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富士が見守る湧水の里、山梨県都留市。清らかな風景に胸躍る旅【徒然リトルジャーニー】

さんたつ

2-7徒然都留市

山梨県東部地域の一角を占める都留(つる)市。富士山に降った雨や雪が長い歳月をかけ湧出する最終地の一つとされ、幾筋もの川が伏流水を集めて山あいを縫うように流れ下る。清らかな風景が広がるなか、新たなる邂逅(かいこう)に胸躍らせながら市内を探索した。

cafe織水_orimizu(カフェおりみず)

アクセス

鉄道:JR・私鉄・地下鉄新宿駅から中央本線・富士急行線で約1時間30分の谷村町駅ほか下車。

車:中央自動車道八王子ICから同自動車道・同富士吉田線を利用し、都留ICまで約52km。同ICから市中心部まで約2km。都留市北部へは中央自動車道大月ICも利用可。

「富士湧水の里」を観察する

「つるフィールド・ミュージアム」分館のある富士急行線都留文科大学前駅待合室で、『フィールド・ノート』なる冊子を目にした。なんでも待合室での展示を手がけた都留文科大学地域交流研究センターの機関誌らしく、「都留を観察し、記録し、学び合う」をテーマに2002年に創刊されたものだとか。驚くべきは大学生が編集したとは思えぬ出来ばえで、書籍編集をなりわいとする私から見ても、商業出版物と見まがうほどの質の高さである。丹念な取材を通じてまとめた記事も地に足がついた掘り下げぶりで、通りすがりの身としては少々肩身が狭い。

その『フィールド・ノート』の既刊の表紙にもなっていたのが太郎・次郎滝で、「富士湧水の里」をうたう都留市の象徴的場所だそう。住宅の間の狭い道を下り、柄杓流(しゃくながれ)川に架かる小さな橋を渡ると、「なるほど、これはいい場所だなあ」と思わず独り言が漏れた。富士山の伏流水が育んだ名所は数あれど、それらとは様相が異なり、まるでここだけ隔絶された異空間のような趣が漂う。しばし至福の時間に身を委ねてから、太郎・次郎滝を後にした。

さらなる出会いを求め、水から水へと巡り回る

さらに十日市場・夏狩(なつがり)湧水群を訪ね、湧水で醸した評判の天然醸造純米酢を買い求めてから市街地へ出た。

これまでは富士五湖方面へ向かう際、山梨リニア実験線の橋梁をくぐり抜けながら、「この辺が都留市かな」程度の認識しかなかったが、いざ興味深く市内を巡ると、気さくなドレッシング工房や気合十分の手打うどん店、アイデア豊富な和洋菓子店など、店主の個性や意気込みが伝わる店が多いことに気づいた。商店が軒を連ねるようなにぎわいはないものの、地域の特性に乏しい商店街やショッピングモールより、はるかに魅力に満ちている。

さて、今まで橋の下を通過するだけだったリニア実験線の脇にあるのが『山梨県立リニア見学センター』で、運よく走行試験日に当たれば時速500㎞で疾走するリニアを見られるそう。この日は珍しく運を引き寄せたようだが、ほんの一瞬で目の前を通り過ぎてしまうので気が抜けない。

リニア実験線のトンネルが貫く九鬼山は、富士山の眺望でも知られる低山で、麓の登山口近くには店名に「水」を織り込んだ『cafe織水_orimizu』がある。かつての水車小屋を自らフルリノベーションし、目の前の落合水路橋を見られるよう座席を配置した店内は、郷愁を誘う造りで、心なしか時の流れも緩やかだ。「乗るつもりだった帰りの電車を1、2本遅らせて、店でゆったり過ごしていくお客さんも多いんですよ」と店主の若林昌彦さんは小さく笑ったが、たしかにその言葉が納得できる空間だなと私も深くうなずいた。

「つるフィールド・ミュージアム」分館

駅待合室を活用し、大学生が身近な自然を紹介

展示に携わった大学生の皆さんと協力研究員で同大卒業生の菊池香帆さん(後列右)。

富士急行線と公立大学法人都留文科大学が手を組み、都留文科大学前駅待合室を活用して地域の自然や動植物、文化などを紹介。同大学地域交流研究センターで指導に当たる北垣憲仁教授の薫陶を受けた学生や卒業生自らがテーマ選定から調査・撮影、展示までを手がけている。展示替えは年4回程度。分館が先行オープンし、本館は2025年度運用開始予定。

水のある風景

富士山の伏流水が育んだ湧水の里を訪ね歩く

崖に沿って優美に流れ落ちる太郎・次郎滝。
長慶寺境内からすぐの湧水池。夏には梅花藻の白い花が彩る。
大月市の駒橋発電所へ水を送る落合水路橋。
田原の滝の上部を富士急行線の車両が軽やかに走り抜ける。

個性的な滝や清らかな湧水、そして各所に張り巡らされた用水路。潤い豊かな風景が広がる都留は「湧水の里」の形容が似合う。代表格は十日市場・夏狩湧水群で、なかでも柄杓流川に注ぐ太郎・次郎滝は、周辺の崖から湧き出る無数の伏流水の美しさも加わり、心が洗われる散策スポットでもある。周辺の長慶寺や永寿院も湧水の地として知られ、松尾芭蕉が立ち寄り一句詠んだ田原の滝も外せない。菅野川と朝日川の合流地点に架かる明治40年(1907)築の落合水路橋は国の登録有形文化財で、煉瓦造りのレトロな姿が印象深く、市街地を流れる家中(かちゅう)川には小水力発電所の「元気くん」が設置されている。

戸塚醸造店

時間と手間をかけ、心を込めた天然醸造純米酢

熟成後の酢は濾過せずに滋味を残し、甕(かめ)の中の上澄みのみを瓶詰めする。
左から、心の酢(500ml886円)・ゆず香・塩ぽん酢・ぽん酢醤油。

「添加物を加えず、菌の都合に合わせた昔ながらのお酢造りに取り組んでいます」と代表の戸塚治夫さん。富士山の伏流水で仕込み、酵母や酢酸(さくさん)菌の力で醸した純米酢は芳醇で味わいもまろやか。麹造りから醸造・販売まで全行程を自ら手がける一途な姿勢には頭が下がる。見学は予約制。

戸塚醸造店(とつかじょうぞうてん)
住所:山梨県都留市夏狩253/営業時間:9:00~17:00/定休日:土・日・祝

富士山の眺望

寒い時期ならではの冠雪した姿に見惚れる

標高976mの高川山から都留市街越しに富士山を望む。

富士山の北側に位置する都留市では、各所から優美な山容を間近にできる。気軽に訪れやすいのが都留アルプスと呼ばれる標高600m前後の稜線で、市街地に沿うように全長約8kmのハイキングコースが整備。大月市との市境に当たる高川山や九鬼(くき)山は標高1000mに満たないものの、より雄大な姿を一望できるスポットとして登山者にも人気だ。

ドレッシング工房 freckle(フレックル)

体に優しい無添加の生ドレッシングを製造・販売

「味は濃いめで時短の調味料にも使える二刀流です!」と笑う小宮さん。
定番の3種。「Onion&Garlic」はミニ・通常・大サイズがある。

店主の小宮さおりさん自ら厳選した有機野菜など地元食材を使った手づくりドレッシングの店。「Onion & Garlic」300ml790 円ほか「MISO」「黒にんにく粒マスタード」の全3種が定番で、これに季節限定のドレッシングが加わる。購入前の味見も可能で、保存は要冷蔵。

ドレッシング工房 freckle(ドレッシングこうぼう フレックル)
住所:山梨県都留市田原2-14-8/営業時間:10:00~18:00/定休日:日・月・祝

本格手打うどん 荻窪

独学で試行錯誤を重ねた本格派

店内からも作業の様子がよく見える厨房で、打ちたてのうどんを見事に操る荻窪さん。
馬肉・キャベツ・油揚げ・ネギがのった肉月見うどん並600円。

地元の常連からデカ盛り系人気YouTuberまで幅広い客が訪れる吉田うどんの店。店主の荻窪裕大さんが打つうどんは塩分控えめながら硬さとコシが際立ち、乱切りならではの食感の妙も楽しめる。出汁がきいた風味豊かで優しい味の汁も最後の一滴まで飲み干したい。

本格手打うどん 荻窪(おぎくぼ)
住所:山梨県都留市上谷2-2-10/営業時間:11:00~14:00/定休日:月(祝の場合は翌火)

手づくり和洋菓子 ならや

幅広い客層に支持される多彩なお菓子がずらり

独特の食感の半熟チーズケーキ・半熟ショコラ各140円と半熟つるつるプリン162円。
シューは購入時にその場で新鮮なクリームを入れてくれる。

創業100年を迎える老舗で、4代目の奈良英樹さんが和菓子専門から和洋菓子店へ幅を広げた。火入れ加減を工夫した半熟シリーズ(写真上)やユニークなお菓子とうふ各194円から、店頭の石窯オーブンで焼き上げるシュークリーム194円まで、アイデア満載で楽しくなる。

手づくり和洋菓子 ならや(てづくりわようがし ならや)
住所:山梨県都留市中央3-4-7/営業時間:9:00~18:00(土・日・祝は~17:00)/定休日:月

ミュージアム都留

勇壮な屋台を間近に仰ぐ郷土博物館

例年夏の終わりに行われる八朔祭で曳かれる大きな屋台も展示。

戦国時代に始まる城下町としての歴史を有し、江戸期には絹織物産業で栄えた都留市の歩みをたどる博物館。松尾芭蕉の足跡を紹介した立体紙芝居「芭蕉劇場」もユニークだ。郷土の画家・増田誠の作品を展示した『増田誠美術館』も併設。

ミュージアム都留(ミュージアムつる)
住所:山梨県都留市上谷1-5-1/営業時間:9:00~16:00最終入館/定休日:月・第3火(祝の場合は翌平日)

山梨県立リニア見学センター

走行試験日には超電導リニアが目の前を疾走

2003年に当時の鉄道世界最速記録時速581kmを樹立した実車両も展示されている。
九鬼山を背に超電導リニアが時速約500kmで駆け抜ける!

超電導リニアについて体験しながら学べる「どきどきリニア館」(入館料420円)と観光・物産情報を紹介する「わくわくやまなし館」(入館無料)からなる。毎金曜夕方に翌週土曜までの走行試験予定日を発表。

山梨県立リニア見学センター(やまなしけんりつリニアけんがくセンター)
住所:山梨県都留市小形山2381/営業時間:9:00~17:00/定休日:月(祝の場合は翌火、火が祝の場合は開館)、金・土・日を除く祝翌日

cafe織水_orimizu

落合水路橋を前にくつろぐ

「水の音を感じながら、優しい食事とともにゆったりと過ごしてほしい」が店のコンセプトだ。
窓際でマヤナッツ入りのマフィンとスムージーをいただく。

古材を生かしたテーブルや建具、表面にうねりのある窓ガラスなど、懐かしさを覚える空間に心惹(ひ)かれる。食事やスイーツをはじめマヤナッツ入りドリンクやスムージーまで、動物性食材不使用のヴィーガンに徹したメニューがメインで、いずれも素朴な味わいだ。

cafe織水_orimizu(カフェおりみず)
住所:山梨県都留市井倉234-1/営業時間:11:00~17:00/定休日:月ほか(Instagramで告知)

【耳よりTOPIC】湧水の里ならではの小水力発電所

元気くん1号(写真提供=都留市地域環境課)。

市役所庁舎での電力使用を目的とした発電施設の「元気くん」。正式名は都留市家中川小水力市民発電所で、2006年にお目見えした木製水車の元気くん1号を皮切りに、落差を生かした上掛け水車の2号、コンパクトならせん水車の3号が設置されている。いずれも現在お休み中だが、元気くん3号は今年度中に復帰の見込みだ。

取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2025年2月号より

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