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驚きの経営統合報道を振り返る(2) ~ JFEホールディングスの実現の背景と執行

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驚きの経営統合報道を振り返る(2) ~ JFEホールディングスの実現の背景と執行

前回号で、過去の驚きの経営統合について書きました。 それらのうちの一つである、川崎製鉄の最後の社長、統合後の事業会社JFEスチールの初代社長、JFEホールディングス第2代社長を務めた數土文夫氏は、経営統合に関して極めて有用な記述を残しています(野中郁次郎氏ら共編著『経営の美学』に収められています)。拙著『電子部品だけがなぜ強い』(日本経済新聞出版)でも紹介しましたが、以下、その骨子を記します。

1:なぜ経営統合を決断したか?

數土氏は下記のように述べています。
「企業文化の違いから先行きを危ぶむ声もあったが、合併するくらいの荒療治をしなければ会社の存続はありえないという強い危機感を共有し、経営統合に踏み切った」

この発言の背景には、当時の鉄鋼産業が置かれていた厳しい事業環境がありました(數土氏の記述から抜粋)。

・JFE発足までの10年間で、鉄鉱石産業においてトップ3が占める比率は44%から75%まで拡大、自動車でもトップ3で過半数を占めるにいたった。
・両者の間に位置する鉄鋼産業は交渉力の低下と熾烈な競争の結果、合理化では吸収できないほど製品価格が下落した。
・事業はwin-winでなければならないのに、win-winを主張できるだけの立場さえなかった。

出所:野中郁次郎、嶋口充輝、価値創造フォーラム21『経営の美学』(日本経済新聞出版)を基に著者編集

筆者は鉄鋼産業の専門家ではありませんが、当時の日本の鉄鋼産業が置かれた立場を振り返ると、上流(原料)の鉄鉱石は上記の通り上位3社、原料炭も上位5社による寡占が進行し、下流(顧客=自動車産業)においても大きな統合が実現しました。一方で鉄鋼企業は日本のみならず世界に数多く存在し、上流下流からの強い圧力にさらされていたのです。

この危機感の反映として、JFEホールディングスが2002年に発足。10年後に新日鉄住金が発足。そして2021年、日本製鉄はトヨタ自動車を特許侵害で訴えました(その後、損害賠償請求を放棄)。20年前ではありえなかったことでしょう。

2:数値管理の大転換 「収益は固定費」

同氏によれば、日本の鉄鋼産業の売上高経常利益率(経常利益/売上高)は1980~2002年の平均でわずか2.4%。これでは再投資もままならず、産業、企業が存続できないとの危機感があり、考え方の大転換を図ることにしたそうです。

それまでの「コスト+適正利潤=売値」から「売値-収益=コスト」へ転換し、収益は売上高の10%と固定しました。
お客様が100円の価値しか認めてくれないのであれば90円で作る、もしくは、110円の価値を認めてくださる商品を作る……「収益は固定費」として、売上高経常利益率10%を達成するために何をすべきかを考えるようにしたそうです。

3:製品力の強化「オンリーワン・ナンバーワン」

2番の「110円の価値を認めてもらえる製品」を実現するための施策です。
統合前、鉄鋼各社は百貨店のようにあらゆる商品をそろえ、どの会社も同じような製品ばかりだったそうです。そこで、オンリーワン製品(JFEしか作れない)、ナンバーワン製品(世界で数社は作れるが、納期、品質など総合的に優位性がある)の強化を企図しました。

経営統合時、両社の研究テーマをならべてみると40%が重複しており、研究開発部をどうするかが大きな議論となったそうです。検討の結果、研究開発人材は削減の対象とせず(一方、ホワイトカラー全体では35%が配置転換)、全員を温存し、重点テーマ強化と新テーマに振り分けられました。

その結果、オンリーワン・ナンバーワン製品が売上高に占める比率は統合前の6%から、2006年度には24%まで拡大したそうです。本論とは関係ありませんが、研究テーマが40%しか重複していないのは意外に感じました。

4:ITを活用した経営判断の定量化

「定量化できないものは経営管理できない」との発想にもとづき、経営の議論の場では抽象的な表現を避け、あらゆる面を定量化し、迅速に実態を把握できる体制構築をしたそうです。
ITを活用することで、製品および費用科目などをなるべく細かい粒度で、それぞれが売上高経常利益率10%を達成できているかどうかをリアルタイムで、かつ、営業・製造・総務・経理・原料などすべての社員が把握できるように努めたそうです。

そして、「ワースト30」制度を導入。JFEスチールの約1万品目のうち、毎月ワースト30の製品を列挙する。ワースト30に選ばれた製品に関してはその原因と改善策を2、3カ月で提示する義務を負う。コストを下げるか売値を上げるか、どちらかしかありません。
このワースト30は相対的なものですから、終わることがなく、継続的に行われることになります。

5:長期視点での経営

數土氏は、「かつて日本企業が優れていると言われていた時、日本の経営者は10年後、20年後を見ていたが、最近は数カ月、せいぜい1年先しか見ない短視眼的な経営におちいっている可能性はないだろうか」「将来展望を描き、その実現のためにリーダーシップを発揮することが必要」と述べています。

今回の経営統合、また、将来起きるかもしれない経営統合において、數土氏の実体験に基づく記述は、大変貴重だと思われます。

追記:
『炭素文明論』など良書の著者佐藤健太郎氏による『世界史を変えた新素材』では、12の素材について解説され、その一つが鉄です。大変興味深い話ばかりで、いくつかその中から。

・世界における金属の生産量の90%以上は鉄(なぜ鉄がそれほど多いか……クラーク数でみて、酸素、ケイ素、アルミニウムに続く4位だから〈アルミニウムは酸化しやすく金属として取り出しにくい〈)。
・世界の年間鉄鋼生産量は、東京23区を30cmの厚さで覆うほどの量。
・鉄の生産量の世界1位はイギリス→アメリカ→旧ソ連→日本→中国と変遷。

出所:佐藤健太郎『世界史を変えた新素材』(新潮選書)を基に著者編集

世界鉄鋼協会によると、2023年の世界での生産量は19億トンで、うち中国10億トン(2位インド1.4億トン)となっていました。なるほど、確かに世界競争は大変そうだと思わされます。

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 村田 朋博

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