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Mummy-D×Kan Sanoに聞く、大阪の野外音楽フェス『たとえばボクが踊ったら、』が愛される理由

SPICE

Mummy-D×Kan Sano

新大阪駅から電車で15分、大阪を代表する緑のオアシスで生まれ、大阪を代表する野外音楽フェスへと成長してきた『たとえばボクが踊ったら、』、略して『ボク踊(おど)』が、今年も楽しめる喜びをかみしめよう。9月16日、服部緑地野外音楽堂で開催される、『たとえばボクが踊ったら、#006』。出演者は、ウェルカムアクトのluvをはじめ、SPECIAL OTHERS、H ZETTRIO、ソロでは初出演となるMummy-D、そしてKan Sano(Band Set)。お馴染みのメンバー中心だが、今年は“Pianoで”というサブタイトルがつけられ、これまでにない新しい展開が注目される。
SPICEでは『ボク踊』を盛り上げるべく、フェス直前インタビューを企画。関西では初のソロライブとなるMummy-D、3回目の出演となるKan Sano、そしてフェス立ち上げの張本人、主催者・夢番地の大野氏に、過去のエピソード、そして今年のフェスの楽しみ方を語ってもらった。

――Mummy-Dさんは、RHYMESTERとして#002から#005まで連続出演していて、Kan Sanoさんは今年で3回目。過去のステージ、覚えてますか。

Kan Sano:はい。初めて出た時は七尾旅人さんと一緒で、旅人さんと何曲かやって、自分のステージもやりました。RHYMESTERも出ていて、ソデで見ていたのを覚えてます。SOIL&“PIMP”SESSIONSも出てましたよね。フェスには音量制限があって、この音量までに収めてください、みたいなメーターがステージから見えるところにあるんですけど、“これ以上出しちゃダメ”というところを超えると、赤いランプがつく。僕は初めて出るので、絶対に赤いランプがつかないように気をつけて、でもドラムソロとかでちょっと赤くなってしまったな、とか思ってたら、ソイルがもうずっと赤いままで、ずるいなと思いました(笑)。

大野:赤いランプがついてから、それを超えると音量が自動的に下がるんです。普通はアーティストから見えないものなんですけど、服部の会場は丸見え(笑)。

Kan Sano:それは強烈に覚えてますね。ソイルが始まるともうずっと真っ赤になってて、“やっぱりフェスは、やったもん勝ちだよな”と(笑)。それと、あの時は高校の同級生と10年ぶりぐらいに再会して、会場に来てくれてたんですよ。服部緑地野外音楽堂って、客席がよく見えるんです。顔が見えるので、すぐに友達を見つけて、そのシーンもすごい記憶に残ってます。あそこの会場は、円形に囲われてて、お客さんの顔がはっきり見えて、一体感がすごくありますよね。でもステージはかなり広いので、それをどうやって使い切るかがすごい難しいんですけど、RHYMESTERさんは二人が動き回って、汗だくになって、ステージを全部使う感じになっていて、ソデで見ててすごいなと思いました。

Mummy-D:だって、動かざるを得ないんだもん。楽器も何もないからさ。動いて動いて、隙間を埋めていかないといけないのよ。

――Dさんは、過去にはどんな思い出が?

Mummy-D:あのぐらいの規模のフェスは、わりと出ることが多いんだけど、お客さんがフレンドリーというか、音楽的なお客さんが集まっている感じがするので、どうやって攻略してやるかみたいなことは考えずに、最初からホーム感覚でやってますね。

Kan Sano:確かに、他のフェスに比べてホーム感は強いかもしれない。出演しているメンツが、仲いい人が多いというのもありますし、大野さんがまとめていることもあるので。

Mummy-D:大野フェスだからね。ただ最初は、“なんだこの変な名前”と思ったね(笑)。フェスの名前の癖が強すぎるよと思ってさ。これは大野感覚なのかね。

大野:このイベントを立ち上げる5年ぐらい前から、自分がフェスをやるんだったらこのタイトルって決めてたんですよ。“なんとかロックフェスティバル”とか、かっこいい英語で行くのもいいんですけど、漢字と片仮名とひらがながのフェスがいいなというイメージがずっとあって、“これだ”と思ったのがこのタイトル。

Kan Sano:僕も初めて聞いた時、何か変なタイトルだなって思いましたけど(笑)。でもなじんできたというか、やっぱり続けることが大事なんですよね。

Mummy-D:だんだん、違和感を感じなくなってきた。

大野:あと、短縮形がみんなバラバラになってるんで、そろそろ決めたいんですよ。“たとえば”“たとボク”“ボク踊(おど)”って、三つあるんですけど、正解は“ボク踊”です。

Kan Sano:えーっ!? “たとボク”だと思ってました。

Mummy-D:俺もそう思ってた。

大野:今度、ネオン管を作るんですよ。でも『たとえばボクが踊ったら、』だと全部入らない。どれがいいかなって並べてみたら、『ボク踊』が一番しっくりきたんです。なので、『ボク踊』でお願いします。

――『ボク踊』といえば、毎回アーティスト同士のセッションタイムがありますけど、あれも大野さんのアイディアですか。

大野:そうです。最初にSOIL&“PIMP”SESSIONSとRHYMESTERさんのセッションが、このイベントを始める前にあって、それがベースにあって、“いろんなセッションできたら面白いよね”みたいなところからスタートしてます。旅人くんとKan Sanoくんもそうだし、去年はSOIL&“PIMP”SESSIONSとKroiの内田怜央くんにやってもらったり。今回は、この後話が出るかもしれないですけど、Dさんの大阪初ソロライブに合わせて、今年3月にリリースされたアルバムに参加してるH ZETTRIOと一緒にやろうとか、そういう話に繋がっていきます。

――そのへんは、他のフェスにはないお楽しみですね。

Mummy-D:アーティスト同士が、元々知り合いばっかりだから、すごい近い感じがします。

――Mummy-Dさんは、今年はソロでの出演です。しかも、大阪での初ソロライブ。どんな感じでやってくれますか。

Mummy-D:まず自分のところでDJセットでやるんだけど、途中からKan Sanoくんに入ってもらって、半ナマみたいな状態でやろうと思ってます。今年はピアノがタイトルに入ってて、鍵盤が大事なところだと思うのと、この前一緒に東京でセッションをやった時、すごい気持ちよかったんで、またKan Sanoくんにお願いしたいなというところです。

――その東京でのセッションはどんな感じだったんですか。

Mummy-D:それはJ-WAVEのイベントで、六本木ヒルズでやったんだけど、origami PRODUNCTIONS(※Kan Sanoの所属事務所)が仕切ってたのかな。そこに俺が呼んでもらえたという感じで、それがまさしく、ソロで初めてのライブだったんだよね。

Kan Sano:その時は2曲やりましたね。Dさんの、今年リリースされたソロアルバムの中の曲を。その日は他にも共演するアーティストの方がいっぱいいて、ものすごい情報量の多い日だったんですけど、Dさんと演奏した時は、ちょうど陽が沈んで、気持ちいい時間帯で、お客さんもいい雰囲気でしたね。

――Dさん、ソロとライムスって、ステージに立つ時の気分はかなり違いますか。

Mummy-D:全然違いますよ。だって俺、ほとんど真ん中に立ったことないんだもん。ギタリストの竹内朋康くんと、マボロシっていうのをやってたんだけど、ツートップ体制だったから、俺は上手(かみて)にいたんですよね。今まで本当に、真ん中に立つことってほとんどなくて。

――確かに、ライムスもツートップですもんね。

Mummy-D:そう。だから真ん中がすっげぇ気持ち悪くてさ。

Kan Sano:あはは。

Mummy-D:目立ちたがりのくせに、けっこうシャイだからさ。めっちゃ緊張してたね、あの時は。

――へえええ。Dさんが緊張。

Mummy-D:緊張するよ。俺、めっちゃ緊張しいなのよ、こう見えて。まったく余裕がなかった。でもね、あれを超えたから、大阪はちょっと余裕が出ると思いますよ。

――Kanさんは、自身のバンドセットのステージは、どんなイメージで考えてますか。

Kan Sano:今年の春から、新しいメンバーでずっとやってて、もう何か所か地方のフェスにも出させてもらってるんですけど、すごくいい感じになってきてます。大阪は久々なので、楽しみです。

大野:Dさんのところをどうするか、今話してる最中なんですよ。Dさんには、ほかの人のところにも入ってもらうことになってるんですけど。

――今言ってよければ、どんどん言っちゃってください。

Mummy-D:うん。まず、H ZETTRIOのところに入ります。僕のアルバムで、H ZETTRIOにオケをお願いしてる曲があって、この前初めて生でやったので、大阪が初ではないんですけど、関西地方で見せるのは初ですね。それはね、なかなか楽しいと思います。いつもの、ソイルとのセッションとは全然違うというか、演奏は両方クルってるんだけど、クルい方が違う。

大野:それ、H ZETTRIOのキネマ俱楽部(8月23日)にシークレットで出たやつですよね。

Mummy-D:そう。そもそもが、俺と大野とH ZETT Mくんで飲みに行った時に、あれは椎名林檎のツアー中だったかな? “今一緒に曲を作ってる”みたいな話を大野にしたら、“だったら一緒にやりましょうよ”みたいなことをすでに言ってたから。あれは2018年とかだと思うんだけど、それが実現したって感じですね。

大野:今言われて思い出しました。林檎ちゃんの大阪公演があって、終わってからご飯を食べに行ったのか、打ち上げの時だったか、話した覚えがあります。

――ソロステージのほうは、DJ大自然さんと組むんですよね。

Mummy-D:うん。基本的にはDJセットでやるんだけど、途中からKan Sanoくんに入ってもらおうと思ってます。Kan Sanoくんとは、今後の話もいろいろしているんだけど、そもそも『ボク踊』って、楽屋とか、喫煙所のあたりでいろんなことが決まるパターンが多くて(笑)。今回はたぶん実現しませんけど、スペアザともいつか一緒にやりたいねみたいな話もしてたし、いろんなことが起きてます。

大野:出番が終わったらすぐ帰るフェスもあるんですけど、『ボク踊』はみんな残ってくれるんですよ。全アーティストが終わるまでほぼ全員いてくれて、見ながら飲みながら、みたいな感じがずっと毎回あって。そこでいろんな話が巻き起こってて、今度一緒にやろうとか、そんな感じになってます。

――Kanさん、いろんな人と共演してますけど、Dさんと一緒にやる時はどんなフィーリングになりますか。

Kan Sano:実は一度、RHYMESTERさんのステージに参加させてもらったことがあって、もう10年ぐらい前なんですけど。今の事務所に入って間もない頃で。留学(バークリー音楽大学/ボストン)して、帰ってきて、これから日本で本格的に活動していこうという時期で、日本のシーンのこととか、日本で音楽活動することについて、まったく無知だったんですけど、そういう中でRHYMESTERさんのステージを一緒に経験して、学んだことは未だにすごく大きいです。さっきも言いましたけど、ステージをとにかく全部使うとか、お客さんを全部つかんでいく感じとか。それまで僕は、基本的にはピアノを弾くだけだったんですけど、もうちょっとお客さんとのコミュニケーションとか、ステージをどうやって全部使っていこうとか、曲順とかステージングとか、そういうことをすごく意識するようになったきっかけだったと思うんですよね。

Mummy-D:あの頃まだキャリアを始めたばっかりだったんだ。

Kan Sano:そうなんです。2013年か2014年だったと思います。

Mummy-D:覚えてるよ。“緊張しないでね”“大丈夫?”みたいな感じで気を使ったんだけど、もっと図太い人間だということが後からわかって、ちょっと過保護にいろんなことを言い過ぎたかなと思った(笑)。“マイペースでやっていいからね”みたいな感じで言ったけど、そういう人じゃなかった。

Kan Sano:その時は緊張というよりも、刺激の方が強かったですね。RHYMESTERさんのパフォーマンスもそうですし、そこに反応するお客さんのリアクションとかも、目の前でめちゃめちゃ盛り上がってるので。自分もステージに参加しているんだけど、俯瞰で見てるような感じもちょっとあって。緊張というか、すごい集中してたのを覚えてますね。

――10年越しのドラマ。さっきの、大野さんのフェスのタイトルへの思いもそうですし、DさんとH ZETTRIOのエピソードも、今のKanさんのお話も、数年越しにいろんな伏線が回収されて行く場所になってますね、『ボク踊』は。すごく面白いです。

Mummy-D:あんまり仕事っぽくないですね。俺らに限らず、あんまり仕事っぽくない。みんな。

大野:それが一番嬉しい。

Kan Sano:楽屋が大広間で、みんな同じ空間にいるので。あれもフェスならではというか、いいですよね。横とのコミュニケーションが生まれやすいというか。

Mummy-D:終わっても帰んないし。裏のアーティストエリアに、大野が毎回、趣向を凝らして出店みたいのを出してくれて、それがまたいいんだよね。

大野:裏で居酒屋が始まります。

Mummy-D:灼熱の中でたこ焼きを食う(笑)。

大野:Kan Sanoくんは、食べたことあるかな。JACKっていうスープカレー屋さんがあるんですけど、僕が好きで、去年、おととしと出店してもらっていて。今年も客席エリアにも出店するんやけど、アーティスト楽屋にもケータリングとしてスープカレーがあります。激ウマですよ。Dさんは食べましたっけ。

Mummy-D:うん、去年食べた。美味しかったよ。

大野:ほかにも、けっこう有名なお店に3店舗(心斎橋 和っか/和食と日本酒、JACK/スープカレー、TAKUMEAT STORE/焼肉)入ってもらって、オリジナルメニューをいつも出してもらってるので。

――フェス飯、めっちゃ大事です。見る側にとって。

大野:あと、みなさんがライブやってる時に、まあまあの人数のアーティストさんがサイドから見てるっていうのが、けっこう面白い絵になってますね。

Kan Sano:あれ、客席から見えてますよね。

大野:丸見え。それが何か面白い。

――それは、お客さん気分になっちゃうということですか。

Kan Sano:ソデから見れることって、なかなかないじゃないですか。お客さん気分っていうのもあるし、どうやってやってるんだろう?って、見てみたいというのもありますし。確かに、ソデで見てる人多いですよね、いつも。そういえば、今回って、グランドピアノを使うんですか?

大野:会場にグランドピアノがあって、今交渉中です。天候と暑さの問題もあるので、雨だったらたぶん無理なんですけど、ステージのどこにグランドピアノを置くかというのを、舞台監督と話してるところ。逆に聞きたかったんやけど、Kan Sanoくんのキーボードがあって、横にグランドピアノが置いてあったら、そっちに行く?

Kan Sano:行きます行きます、もちろん。絶対使いたいですし、弾き語りで1曲とかもできますし、いかようにでも。

大野:たとえばですけど、転換中になんとなくポロンポロンとか、ありですか。

Kan Sano:ポロンポロン弾いても、全然いいですよ(笑)。

大野:自由に使ってほしいんですよ。機材の入れ替えの時って、ちょっと時間が空くじゃないですか。そこで、“ちょっと弾いてみようかな”みたいなピアニストさんがいっぱいいてたらいいなっていう感じで。

Kan Sano:確かに、今回ピアニストがいっぱいいますからね。

大野:これはお願いじゃないですけど、そうなったら面白いかなと、勝手に思ってる感じです。

Kan Sano:会場の楽屋にもアップライトのピアノがいつも置いてあって、出演者がちょっと練習したり、遊んでたりする時間もあるんですよ、いつも。そういうムードをお客さんにも見せちゃうみたいなのは、面白いかもしれないですね。

大野:やったね(笑)。そういうことも今、色々考え中です。

Mummy-D×Kan Sano×夢番地・大野氏

――そもそも今回の、「Pianoで」というサブタイトルというか、テーマというか、それはどこから来たものですか。

大野:そもそも僕が、ピアノをされてるアーティストが大好きなんですよ。仲良くなる人も大体ピアノしてる人が多くて、H ZETT Mくんもそうですし、ソイルの丈青さんも、Kan Sanoくんも、ピアノの音源が基本好きなんで、いつかしたいなと思ってたんです。今回たまたま、Kan Sanoくんもライブ復活するっていうことだし、H ZETT Mくんとも昔から仲良くさせてもらってるので、“今かな”と思って、そうさせてもらってます。Dさんも、H ZETTRIOが参加したソロアルバムを出されてるので、これは絶対何かできるなと思って、いち早くDさんにも相談させてもらった感じです。その代わり、大阪初ライブが欲しいんですけどっていうことも言いながら。“初めて”が大好きなので。

Kan Sano:いつだったか忘れましたけど、僕も大野さんから、“ピアノフェスやろうや”って言われたのをすごい覚えてます。“グランドピアノを使って、ピアニストいっぱい集めて何かやろうや”みたいな。だから話を聞いた時、“あ、それを今回やるんだな”って思いました。

大野:偶然かもしれないですけど、色々回収していってる感じです。

――伏線回収フェスですね。かつて話したことが、どんどん実現していく。もう楽しみしかないですけど、最後に、今年はどんなパフォーマンスを見せたいか、お客さんへのメッセージでもいいですし、『ボク踊』への思いを語ってもらえれば。

Mummy-D:まず自分にとっての関西一発目のライブ、ソロライブなんで、それだけでもスペシャルなんですけど、さらに欲張ってKan Sanoくんとのセッションとか、H ZETTRIOとのセッションも考えてますんで、絶対ここでしか見られないものが見えると思うので、ぜひ来てくださいって感じです。

Kan Sano:Mummy-Dさんも最初におっしゃってましたけど、ホーム感がすごくあるフェスなので、お客さんとの距離が近くて、顔がはっきり見えるんですよね、ステージから。でもそれが、緊張には繋がらないんですよ。すごい一体感というか、それがいつも心地よいので、僕も今年からライブ活動に復帰して、もう半年ぐらいになるんですけど、久々にその感覚をまた味わえるのが楽しみです。

――大野さん、『ボク踊』は今後何年続けたいとか、そういう目標はありますか。

大野:いや、全然考えてないです。これまで通り、個人的に好きなどちらかと言えば、ニッチ寄り?のカッコイイ音楽をされてるアーティストの方々が出演くれて、それがもっと世間に広がって、来てくれるお客さんが一緒に楽しんでくれたらいいなとずっと思ってるので。
なかなか他ではやらないラインナップやと思うんで、ぜひ音楽好きの、日本中の人が来てくれたら嬉しいですね。

取材・文=宮本英夫 撮影=菊池貴裕

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