことをする。僕だったら3Dだし、ほかの人だったら音楽とかスポーツとか。そうすると、朝は早く起きて、夜も早く寝られる。どんどんいいサイクルが起きてくると思います。仕事と休みを両立するワーケーションの促進も、休むことへの抵抗感が減って、自分の好きなことをもっとできるようになると思います。
泉:キーワードの「時間」という部分でとても感じることですが、日本って大人も子どももすごく忙しい。日本はドイツを参考にすることが多いけど、ドイツの方は日本の7割くらいの時間しか働いてない。でも日本より賃金は3割くらい高い。
市長時代は明石市役所の社長みたいな立場だったので、「残業をせずに早く帰りましょう」と働きかけて、実際に残業時間が半分に減りました。職員が早く帰るために、やるべき仕事を精査して、どちらでもいい仕事は無理してする必要はないと、全体的に見直しを図って。本当に今日のテーマですね。大人も子どもも時間を作る。個人にとっても、社会全体にとっても必要かなと感じますね。
誰かの夢を生きない
神谷:僕は、もっと「遊び」や「役立たず」で溢れている社会・街が理想だなと思います。
泉:いい表現やね。
神谷:そもそも「遊び」って何? 「役立たず」って何? と思うはずなので、自分の中でいくつかポイントを出してみました。
まず「遊ぶ」というのは、自分の内なる欲求や興味に従って行動することです。自分の心に耳を傾けて、自分がどうしたいのかちゃんとベクトルを持ってやっていくことが重要なんじゃないのかなと思います。それで、いまこの瞬間を全力で楽しむ。これが一番なのではないかと。
「役立たず」とわざわざ挙げた理由ですが、逆に役に立つとは何かを考えた時、それは自分の気持ちにうそをつくことなんじゃないかと思うんです。
たとえば、他人の期待に応えるとか、周囲が望むことをすることは色々ありますよね。自分自身はそう思ってないけど他人のために行動する。そうすると結果的に役には立つけど、自分の心にうそをつくことにもなる。利益をもたらすことや生産性をあげることは役に立つことだと思うけど、肩書きや周囲が望む結果になれば成功者なのかと言えば、まったくそんなことはない。
誰かの夢に生きてしまうとか、他人の理想を追い求めるんじゃなくて、自分のために、自分のやりたいこと、自分の夢に向かって動くのがいいと強く思います。
神谷:あと、僕は校則関連の活動をしていますが、学校ってやっぱり閉鎖的空間ですよね。その空間をもっと地域のコミュニティとして活かすことができないかと考えています。
いままで先生たちや、私立校の場合は理事会の人たちがどうしても管理する教育をしてしまって、大人が生徒を抑え込むような形でやってきてしまった面があると思います。
それは90年代や2000年代には成功してるけど、いまは「これはおかしいでしょ」と社会の流れが変わってきています。だけど、そういうことを話し合う場が持てていないのが課題としてある。そのためにも学校と地域社会に話し合いの場を作っていけたら、と思います。
泉:刺さる言葉がたくさんあったね。私も役に立ってもいいし、立たなくてもいいと思うんですよ。「こうじゃなくちゃいけない」と思うとしんどくなるから。
「誰かの夢に生きてしまう」というのも刺さるね。子どもたちひとりひとりが人生の主人公になれるよう応援するのが教育のポイントやと思いますね。
――3人のプレゼンを聞いて、いかがですか?
泉:みんな自分自身の言葉をしゃべってますね。すごく大事な時間をいま一緒に過ごさせてもらってる気がします。みなさんに聞いてみたいのは、職業じゃなくてもいいんだけど、自分のこれからをどんなふうに思ってますか?
私が先に話すと、10歳の時に将来明石市長になると決めたんです。市長になったのは47歳の時なので、37年かかりました。それで12年市長を務めて去年辞めて、いま60歳です。私の子どものころの夢が「ふるさとの明石市を子どもにやさしい街にする」でした。50年かけて、10歳のころの自分の誓いをまずまず実現できたかなということになります。みなさんそれぞれ、どんなイメージですか? そんなに先のことじゃなくてもいいですし。
水野:私が未成年のうちに、子どもだけで子どもたちがやりたいことをやってみるプロジェクトをしてみたいなと思ってます。子どもたちが会社を作ったり事業を興したり、そういうことが当たり前になるのが理想だなと思います。
泉:(小林さんに)どう?
小林:先のことは全然わからなくて、半年後すらわからないけど、まずは自分を大切にしたいです。
泉:すでに色んな方から期待や評価をされていると思うんですけど、その道で行くイメージですか? いまとはまた違う展開も見えていますか?
小林:それを自分で決めたいなと思って。とりあえず自分が幸せじゃないと他人にも恩返しができないですから。自分をまず第一に優先して、そこから他人ですね。
泉:幸せもキーワードやね。自分も幸せ、親自身も幸せな方がいい。
神谷:僕も小林くんとほとんど同じですね。先のことを考えないで、いまを全力で楽しむ。未来の目標や過去の執着にとらわれず、いまを精一杯生きることが「遊ぶ」の頂点にあると思っていて。なので、目標はあるけど、夢のような壮大なものはないですね。
泉:確かに、その時その時を自分なりに生きるのも選択肢やね。いまは特に目標を持ちにくい時代だと思います。私が子どものころは目標設定がしやすかったんです。毎年親の給料が上がるような世の中だったし、将来の夢や目標が語りやすかったけど、いまは社会全体がどうなるか不安定だから。いまという時間を大事にする、そういった応援をしたいですね。
――今日はいかがでしたか?
水野:楽しかったです。こういう場所で意見を発表させてもらえてよかったし、いろんな人にそういう機会があればいいと思いました。
小林:普段は自分と同じような年の人としか話さないから、新鮮で楽しかったです。
神谷:僕も、大人とか子どもとか関係なく話せたことは、経験としてすごく大きかったと感じました。
泉:私も今日はほんと楽しかったです、皆さん自分の言葉でしゃべって、背伸びしてるわけでもなくて、本当に自然体。新鮮だったし、頼もしいというか。「友だちになって!」って感じですね。
一同:(笑)