新空港線(蒲蒲線)の構想を国が認定。その実現によって期待される効果と課題は?
新空港線(蒲蒲線)の構想が前進。国際競争力の強化へ
「失われた30年」という言葉が示すように、日本の国際的な位置づけは、ここ30年で相対的に低下した。例えば2005年の一人当たりの名目GDPは、OECD加盟国の中で13位だった。それが2023年には22位まで下がっている。日本の国力低下は、首都である東京の競争力低下ともいえる。したがって、東京圏の国際競争力の強化や地域経済の活性化は急務だろう。その施策の一つとして考えられるのが、国際空港である羽田空港への鉄道アクセスの向上だ。
2025年4月、国土交通省は東急電鉄「蒲田駅」と京浜急行電鉄「京急蒲田駅」を結び、羽田空港へのアクセスが向上する新空港線、いわゆる蒲蒲線の営業・整備構想を認定した。この構想が実現すれば、私たちの生活はどのように便利になるのか、課題は何か、などを解説しよう。
現在約800m離れている2つの「蒲田駅」
新空港線は、東急電鉄多摩川線「矢口渡駅」の近くから路線を地下化し、京浜急行電鉄「京急蒲田駅」の地下を通って「大鳥居駅」の手前で京急空港線に乗り入れる構想だ。その間にある東急電鉄「蒲田駅」と京浜急行電鉄「京急蒲田駅」は、約800m離れており、長年ミッシングリンク(分断された鉄道網)といわれてきた。
この構想は以下の2段階に分けて整備していく予定だ。
第一期整備
「矢口渡駅」と「京急蒲田駅」の地下駅を建設する。羽田空港方面へ向かうには、新設する地下駅から「京急蒲田駅」へ乗り換えが必要になる。
第二期整備
さらに地下化を進め、京急空港線の「大鳥居駅」付近で同路線に乗り入れる。乗り換えなしで羽田空港まで行くことができ、利便性は大幅に向上する。しかしながら、東急電鉄と京急電鉄では、レール幅が異なるなどの課題があり、実現のめどはたっていない。
なお整備は、東急電鉄「蒲田駅」がある大田区と東急電鉄が設立した第三セクターである羽田エアポートライン株式会社が担う。整備にかかる費用は、3分の1が国から、3分の1が地方自治体(東京都と大田区)から補助金として交付され、残りの3分の1は整備主体が株主(大田区と東急電鉄株式会社等)からの出資や銀行などからの借り入れにより調達することになる。今回認定されたのは「第一期整備」で、総事業費は約1,250億円と見込まれている。
新空港線の開通によって期待される効果
新空港線の開通は、東急多摩川線を経由して東急東横線、東京メトロ副都心線、東武東上本線、西武池袋線と相互直通運転を実現する。そのことで東京の国際競争力強化の拠点である新宿や池袋をはじめ、東京都北西部、埼玉県南西部から羽田空港へのアクセス性向上が期待できる。また、蒲田駅周辺エリアの都市機能の向上や活性化も期待されている。
アクセス性向上の具体例
・東急東横線「中目黒駅」ー「京急蒲田駅」付近
約 36 分⇒約 23 分(約 13 分短縮)
・東急東横線「自由が丘駅」ー「京急蒲田駅」付近
約 37 分⇒約 15 分(約 22 分短縮)
・東急東横線「中目黒駅」 ー 京急空港線「羽田空港第 1・第 2 ターミナル駅」
約 50 分⇒約 42 分(約 8 分短縮)
・東急東横線「自由が丘駅 」ー 京急空港線「羽田空港第 1・第 2 ターミナル駅」
約 51 分⇒約 34 分(約 17 分短縮)
・東京メトロ副都心線「新宿三丁目駅 」ー 京急空港線「羽田空港第 1・第 2 ターミナル駅」
約 61 分⇒約 54 分(約 7 分短縮)
大田区の試算によると経済波及効果は、開業初年度で新空港線の整備と蒲田駅周辺の再開発によって約2,900億円、開業10年間で約5,700億円となっている。対象を都内や埼玉県、神奈川県の一部まで広げると10年間で約1兆200億円という莫大な金額になる。
一方で実現への課題も山積している
今回、認定された整備構想では、整備の開始予定が2025年10月、終了予定が2042年3月となっている。だが、開通までの道のりは、まだまだ険しいといわざるを得ない。まず、前述のように東急電鉄と京急電鉄では、レール幅が異なるという課題がある。東急のレール幅は京急よりも狭いのだ。車輪の位置を動かす「フリーゲージトレイン」の採用が考えられるが、今のところこの車両の実用化自体が実現していない。また、既存の蒲田駅周辺が建物密集地のため、全線地下化しなければならず建設費が高額になる、羽田空港の国際化が蒲田駅周辺の活性化に直結しないといった意見もある。
とはいえ、東京圏の国際競争力の強化は、多くの人が望むことだろう。JRによる羽田空港アクセス線の計画も進み、便利になる羽田空港。新空港線構想の進行も見守っていきたい。
大田区 新空港線(蒲蒲線) 公式サイト