下津井宵灯り(2024年10月5日開催)~ 約150年受け継がれてきた下津井節の唄と踊りを間近で体験した夜
岡山県を代表する民謡に、児島・下津井で歌われ続けてきた下津井節があります。
下津井節は毎年全国大会が開催されており、筆者は勝手に「下津井節は認知度の高い民謡」だと認識していました。
しかし、関係者から話を聞いてみると、下津井節も歌と踊りの後継者不足で悩んでいるという問題に直面しているそうです。そのような下津井節を受け継ぐべく、「下津井宵灯り」というお祭りが2024年の秋に開催されました。
多くの人でにぎわった当日のようすを紹介します。
下津井宵灯りについて
下津井宵灯りは、2024年10月5日(土)に開催された新しいお祭りです。
下津井節の歌と踊りを次世代に伝えるべく、下津井に暮らす人々で実行委員会を立ち上げ、企画しました。
下津井節は、北前船の寄港地で栄えた下津井で、約150年間歌い継がれてきました。北前船で働く人々をおもてなしする歌として歌われ、現在は岡山県を代表する民謡となっています。
下津井宵灯りでは、有志のメンバーによる「流し踊り」が披露され、さらに誰もが踊りに参加できる「みんなで下津井節」がおこなわれました。見るだけでなく、実際に下津井節を体験できるのもポイントです。
場所は、昔ながらの風情が残る下津井町並み保存地区通りとむかし下津井廻船問屋でおこなわれました。
飲食の屋台や休憩スペースもあったので、ゆっくりと食事も堪能しながらお祭りを楽しめます。
当日のようす
当日、少し早めに会場に到着すると、運良くリハーサルを見られました。笠をかぶった踊り手が、一列となって下津井節を踊っています。
初開催のお祭りなのでどれほど混雑するか読めず、観客が少ないうちに筆者もカメラを構えました。
下津井節は、ゆったりとしたリズムと伸びやかな歌声が特徴的な民謡で、踊りも歌に合わせて穏やかな速度で進んでいきます。リハーサル中も踊りの指導が入り、お祭りへの熱意を感じられる風景でした。
まだ空は明るいですが、日が暮れた後にどのような景色が広がるのか今から楽しみになりました。
食欲がそそられる出店で腹ごしらえ
下津井宵灯りが始まる前に腹ごしらえをすべく、出店のエリアに向かいました。
たこ焼き、焼きそばなどのお祭りらしい王道フードから、お酒が進みそうな居酒屋の出店やクレープなどのスイーツまで、バラエティ豊かな出店が並んでいます。
悩んだ末に、「ストーリーハヌルキンパ」でヤンニョムチキンを買いました。屋外でも揚げたてを食べられてうれしいです。
「SugarFarm」のグリーンレモンを使ったサワーも買いました。暑かったので柑橘系の爽やかなサワーでおつまみも進みます。
食べたい屋台がまだまだありましたが、点灯式が始まるのでひとまずお腹を満たして移動しました。
点灯式と最初の「夕踊り」
午後5時、むかし下津井廻船問屋の前で点灯式がおこなわれました。初開催のお祭りだったのでメディアの取材も入っており、多くのカメラが向けられます。
道に並べられた行燈(あんどん)のなかには、灯りとなるキャンドルが入っており、合図に合わせてみんなでキャンドルを点灯しました。夜は幻想的な雰囲気になりそうでわくわくします。
点灯式が終わってすぐに、最初の流し踊り「夕踊り」がスタートしました。伸びやかな下津井節の歌声とともに、浴衣姿の踊り手の長い列が動き出します。
下津井節の踊りには、鷲(わし)や瀬戸内海の波など、下津井にゆかりのあるものを表現した振り付けがつけられているそうです。しなやかな手先の動きに目をうばわれます。
踊る人々は、子どもから大人まで幅広い世代が集まっていました。大勢の観客に見守られるなか、息の合った踊りを披露してくれます。
「夕踊り」が終盤を迎える頃、下津井町並み保存地区通りにはあふれかえるほどの観客が踊りを見つめていました。地元を問わず、多くの人が集まってきているのだと感じます。小さい子どもたちは、初めて見る踊りに興味津々なようすでした。
「みんなで下津井節」に参加
流し踊りが終わった後、むかし下津井廻船問屋の中庭でおこなわれる「みんなで下津井節」に参加しました。
「みんなで下津井節」は、誰もが飛び入り参加で下津井節の踊りを体験できます。
振り付けを知らない筆者でしたが、完ぺきに踊れる人の後ろに張り付いて、見よう見まねで踊ってみました。
しなやかな手つきで踊るのは難しく、不格好になってしまいましたが、みんなで踊る経験はめったにないので楽しかったです。
踊りを引っ張ってくれたのは、地元のおばあさんたちでした。
数十年前、下津井の小学校では運動会で下津井節を踊ることがあったようで、当時のことを懐かしむ人も見かけました。踊ることはもちろん、下津井節を歌う人も現れて、まさに下津井に根付いた民謡なのだと実感します。
下津井節の音楽が止まった後、ひとりのおばあさんが「私は普段杖を使って歩いているけど、下津井節のときは杖がなくても踊れるのよ」と笑って話してくれました。
筆者は下津井に縁もゆかりもない人間ですが、地元の人たちが下津井節を楽しんでいる姿を見て、「下津井節が絶えず受け継がれてほしいな」と率直に思いました。
日暮れ後の「宵踊り」と「小夜踊り」
日が完全に暮れた頃、行燈がさらに幻想的な雰囲気をかもし出していました。
行燈の灯りに囲まれて、2度目の流し踊りとなる「宵踊り」スタートです。
笠と浴衣、古い街並みもあいまって、風情を感じられる光景が広がります。どのタイミングで写真を撮っても絵になりました。
観客もさらに増え、「北前船で栄えた時代もこれほどのにぎわいがあったのかな……」と想像が膨らみます。
つい踊りに見とれてしまいますが、下津井節の生歌も必見でした。
下津井節は交代制で歌われており、なんと10代の少女も下津井節を披露していました。民謡を歌い継ぐ若い世代の姿を見てグッときます。年代によって歌声の味わいが違い、生歌ならではの迫力に圧倒されました。
よい機会なので最後の「小夜踊り」も見ることにしました。その前に、小腹を満たす食べ物を出店でゲットします。
岡山市の居酒屋、九郎の途上の牛すじ煮込みのだし巻き卵と大山どりの炭火焼きは、屋台とは思えないほどのクオリティで食べ応えがありました。シェアもしやすく、酒飲みにはうれしいおつまみです。
下津井ならではのたこめしは、下津井の漁師一家が作る武豊丸の逸品。甘めな味付けで、子どもでも食べやすそうなたこめしでした。
地のものを食べられるのは、お祭りならではの醍醐味かもしれません。
お腹がいっぱいになったところで、最後の「小夜踊り」が始まりました。
先ほどよりも少し観客が減り、三つの流し踊りのなかで一番ゆっくり見られた気がします。心なしか、踊り手の人たちも緊張が解けて踊り慣れてきたように感じました。
北前船で訪れた人をおもてなしする下津井節。当時はお酒の席で歌われることが多かったそうですが、今目の前にある「下津井節が聴こえてくる街の風景」は、まさに100年以上前の下津井の雰囲気を味わえているのでは……とロマンが広がります。
最後まで多くの観客に見守られながら、下津井宵灯りは終わりました。
おわりに
下津井宵灯りは、下津井節の魅力を再発見できるお祭りでした。
流し踊りは時間帯が変わるだけでそれぞれ違う雰囲気があり、3回すべて見学できて良かったと思います。「みんなで下津井節」は、下津井節に触れられるだけでなく、地域の人と交流ができる良いきっかけの場になっていました。
地元の人にとって下津井節が身近な存在であると実感しましたが、下津井宵灯りのようなお祭りがないと失われてしまう文化であることに衝撃を受けています。地域に根付いた文化であっても、このような機会がないと消えてしまう可能性があるのが切ないです。
下津井宵灯りを通して、下津井節という文化の関係人口が少しでも増えたら良いなと思う夜でした。来年の開催も期待したいです。