もし子どもから「学校に行きたくない…」と言われたら…親や周りの大人はどうすればいい?
不登校が増える連休明け。子どもに寄り添う接し方のコツを心理カウンセラーが指南
新年度が始まって1か月が過ぎました。ゴールデンウィークなど長期休み明けに緊張の糸が途切れて「学校に行きたくない」と訴える子どもが増えるケースが多く見られます。
親や周りの大人はどう接すればいいのか、心理カウンセラーのイム・ソネさんに、SBSアナウンサーの岡村久則が聞きました。
岡村:この番組にも、先日「娘さんがクラス替えをして、友達と馴染めずに学校を休むようになった」というメッセージが来ていました。この時期、学校に行きたくないという相談が増えるんでしょうか。
イム・ソネ:そうですね。ここ数年、どんどん増えています。特に春は、環境の変化が大きい時期ですからね。
岡村:昔から「五月病」という言葉があります。大人でも、新しい環境によるストレスで気持ちがついていかないことは大人にもありますよね。イム・ソネさんのお子さんはどうでしたか。
イム・ソネ:うちの長女も2年くらい前に、朝になると泣きながら「学校行きたくない」と言うことが定期的にありましたよ。
まずは気持ちを受け止めてあげる
岡村:そんな時、親はどう対応すればいいんでしょうか。
イム・ソネ:まずは、気持ちを受け止めてあげることが大事です。
例えば「音楽の授業で僕だけリコーダーが下手って言われた」と子どもが言ったとして、「本当にそんなこと言うかな?」と疑問に感じたとしても、「そうなんだ」「そんな風に言われたんだね」「どんな気持ちだったの?」とオウム返しでいいので、まずは受け止めてあげたいですね。
岡村:「なんで行けないの?」と問い詰めたり、「そんなの大丈夫、頑張って」と励ましたりするのは、逆効果ですか?
イム・ソネ:それは“ステップ2”かなと思います。“ステップ1”は受け止める。親にも仕事があるから「今日は行ってもらわないと困る」とか事情がありますよね。
それを伝えるよりも、「そっかそっか」と受け止めてから、「でも…」と伝えていく。“Yes,Yes,but(イエス・イエス・バット)”の形で背中を押してください。「肯定・肯定・メッセージ」です。それでも続くようなら、大人側の調整も必要だと思います。
学校は「非選択性の連続」
岡村:特に朝、急に「行きたくない」と言われると親も焦りますよね。気持ちが前を向いていない時、理由がはっきり言えないこともあると思います。そういう時に親はどう判断したらいいんでしょうか。
イム・ソネ:理由が明確じゃないこと、実は多いんです。学校って「非選択制の連続」なんですよね。やることがすべて決まっている中で、子どもは息苦しいなと思ったり、無意識に同世代と自分を比べて自己肯定感が下がることもあるし、心や体が疲れることもあると思うんです。
まずは、リフレッシュさせてほしいですね。ちゃんと眠れているか、小さな子なら排泄物が出ているかなど、日常の様子を見てあげるのがとても大切です。私は普段から気にしています。
岡村:ほんの少しの体調変化や、笑顔が減ったといった気持ちの変化って、見逃したくないですよね。
イム・ソネ:ちょっとした変化に気づけるようにしたいですね。
岡村:私も家にいるとすぐスマホを見ちゃうんですけど、そうじゃなくて、親はスマホじゃなくて子どもの顔をちゃんと見てあげることはとっても大事かなって改めて思います。
好きなことに没頭する時間を作ってあげる
岡村:ストレスに強い子どもに育てるために、生活習慣で意識できることはありますか。
イム・ソネ:子どもの気質にもよると思いますが、おっとりしたタイプの子は自分の好きなことに没頭する時間を作ってあげることがすごく大事です。ゲームをとことんやらせてあげるとか、漫画をずっと読むとか、好きな絵を描くとか、何でもいいんです。ボーッとすることも、熱中するってことも大事。
怒りっぽかったり、ほがらかで献身的なタイプの子はエネルギーがあり余っています。エネルギーが負の状態で体に溜まると不調になってしまうので、大きな声ではしゃいだり笑ったり、体を動かすってことが大事です。
家の中で大声を出せない時は公園で走り回るとか、カラオケに連れていくのもすごくいいんですよ。また、睡眠は日中のストレスを整理して回復させる役割があります。体の疲れだけじゃなく、心を強くするためにも質の高い睡眠を取ることも大事です。
スマホやゲーム…子どもの「好き」を敵にしない
岡村:うちの子はずーっとYouTubeのショート動画を見ていますが、こういった場合、どんな声かけをすればいいのでしょうか。
イム・ソネ:最近、学校からスマホやゲームについての講演依頼をいただ子どもいますが、ポイントは「スマホやゲームを敵にしない」ことですね。スマホやゲームを駄目だと言わないことがとても大切です。
岡村:なるほど。
イム・ソネ:大人は、成長を妨げると感じてやめさせたいと思うんですが、子どもにとっては大事な楽しみの一つです。その気持ちを理解し、調整してあげる声かけを心がけてください。
ゲームは1時間だよと決めたのに、子どもがつい「もうちょっと」と言うときは、「どこまで進んだの?」「どのキャラ使ってるの?」と一緒に楽しんでみます。「こういうのやってるんだね」「誰が上手なの?」と会話しながら、「そろそろご飯だから一回終わりにしよう」とか、「1時間って言ったけど、もう過ぎてるからあと10分だけね」といった具合に、一度は共感を示すと伝わりやすくなります。
岡村:共感が大事なんですね。「ゲームを捨てたよ」「隠したよ」なんて言ってはダメということですね。
イム・ソネ:そうですね、奪われたものは取り返したくなりますから、執着が強くなってしまいますね。
“ひと呼吸”が親子の関係を変える
岡村:一方で、親の方も、仕事や家事に忙しく、子どもに対してイライラしてしまうことがあるかもしれません。親のメンタルコントロールはどうしていけばよいのでしょうか?
イム・ソネ:イライラしたまま伝えても良いことはありません。親はどうしても子どもをコントロールしようとして、感情的に怒ってしまいがちですが、イライラの原因は子どもには関係ないことが多いです。親はひと呼吸おいて、負の感情を整理することが大切です。
岡村:子どもにきつい言い方をしてしまうと「なんであんな言い方しちゃったんだろう」と後悔します。
イム・ソネ:自分の感情の背景を見つめ直して、疲れがたまっているのか、焦っているのか、何度言っても伝わらないことにイライラしているのか、そこを見極めたいですね。
すべてを頑張る必要はない
岡村:大型連休明けは大人でも「仕事に行きたくない」という気持ちになることがあると思います。どう向き合っていけばいいのでしょうか?
イム・ソネ:行きたくないと思う自分をちゃんと肯定してあげてほしいですね。「こんなこと思っちゃダメだ」と思えば思うほど、その気持ちから離れられなくなります。その気持ちを紙に書き出してみるとか、ちょっとした楽しみを見つけるのもいいと思います。
仕事が憂鬱でも、昼食や移動中のラジオを楽しみにしたり、ちょっとしたことで気分が変わることもあります。すべてを頑張る必要はないんですよ。
岡村:最後に、長期の休み明けに意識しておいた方がいいことがあれば教えてください。
イム・ソネ:まずは無理にギアを上げず、少しずつ頑張っていくことが大事です。子どもが休みたいと言った場合には、そんな風に正直に言ってくれる関係性がちゃんとできていることに注目してほしいです。
※2025年5月5日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。今回お話をうかがったのは……イム・ソネさん
心理カウンセラー・公認心理師。9才と6才の子を持つ、二児の母。十数年の教員経験を生かして、延べ2000人の子育て世代の悩み相談を解決へ。アメリカ発祥の感情コントロールメソッド「アンガーマネジメント」を専門とした講座を多数開講中。企業や学校教職員向けのマネジメント研修講師も務める。