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ジョン&ヨーコのクリスマスソングを決定づけた ニューヨークの “ハーレム地域合唱団” とは?

Re:minder

1971年12月01日 ジョン&ヨーコ&プラスティック・オノ・バンド・ウィズ・ザ・ハーレム・コミュニティ・クワイア の シングル「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」発売日

ジョン・レノンとポール・マッカートニー。2人の元ビートルズがグループ解散後に発表したクリスマスソングが、シングルレコードで11月7日に揃って再発売された。どちらもクリスマスシーズンに欠かせない名曲であり、もはやそれぞれのソロキャリアの代表曲のひとつと言ってもいいほどだ。

平和を訴えるパフォーマンスに力を入れていったジョン・レノン


グループでの活動中は『クリスマス・タイム』(Christmas Time is Here Again)をファンクラブ向けに配布するくらいで、いわゆるクリスマスソングをリリースすることのなかったビートルズの4人だが、最初に真正面からクリスマスをテーマにした曲を発表したのはジョン・レノンだった。それが1971年の年末に発表された「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」なのだが、そのメッセージの原点はジョン・レノンがまだビートルズのメンバーだった数年前にさかのぼる。

1968年の春から日本人の前衛芸術家、ヨーコ・オノと急速に親密な関係となったジョン・レノンは、ビートルズとしての活動と並行して平和を訴えるパフォーマンスに力を入れていた。代表的なものとしては、ベッドの上で1日中過ごしながら、招いたゲストや記者たちと平和について語り合う『ベッド・イン』。大きな袋の中に入って、肌の色や性別、年齢といった情報を一切隠して対話をする『バギズム』など。

いずれもセレブの奇行として世界中に報道されることになったわけだが、誰にも迷惑をかけることなく、奇人変人と笑われながらも、自身の影響力を最大限利用して世界平和のメッセージを訴えるというその無私・他愛の精神。そこが現代のインフルエンサーの炎上商法と違うところだった。

平和の祈りを込めたクリスマスソング


そしてその延長線にある活動として、1969年12月に『WAR IS OVER!』のキャンペーンが始まった。ニューヨークなど世界12都市に巨大な街頭広告が出現し、12月27日には『ニューヨーク・タイムス』に全面広告が打たれた。この時、泥沼化するベトナム戦争を続けるアメリカを始めとする世界各国の人々に伝えたメッセージが、《戦争はおしまい!(小さな字で)あなたたちが望めばね ジョンとヨーコからハッピー・クリスマス》。そう、ジョンとヨーコの存在と同じく、いまや平和のアイコンになっている、あのシンプルで力強いポスターのロゴはこの時に作られたものだ。

その約2年後の1971年。それまでの平和活動で、“いかにして世界に広くメッセージを届けるか” という、ある意味社会実験のようなパフォーマンスを続けてきたジョン・レノンがたどり着いた試みが、“世界中で聴かれるクリスマスソングを作り、そこに平和の祈りをこめる” ということだった。

1964年にアメリカが軍事介入を始めたベトナム戦争はいまだ終わっておらず、2年前のキャンペーンのフレーズ《戦争はおしまい!》を「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」という楽曲に発展させ、再び世に問うことになった。これまでの平和活動の、ある意味で集大成的な楽曲であり、ヨーコとのデュエットになることもおそらく最初から想定されていたのだろう。

「ハッピー・クリスマス」に参加したハーレム地域合唱団とは?


アーティスト名義は “ジョン&ヨーコ&プラスティック・オノ・バンド・ウィズ・ザ・ハーレム・コミュニティ・クワイア”。少々長いが、これが正式なクレジットだ。

この “ハーレム地域合唱団” についていろいろと調べてみたところ、やはりこれはこの曲のレコーディングのために招集した合唱団だったらしい。このシングルのジャケットに使われたのは、ニューヨークのレコード・プラント・スタジオで撮影された写真で、ジョンとヨーコがコーラスに参加したハーレムの子どもたちに囲まれている。ハーレムはとにかく教会が多い地域である。そう、いかにも普段から聖歌を歌い慣れているという雰囲気で、彼らの歌声がこの曲の雰囲気を見事に決定づけた。

そして共同プロデュースはフィル・スペクター。彼が門下のアーティストたちを集めて作った『クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター』(1963年)を聴いていないロックンロールのファンはいないだろう。要するにジョンは、スペクター・サウンドに平和と反戦のメッセージを添えて、1970年代に相応しいクリスマスソングを作ってみせたわけである。単なる年中行事にすぎず、消費社会の象徴ですらある現代のクリスマスに、明確な反戦のメッセージを結びつけたのも偉大な発明だった。

ジョン・レノンという人間のスケールの大きさ


忘れてはならないのが、歌い出しの直前に暗号のように挿入されたジョンとヨーコの “囁き” である。純粋な愛の体現者として見られることも多い2人だが、彼らが出会った時はすでに双方ともにパートナーがおり、下世話な言葉で言えばダブル不倫であった。“ハッピー・クリスマス キョーコ、ハッピー・クリスマス ジュリアン”。この曲は離れて暮らす2人の子どもたちへの極私的なメッセージでもある。世界平和への願いという体をとっておきながら、その正体は世界一壮大な私信というなんともロマンティックな仕掛け。

メッセージの純粋さやメロディの美しさもさることながら、ジョン・レノンという人間のスケールの大きさに、この曲を聴くたび圧倒されてしまうのだ。最近は、その後にポール・マッカートニーが発表した「ワンダフル・クリスマスタイム」(1979年)に定番クリスマスソングの地位を奪われてしまった感があるのは、近年の社会が思想の強さと個人主義を極端に忌避する傾向にあることを示しているような気がするのだが、その話はまた別の機会に。ハッピー・クリスマス!

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