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サルコペニアの症状とは?初期から重度まで進行段階別にチェック!

「みんなの介護」ニュース

阿部 洋輔

サルコペニアとは?症状の定義と診断基準を詳しく解説

サルコペニアという言葉を耳にしたことはありますか?高齢者の健康管理において、近年注目されている重要な概念です。この記事では、サルコペニアの定義や原因、診断基準について詳しく解説していきます。

サルコペニアの定義と原因:加齢との関係を徹底解説

サルコペニアとは、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力の低下を指す言葉です。この言葉は、ギリシャ語の「サルコ(筋肉)」と「ペニア(喪失)」を組み合わせて作られました。

European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)による定義では、サルコペニアは「進行性かつ全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする症候群」とされています。つまり、年齢とともに徐々に筋肉が減り、それに伴って筋力や身体機能が低下していく状態を指します。

サルコペニアの主な原因は加齢ですが、それ以外にもいくつかの要因が関係しています。

加齢:年を重ねるにつれて、自然に筋肉量が減少していきます。
運動不足:日常的な身体活動の減少は筋肉の衰えを加速させます。
栄養不足:特にたんぱく質の摂取不足は筋肉の維持に悪影響を与えます。
ホルモンバランスの変化:加齢に伴うホルモンの変化も筋肉量の減少に関係しています。
慢性疾患:糖尿病や心臓病などの慢性疾患も筋肉の減少を引き起こす可能性があります。

加齢との関係について、日本老年医学会の報告によると、70歳までに20歳代と比べ、骨格筋面積は25~30%、筋力は30~40%減少し、50歳以降では年間約1~2%のペースで減少していくとされています。

サルコペニアの診断基準:筋肉量・筋力・身体能力の測定方法

サルコペニアの診断は、主に以下の3つの要素を評価して行われます。

筋肉量の減少
筋力の低下
身体能力の低下

EWGSOPの診断基準によると、筋肉量の減少が必須条件で、それに加えて筋力の低下または身体能力の低下のいずれかが認められた場合にサルコペニアと診断されます。

アジア・サルコペニアワーキンググループ(AWGS)による日本人向けの診断基準値は以下の通りです。

筋肉量:DXAで測定した場合、男性7.0kg/m²未満、女性5.4kg/m²未満
握力:男性28kg未満、女性18kg未満
歩行速度:1.0m/秒未満

これらの基準値を参考に、医療機関での専門的な診断が行われます。

サルコペニアが引き起こす健康上の問題:転倒リスクと要介護状態

サルコペニアは単なる筋肉の減少にとどまらず、さまざまな健康上の問題を引き起こす可能性があります。主な問題には以下のようなものがあります。

転倒リスクの増加
筋力や身体バランスの低下により、転倒の危険性が高まります。転倒を経験した高齢者の多くがサルコペニアと関連していると考えられています。
骨折リスクの上昇
転倒リスクの増加に伴い、骨折の危険性も高まります。特に高齢者の場合、骨粗鬆症を併発していることも多く、軽い転倒でも重大な骨折につながる可能性があります。
日常生活動作(ADL)の低下
筋力の低下により、歩行や階段の昇降、入浴、着替えなどの日常生活動作が困難になります。これにより、自立した生活が難しくなり、生活の質(QOL)が低下する可能性があります。
要介護状態へのリスク増加
ADLの低下が進むと、最終的に要介護状態に陥るリスクが高まります。厚生労働省の発表によると、要介護者の1~2割はフレイル状態であり、サルコペニアはその主要な要因の一つとされています。
代謝機能の低下
筋肉は体内で最大のグルコース消費器官であるため、筋肉量の減少は糖尿病などの代謝疾患のリスクを高める可能性があります。
免疫機能の低下
筋肉はさまざまなサイトカイン(免疫系の調節因子)を分泌しており、サルコペニアによる筋肉量の減少は免疫機能の低下につながる可能性があります。
認知機能への影響
最近の研究では、サルコペニアと認知機能低下との関連も指摘されています。筋肉量の減少が脳機能にも影響を与える可能性があるのです。

これらの問題は、個人の健康だけでなく、社会全体にも大きな影響を与えます。医療費の増加や介護負担の増大など、サルコペニアは高齢化社会における重要な課題の一つとなっています。

サルコペニアの症状チェック:進行段階別の特徴と自己診断法

サルコペニアは徐々に進行する症状であり、初期段階では気づきにくいことが特徴です。しかし、早期発見と適切な対策が重要であるため、各段階での症状を理解し、自己チェックの方法を知っておくことが大切です。

サルコペニアの初期症状:気づきにくい変化と注意すべきサイン

サルコペニアの初期段階では、日常生活に大きな支障が出るほどの症状はまだ現れません。しかし、以下のような変化が起こり始めます。

疲れやすさの増加
以前よりも少しの活動で疲れを感じるようになります。例えば、買い物や掃除などの日常的な活動でも、以前より早く疲労を感じるようになるかもしれません。
階段や坂道での息切れ
階段を上る際や坂道を歩く際に、以前よりも息が切れやすくなったり、足がだるく感じたりすることがあります。
重いものを持つのが少し困難に
スーパーでの買い物袋や水の入ったペットボトルなど、日常的に持ち運ぶものが以前より重く感じるようになります。
立ち上がりの際のふらつき
椅子から立ち上がる際に、少しふらつきを感じたり、手を使って立ち上がることが増えたりします。
歩行速度の低下
無意識のうちに歩く速度が遅くなっていることがあります。例えば、横断歩道を渡る際に信号が変わりそうで焦ることが増えたり、同行者に歩くペースを合わせるのが少し大変に感じたりすることがあります。
筋肉痛や関節痛の増加
普段の活動でも筋肉痛を感じやすくなったり、関節に違和感を覚えたりすることが増えます。
体重の変化
筋肉量の減少に伴い、体重が減少することがあります。または、活動量の低下により体脂肪が増加し、体重が増加することもあります。
バランス感覚の低下
片足立ちが以前より難しく感じたり、つまずきやすくなったりすることがあります。

これらの症状は、加齢による自然な変化と思われがちですが、サルコペニアの初期症状である可能性があります。特に、複数の症状が同時に現れる場合や、短期間で急激に変化を感じる場合は注意が必要です。

中期から重度のサルコペニア症状:日常生活への影響と危険信号

サルコペニアが進行すると、症状はより顕著になり、日常生活に明らかな影響が出始めます。中期から重度のサルコペニアでは、以下のような症状が現れます。

明らかな筋力低下
重いものを持ち上げるのが困難になったり、ペットボトルのふたが開けにくくなったりします。
歩行困難
歩行速度が著しく低下し、以前より長い距離を歩くのが困難になります。
バランス感覚の著しい低下
立っているときにふらつきを感じたり、転倒の頻度が増加したりします。
日常生活動作(ADL)の困難
着替え、入浴、トイレの使用など、基本的な日常生活動作が困難になります。特に、床からの立ち上がりや階段の昇降に苦労することが多くなります。
疲労感の増大
少しの活動でも極度の疲労を感じ、日中の活動量が著しく低下します。
筋肉量の明らかな減少
特に四肢の筋肉量が目に見えて減少し、腕や脚が細くなったように感じます。
体重の著しい減少
筋肉量の減少に伴い、体重が急激に減少することがあります。特に6ヵ月間で体重の5%以上の減少がある場合は要注意です。
免疫機能の低下
風邪やその他の感染症にかかりやすくなったり、回復に時間がかかったりすることがあります。
代謝機能の低下
基礎代謝が低下し、同じ食事量でも体重が増加しやすくなったり、逆に食欲が低下して体重が減少したりすることがあります。
精神面への影響
活動量の低下や自立度の低下により、うつ症状や認知機能の低下が現れることがあります。

これらの症状が顕著に現れている場合、サルコペニアがかなり進行している可能があります。

このような段階では、日常生活に大きな支障をきたし、QOL(生活の質)の著しい低下や要介護状態のリスクが高まります。早急に専門医の診断を受け、適切な治療や支援を受けることが重要です。

自宅でできるサルコペニアチェック法:簡単3ステップで症状を確認

サルコペニアの正確な診断には医療機関での専門的な検査が必要ですが、自宅でも簡単にチェックできる方法があります。以下の3つのステップで、自己チェックを行ってみましょう。

【ステップ1:指輪っかテスト】 両手の親指と人差し指で輪を作ります。
その輪を利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分に当てます。
輪が隙間なくぴったりと閉じる場合や、逆に大きすぎて隙間ができる場合は要注意です。

ふくらはぎの周囲長は全身の筋肉量を反映するため、サルコペニアのスクリーニングに有効とされています。隙間ができる場合はサルコペニアの危険度は6.6倍という見解も発表されています。

出典:『“Yubi-wakka” (finger-ring) test: A practical self-screening method for sarcopenia and a predictor of disability and mortality among Japanese community-dwelling older adults』を基に作成

【ステップ2:イスからの立ち上がりテスト】 背もたれのある椅子に深く腰掛けます。
両手を胸の前で組み、「用意、始め」の合図で立ち上がります。
完全に立ち上がったら、すぐに座ります。
この動作を10回繰り返し、かかった時間を測定します。

65歳以上の場合、12秒以上かかる場合はサルコペニアの可能性があります。

【ステップ3:片足立ちテスト】 両手を腰に当て、片足で立ちます。
目を開けたまま、できるだけ長く片足立ちを続けます。
支持脚の足が動いたり、腰に当てた手が離れたりしたら終了です。

15秒以上保持できない場合は注意が必要です。このテストは、バランス能力を評価するのに適しており、転倒リスクの指標にもなります。

これらのテストはあくまで自己チェックの目安であり、医学的診断ではありません。複数のテストで問題がある場合や、日常生活で不安を感じる場合は、必ず医療機関を受診してください。

サルコペニアは早期発見・早期対策が重要です。定期的に自己チェックを行い、気になる症状があれば躊躇せずに専門医に相談しましょう。

サルコペニアの早期発見と対策:専門医に相談すべき症状と予防法

サルコペニアは進行性の症状ですが、早期に発見し適切な対策を取ることで、進行を遅らせたり、場合によっては改善したりすることが可能です。サルコペニアの早期発見の重要性、専門医への相談のタイミング、そして予防法や改善のための生活習慣について詳しく解説します。

サルコペニアの早期発見が重要な理由:進行を防ぐ3つのポイント

サルコペニアの早期発見が重要な理由は、主に以下の3つのポイントに集約されます。

進行の予防と改善の可能性
サルコペニアは早期であるほど、適切な運動療法や栄養療法による改善の可能性が高くなります。
QOL(生活の質)の維持
サルコペニアが進行すると、日常生活動作の制限や転倒リスクの増加など、QOLの低下につながります。早期発見・早期対策により、自立した生活を長く維持することができます。
医療費・介護費の削減
サルコペニアの進行は、転倒や骨折、要介護状態のリスクを高め、結果として医療費や介護費の増大につながります。

早期発見のためには、定期的な健康診断の受診や、前章で紹介した自己チェック法の活用が有効です。また、以下のような症状がある場合は、サルコペニアの可能性を考慮し、専門医への相談を検討しましょう。

階段の上り下りが以前より困難に感じる
歩く速度が遅くなったと感じる
重い物を持ち上げるのが難しくなった
疲れやすくなった
転倒の頻度が増えた
体重が急激に減少した

これらの症状が単独で現れても、必ずしもサルコペニアとは限りません。しかし、複数の症状が同時に現れる場合や、症状が急速に進行する場合は、早めの受診をお勧めします。

サルコペニアの症状で受診すべき診療科は?専門医への相談時期

サルコペニアの症状が気になる場合、どの診療科を受診すべきでしょうか。主に以下の診療科が適しています。

老年内科
高齢者の総合的な健康管理を専門とする診療科です。サルコペニアだけでなく、関連する他の健康問題も含めて総合的に評価してくれます。
リハビリテーション科
筋力低下や身体機能の評価、適切な運動療法の指導を行います。
整形外科
筋肉や骨の専門家として、サルコペニアの診断や治療にあたります。
神経内科
サルコペニアと神経疾患との関連を評価し、適切な診断と治療を行います。
栄養サポートチーム(NST)
病院によっては、栄養の専門家を含むチームがサルコペニアの評価と栄養指導を行います。

定期的な健康診断の機会を利用して、サルコペニアについても相談するのも良いでしょう。

サルコペニアを予防・改善する生活習慣:食事と運動の具体的方法

サルコペニアの予防や改善には、適切な食事と運動が不可欠です。以下に、具体的な方法を紹介します。

食事療法 たんぱく質の摂取
1日の目標摂取量は体重1kgあたり1.0〜1.2gです。例えば、体重60kgの人なら60〜72gのたんぱく質摂取が望ましいです。良質なたんぱく質源として、肉、魚、卵、大豆製品などがあります。
ビタミンDの摂取
筋肉の合成や維持に重要です。1日の推奨摂取量は10〜20μgです。魚(特に青魚)、きのこ類、卵黄などに多く含まれています。
バランスの良い食事
たんぱく質だけでなく、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取することが大切です。
食事の回数
1日3回の規則正しい食事に加え、間食として軽い食事を取ることも効果的です。
運動療法 レジスタンス運動
筋力トレーニングが最も効果的です。週2〜3回、主要な筋群を鍛える運動を行います。例えば、スクワット、腕立て伏せ、腹筋運動などがあります。
有酸素運動
ウォーキング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動も重要です。週に150分以上の中等度の有酸素運動を目指しましょう。
バランス運動
片足立ち、つま先立ち、かかと歩きなどのバランス運動も転倒予防に効果的です。
日常生活での活動
階段を使う、徒歩で買い物に行くなど、日常生活の中で身体を動かす機会を増やすことも大切です。
その他の生活習慣 十分な睡眠
質の良い睡眠は筋肉の修復と成長に重要です。1日7〜8時間の睡眠を心がけましょう。
ストレス管理
慢性的なストレスは筋肉の分解を促進する可能性があります。適度なリラックスの時間を設けることが大切です。
禁煙
喫煙は筋肉の合成を阻害し、サルコペニアのリスクを高めます。
適度な日光浴
ビタミンDの合成を促進するため、適度な日光浴も効果的です。

これらの方法を日常生活に取り入れることで、サルコペニアの予防や改善に大きな効果が期待できます。ただし、個人の健康状態や年齢によって適切な方法は異なるため、具体的なプログラムについては専門医や栄養士、理学療法士などの指導を受けることをお勧めします。

サルコペニアは、早期発見と適切な対策により、十分に予防・改善が可能な状態です。定期的な自己チェックと専門医への相談、そして日々の生活習慣の改善を心がけることで、健康的で活動的な生活を長く維持することができるでしょう。

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