春告魚『メバル』の傑作郷土料理「はぶて焼き」 手間はかかるも絶品!
見た目の可愛さと味の良さで古くから愛されるメバル。この魚を特に好む瀬戸内地方には、ちょっと手の込んだ美味しい料理があります。
春告魚・メバル
陸上に生活する我々にとって一番寒く厳しい時期は「冬」ですが、海中に暮らす魚たちにとっては一番寒いのは「早春」です。これは海水温の上昇が気温の上昇より2ヶ月ほど遅れるためで、それゆえに釣りでは春先が最も難しく、釣り物が少ない時期であると言われています。
しかし、そんな春先にも元気に釣り人の相手をしてくれるありがたい魚がいます。それがメバル。
低水温に強いメバルは冬場に産卵を終え、春まだ水温が低い時期から活発に餌を追い、盛んに竿先を揺らします。それゆえに釣り人たちは親しみをもってこの魚を「春告魚」と呼びます。
広島の傑作メバル料理「はぶて焼き」
そんな春告魚メバルを特に愛する地域のひとつが瀬戸内海沿岸です。潮流が早く外海的な環境と、遠浅な内湾的環境を併せ持つ瀬戸内海にはたくさんのメバルが棲息し、古くから釣り物として、そして食材として愛されています。
そんな瀬戸内海でのメバルの調理法といえば、やっぱり煮付け。1匹丸ごと煮付けて、小さいパーツをちまちまとせせりながら食べるのは至福です。
しかし、瀬戸内海西部の広島沿岸には、この煮付けをさらに焼く「はぶて焼き」なる調理法があります。柔らかく煮付けた上で焼き直したメバルは味が奥まで染み込み、それでいて味と歯応えが焼き締められていてまさに絶品です。
作るときの注意
はぶて焼きの語源は、当地の言葉である「はぶてる(標準語でむくれる)」にあるとされています。煮付けた上で焼くという調理法がかなり手間であることから、作らされる人がむくれてしまう、というのが理由だそう。
実際、はぶて焼きを上手に作るのはとても難しいです。醤油と砂糖で味をつけた身を焼くとすぐに焦げてしまうし、また身も崩れやすいためです。
はぶて焼きを作るなら、焼くときのコツを知っておくと良いでしょう。まず煮付けはできるだけしっかりと冷まし、身が崩れにくいようにしておきます。グリルや焼き網はしっかりと熱し、魚を置いたときにくっつかないようにします。表面は強火でサッと表面を焦がすように焼き、すぐにひっくり返して今度は弱火でじっくりと焼いていきます。こうすることで、適度な焦げ目で香ばしい美味しいはぶて焼きに仕上がります。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>