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紅組最多出場 石川さゆりの軌跡【第74回NHK紅白歌合戦】今年は「津軽海峡・冬景色」

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2023年12月31日 NHK「第74回NHK紅白歌合戦」放送日(石川さゆり 出場)

「紅白歌合戦」に女性歌手最多出演の石川さゆり


郷ひろみ、さだまさし、石川さゆり。この三者に限定された共通点がある。それはなんだろうか? それは── 今から44年前、旧ジャニーズ事務所所属の歌手が1組も出場しなかった1979年の『NHK紅白歌合戦』(以下、紅白)に出場し、かつ、旧ジャニーズ事務所所属者が出演しない2023年の『紅白』にも出場する歌手だということである。

この三者の中で、さだまさしの出場は断続的であり、2023年が22回目である。郷ひろみも出演しない時期が何度かあるため2023年で36回目の出場だ。しかし、石川さゆりは1977年の初出場以来、一貫して『紅白』に出演を続けており、2023年で通算46回出場となる。1983年のみ産休で歌手としては不出場だったが、特別応援ゲストとしてステージに登場した。そして、産休明けの1984年から40年連続出場を達成。通算46回出場は紅組歌手として第1位の記録で、北島三郎(51回)、五木ひろし(50回)、森進一(48回)に次ぐ、全出場者中第4位となっている。1985年以降は終盤コーナーの常連となり、2023年までに紅組トリを9回、大トリを1回務めた実績がある。

ⓒNHK(1977年 第28回NHK紅白歌合戦)

「津軽海峡・冬景色」と「天城越え」を交互に歌うスタイルを確立


演歌が売れない時代になり、2023年に『紅白』で紅組から出場する演歌歌手は石川さゆり以外に坂本冬美、天童よしみ、水森かおりの計4組。演歌ファンでなくとも、「もうちょっと出てもいいのでは?」と思うレベルである。近年、たびたび出演していた丘みどり、島津亜矢の名前はない。かつて常連だった、小林幸子、藤あや子、伍代夏子、香西かおり、長山洋子、中村美律子らも去って久しい。八代亜紀は20年以上出場していない。石川さゆりだけ桁違いの存在なのである。

2007年以降は、「津軽海峡・冬景色」と「天城越え」を交互に歌うスタイルを確立し、それが年末の風物詩として定着した。『紅白』への長きにわたる連続出場、1年の最後に石川さゆりの歌をしみじみと聴くことを楽しみにしている人が多くいる事実は、彼女の日本の音楽文化における不動の地位を物語っている。

幻のホリプロ “3人娘” のメンバー


石川さゆりは中学生だった1972年に、『ちびっ子歌謡大会』(フジテレビ系)に出演し、大手芸能プロのホリプロにスカウトされたことで芸能界入りを果たす。同年、沖雅也主演のテレビドラマ『光る海』(フジテレビ系)にレギュラー出演。1973年に「かくれんぼ」という楽曲でアイドル歌手としてデビューした。当初は同年代の森昌子、山口百恵と共に “ホリプロ3人娘" としてプロモーションされたが、この枠組みは短期間で頓挫。その直後に、彼女がいたポジションに、別のプロダクションに所属する桜田淳子が収まり、”花の中3トリオ” として爆発的人気を獲得するのだった。

石川さゆりは、この屈辱的体験をバネに、戦前より活躍する歌手の二葉百合子の元で歌唱技術を基礎から学び直し、民謡や日舞など新たな技術を吸収することで、芸の幅を広げた。当時はまだ10代。森昌子、山口百恵、桜田淳子らが華やかな活動をしている頃に、キャリアの礎となる時間を過ごしていた。そんな彼女が、表舞台に立つきっかけとなったのが1977年、デビュー4年目のシングル「津軽海峡・冬景色」である。

「津軽海峡・冬景色」という財産

今日に至るまで演歌の名曲として広く認識されている「津軽海峡・冬景色」(作詞:阿久悠 / 作編曲:三木たかし)は、1976年『365日恋もよう・花供養』というアルバムに収録され、彼女が19歳になる直前の1977年1月1日にシングルカットされる。この曲は、上野駅から出発し夜行列車で雪深い青森駅に至り、そこから青函連絡船で津軽海峡を渡るどこか寂しげな旅人たちの姿を描いた叙情的な詞と、情感に訴える哀愁を帯びたメロディ、ドラマティックなアレンジによって構成されている。

1977年を代表するヒット曲となり、オリコン週間チャート最高位は6位。第19回日本レコード大賞の歌唱賞、'77FNS歌謡祭のグランプリと最優秀歌唱賞、第10回日本作詩大賞の大衆賞など数々の賞を受賞した。また、青函トンネルの開通により青函連絡船が廃止された1988年以降は、昭和という時代への郷愁を誘う曲としての価値が付加された。単にヒット曲ということだけではなく、社会的・文化的な影響力を通じて、「津軽海峡・冬景色」は石川さゆりのキャリアにおけるかけがえのない財産となった。

「天城越え」の挑戦と成功

一方、「天城越え」(作詞:吉岡治 / 作曲:弦哲也 / 編曲:桜庭伸幸)は1986年にリリースされた挑戦的な楽曲だ。制作者側は当時28歳の石川さゆりの歌唱力と表現力を最大限に引き出すために、情念のこもった歌詞と難度の高いメロディを用意した。この曲は第28回日本レコード大賞で金賞を受賞したが、オリコン週間チャートでの最高位は46位。当時はそれほどヒットしたわけではないのだ。だが、その後、カラオケボックスの普及により、演歌ファン以外にも支持される曲に昇華した。カラオケボックスで、J-POPを好む若い女性が、変化球的な見せ場として突然「天城越え」を情熱的に歌って場を盛り上げるというありがちなパターンも生まれた。

第一興商によると、通信カラオケ「DAM」がサービスを開始した1994年4月から2018年までのデータで、「天城越え」は演歌でもっとも歌われた楽曲であり、全楽曲のなかでも4番目に歌われた曲だという。「紅白」では、1986年から数回にわたり披露され、2007年以降は「津軽海峡・冬景色」と交互に歌われることで、ヒット曲ではない「天城越え」は、屈指の名曲としての認知度を高めることになる。

さらに磨きがかかった最新バージョンの「津軽海峡・冬景色」


若年層のなかには、石川さゆりを、“大晦日に「津軽海峡・冬景色」と「天城越え」を交互に歌う演歌歌手” として捉えている人もいるかもしれない。確かに『紅白』では割り切って求められるものを提供している。だが、普段の石川さゆりは、常に新しい刺激を追求する現役のヴォーカリスト兼エンターテイナーであるのだ。

その探求心の表れのひとつに、散発的に行っている俳優活動がある。もともと、芸能界デビューの作品はテレビドラマであり、70年代より80年代の初頭にかけては多くの作品に顔を出していた。1979年の『大空港』(フジテレビ系)では、レギュラーとして刑事を演じた。

80年代以降しばらくは歌に専念していたが、2000年代以降は『功名が辻』(2006年)、『麒麟がくる』(2020年)と2本のNHK大河ドラマに出演。2023年公開のヴィム・ヴェンダース監督による映画『PERFECT DAYS』では居酒屋の女将を演じ、2024年1月には『ラヴ・レターズ〜2024 New Year Special〜』という朗読劇で古田新太とガチンコ共演する。これらの活動を通じて彼女は新たな挑戦をしているのだ。

また、毎年コンスタントに1〜2枚の新作シングルを発表しており、2000年代後期以降、既存の演歌系作家の作品の間に挟み込むように、演歌の枠を超えた楽曲に取り組んでいる。奥田民生、さだまさし、宮沢和史、椎名林檎、つんく、大野雄二、小渕健太郎(コブクロ)、水野良樹(いきものがかり)、亀田誠治、いしわたり淳治、Kinuyo、箭内道彦、佐橋佳幸、加藤登紀子、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)、NARGO(同)など、さまざまなミュージシャンたちとのコラボレーションを通じて、新たな音楽の地平を開拓。常にアップデートを続けているのだ。

そのアップデートは、「津軽海峡・冬景色」「天城越え」の円熟度アップにもつながっている。2022年の『紅白』での歌唱曲は「天城越え」だったので、2023年の大晦日には、さらに磨きがかかった最新バージョンの「津軽海峡・冬景色」を聴くことができるだろう。

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