宮沢りえ主演舞台 時代も国境もジェンダーも飛び越えて自らを探求する壮大なドラマ『オーランド』プレスコールレポート
2024年7月5日(金)より、PARCO劇場にてPARCO PRODUCE 2024『オーランド』が上演される(6月29日に埼玉で開幕、8月には愛知、兵庫、福岡と巡演)。
ヴァージニア・ウルフの代表作である本作は、16世紀のイングランドに生まれた美貌の青年貴族でありながら、一夜にして女性に変身してしまい、世紀を超えて激動の時代を生き続けるという数奇な運命をたどるオーランドの人生を描いており、宮沢りえを主演のオーランド役に迎え、演出を栗山民也が担っている。
共演者にはウエンツ瑛士、河内大和、谷田歩、山崎一と、舞台・映像等幅広く活躍する個性豊かな実力派キャストがそろい、オーランドが出会う年代や性別の異なる複数の人物を4人で演じ分ける。
翻案の岩切正一郎、演出の栗山民也、出演の宮沢りえ、ウエンツ瑛士、河内大和、谷田歩、山崎一から届いたコメントと、東京公演初日に先立ち行われたプレスコールの様子をお伝えする。
コメント
●翻案:岩切正一郎
いよいよ幕が開いた『オーランド』。観客がみつめる舞台の上で、生きることと演じることとが深いところで一つになり、さまざまな感情を観る者に呼び起こす、これぞ演劇! としか言いようのない強烈なリアリティーが立ち上がっていました。
舞台は生き物。毎回の上演で、お客様との豊かな相互作用のなか、毎回違った舞台が生まれるのだなあ、と思うとわくわくします。
そこには、演劇的なリアリティーを作り出す声、演技、振り付け、装置、衣裳、照明、音響、音楽、演出などなど、たくさんのエレメントを堪能できる、一期一会の出会いもあります。
『オーランド』の醍醐味を多くの方に味わっていただけると嬉しいです。
●演出:栗山民也
PARCOの初日を前にして、この360年の歴史が転がるように進むドラマに、未だいくつもの問いが頭に浮かんでいます。だけどそのこと自体がとても愉快で新鮮で、実はその問いこそがこの劇の大事な根っこなのかもしれないと思えるのです。初めて見たもの聞いたものに対し、その正体がわからなければまず問うことから始めるはず。この全てが溢れかえった情報過多の毎日、なんの疑いも持たず安穏としているわたしたちの前で、オーランドはその場に何度も立ち止まり、自らに問うのです。そしてその大事さを強く噛み締めるのです。
稽古が始まって5週間、いつもよりも、よりたくさんの奇妙で楽しい旅をしてきました。エリザベス朝から現在までを好奇の眼で見つめ続けたオーランドの全身で受けとめた体験を、どうぞ劇場で。
●宮沢りえ
オーランド、台本を頂いた時、今までに無い感覚があって、、どんな舞台になるのか不安でいっぱいでした。その時、演出の栗山さんが『始めから想像がつく事より面白いでしょ?』といたずらっ子の様におっしゃったお言葉を信じ、踠きながら稽古を重ねてきました。
彩の国で初日を迎え、本当に温かい拍手を頂いた時、作品を創ることの喜びと興奮を浴びた感覚でした。その事をエネルギーに1ステージ1ステージ大切に、観客の皆さんと『オーランド』を体験していけたらと思います。
●ウエンツ瑛士
まず無事に埼玉で幕を開けられた事、ホッとすると同時にとても感謝しています。
振り返れば1ヶ月前この迷路のような台本と格闘していたと思うと、人生で最も濃い1ヶ月だったんじゃないかと思います。栗山さんの指し示す道に自分のできる事を最大限詰め込んで、時に先輩方に甘えながら真っ直ぐ歩いてきました。今はやっとひとつの扉が開いただけ、ここからもっともっと「存在」を強めていきたいです。
この作品の魅力は余白がある事だと思います。セリフは「詩」の様に沢山の意味を含んで、いまかいまかと発せられるのを待っています。その合間合間に、どれだけの情景や言葉を皆さまの脳内に浮かばせられるかが勝負でありこの作品の醍醐味です。それは決して説明ではなく、表現ではなく、「存在」だと信じています。
素敵なキャスト、スタッフに囲まれて幸せに毎日を過ごしています。
この作品が皆様の生活の潤いになりますように。
●河内大和
この作品がどうお客様に届くのか本当に未知の世界で、初日の緊張感はものすごかったです。でも、劇中の時間の経過とともにお客様の集中力がぐんぐん増していくのを肌で感じ、かなり苦しんだ稽古だったので緊張し過ぎて口の中がパッサパサで大変でしたが、お客様総立ちのカーテンコールに本当に感動しました。男でもあり女でもあるオーランドという"人間"の本質に光を当て影を作るコロス、愛すべき役たちも今は大好きです。オーランドと一緒に気持ちを共有しながら400年を生きる体験、最後には言葉にならない不思議な感覚になると思います。是非、劇場に体感しにいらして下さい。
●谷田歩
自分にとっては非常に難しい作品で、稽古の最初から迷いっぱなしでしたが、栗山さんの演出の力を貰い、キャストの皆さんの力を借りて何とか形にする事が出来ました。まだまだ完成形ではありませんが。劇場に入ってからも何度も失敗し、それを何とか次の日に修正するという事の繰り返しで、人生で初めてくらいの物凄い緊張感のある初日でした。
でも、このオーランドと言う難しい戯曲のパズルを最後に埋めてくれたのが劇場に入って観に来てくれたお客さんでした。自分では気付かなかったシーンもお客さんの集中や反応で何か違う新鮮なモノを掴めたし、この作品はやればやるほど成長していく戯曲なんだと言う事を、実感として理解出来た様な初日でした。これからPARCOと地方公演が始まります。最後まで瞬間を精一杯生きてこの戯曲の肉の一部になって行ける様に日々発見していきたいと今は思っています。
●山崎一
彩の国での2ステージが終わりました。
初日の、異様な緊張感の中はじまった芝居は只々無我夢中の2時間半でした(こんな初日は久し振りです)。芝居が終わって立ち上がりお辞儀をした時、お客さまのスタンディングオベーションに思わず目頭が熱くなりました(やはりこんな初日も久し振りでした)。
おそらくこの作品は宮沢りえさんの代表作のひとつになるでしょう。それほど素晴らしい作品だと思います。その作品に参加出来たことを誇りに思っています。
皆様、どうぞ『オーランド』観に来てください!
劇場でお待ちしています。
プレスコール
マスコミに公開されたのは、冒頭から約25分間のシーン。美貌の青年・オーランド(宮沢りえ)が丘の上に立つ樫の木の下で、ひとり思いを巡らせているところから始まる。宮沢は上下黒で統一された品の良さを感じさせる衣裳を身にまとい、颯爽と舞台中央から登場する。凛々しさの中に茶目っ気ものぞかせるような表情の変化や、立ち振る舞いの美しさに目を奪われ、観客もオーランドの魅力に引き込まれる。
オーランドを寵愛するエリザベス女王を演じるのは河内大和。衣裳、動き、表情など女王の威厳がありながらも妖しい雰囲気たっぷりの存在感に圧倒される。
やがてオーランドはロシア大使の姪・サーシャに恋をするが、サーシャの裏切りにより心に傷を負う。宮廷を追放された後に田舎で詩を書き始めるが、詩人のニック(山崎一)に自信作を酷評される。山崎の飄々とした居ずまいが、ショックを受けたオーランドとのよい対比を生んでいて、可笑しさと悲哀が混在する印象的なシーンになっている。
ルーマニアの皇女・ハリエット(ウエンツ瑛士)から猛烈なアプローチを受けて辟易としたオーランドは、逃げるように外交官としてトルコに渡る。ウエンツが鼻持ちならない女性を絶妙に演じており、オーランドがハリエットを嫌悪する気持ちに思わず共感してしまうほどだ。
この後、オーランドはトルコ大使として政務に務め、暴動の最中に7日間の昏睡状態に陥り、眠りから覚めると身体が女性に変身してしまうのだが、フォトコールはトルコに渡ったところまでで終了となった。
タイトルロールとして舞台に立つ宮沢のきらめきが冒頭から力強い牽引力で物語の世界へといざなう。描き方によっては、コミカルさが前面に出てきてもおかしくないほど個性的なキャラクターが次々と現れるが、栗山の演出はあくまで「人間ドラマ」として、オーランドが自らを探求する過程を描いているように感じた。インパクトはあるが気品ある衣裳(前田文子)や、物語を通じて象徴的な存在となる樫の木を中心に洗練された美術(二村周作)など、スタッフワークが栗山の思いに応える。
美しい貴族青年のオーランドが、この後どのような女性に変貌を遂げてしまうのか。そして16世紀から20世紀まで生き続けたオーランドはどのような人生をおくったのか、劇場でぜひ目撃して欲しい。
取材・文・撮影=久田絢子