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ディーン・フジオカ 初の絵本翻訳で異例の「タイトル変更」提案 読者に伝えたい想いとは

コクリコ

ディーン・フジオカ 初の絵本翻訳で異例の「タイトル変更」提案 読者に伝えたい想いとは

絵本を「言葉の離乳食」と表現する俳優 ディーン・フジオカさん。翻訳で重視した声に出す心地よさと子育て中の保護者に届けたいメッセージとは

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俳優、アーティスト、映画プロデューサーなどいくつもの顔を持ち、アジアを中心に国際的に活躍するディーン・フジオカさん。

多言語に通じるディーンさんが、初めて翻訳を手がけた絵本『ありさんシェフのしょうたいじょう』を発表しました。常に新しいことに挑戦してきたディーンさんらしく、今作に取り組むきっかけは、「やったことがない仕事だから」。

アーティストであり、3児の父親でもあるディーンさんならではのこだわりや工夫がつまった作品について伺いました。

絵本は言葉の離乳食 体に染み込んでいくもの

──過去にはご自身で絵本を作られたこともありますが、そもそも「絵本」とはどんなものであると考えていますか。

ディーンさん:親と子をつなぐ道具のひとつではと思っています。想像する余白がたくさんあるので、コミュニケーションを生みやすいし、解釈や答えがひとつではないところも、対話を促しやすいものですね。

さらに、絵本というのは「言語の初めにあるもの」という気もしています。その言語が持つリズムや価値観の「種」のようなものがつまっていて、繰り返し読むことで体に染み込ませることができるもの。それで得た感覚というものは、言葉を選ぶ際の基本になっていきます。

例えば擬音の使い方なども、母語話者なら感覚的にわかりますよね? その言語の基本的なセンスが培われるものなので、子どもにとっては「言葉や言語の離乳食」のようなものかもしれません。

──確かにそうかもしれません。絵本にまつわる思い出などはありますか。

ディーンさん:それが、僕自身はいつ絵本を読み聞かせしてもらったかもおぼろげだし、特に思い入れがある絵本も浮かばなくて……。

ただ僕が生まれたのは「特撮の神様」とも言われる円谷英二さんの出身地でもある、福島県の須賀川市。ここには今も「須賀川特撮アーカイブセンター」がありますが、円谷さんはこの街のレガシーとも言うべき存在で、そこに住む私たちは「空想の力」というものをとても身近に感じていたと思います。

空想の力と絵本とは、必ずしも同じではありませんが、何ごとにもオープンでいるスタンスや、国や地域はもちろん、地球外のお話も無意識に受け入れていくパレットが養われたという点では、似ているところもあると思っています。

声に出す気持ちよさを重視 音楽を作るのに似ている

──過去にはご自身で絵本を作られたこともありますが、今回は初の「翻訳」です。どんなところを意識しましたか。

ディーンさん:いくつか「軸」があるのですが、一番大切にしたのは「読んでいて気持ちがいいかどうか」です。口に出したときに、リズムが良かったり、息継ぎがしやすかったり、母音と子音の運びがスムーズであることなどを意識し、言葉選びに迷ったときはこちらを優先しました。

その後、選んだ言葉を文字として記してみるのですが、その際はイタリア語の原作をじっくり見て、ページのどの部分をどれくらい文字が占めているか、ビジュアルのバランスまで確認しました。

そうして「これが最適と判断されたバランスなんだな」というものをつかんだら、「日本語の場合はどのようなコンポジション(構成)が気持ちがいいか」を考え、調和点を探っていきました。

絵の中に文字を置いていく作業は楽譜を作るようですし、文字のない部分は「無音」なので、まるで防音室の中にいるような感じ。絵本の制作は、音楽を作る作業にも似ているという発見がありましたね。

──音楽制作もされるディーンさんだからこその発見ですね。原作とはタイトルもテキストも少し変更された部分があると伺いました。

▲ディーンさんが初の翻訳を手がけた絵本『ありさんシェフのしょうたいじょう』。

ディーンさん:そうなんです。内容自体が変わっているわけではないのですが、物語の「軸の通し方」が元のものとは少し違っています。今作は、昆虫である「ありさん」が晩餐会の準備をしていくお話なのですが、誰をどんなふうにお招きするか「思い悩んでいること」に重きを置いてお話を追っていくようにしました。

そのため、タイトルも原題から少し変わっています。日本の読者にはこの形のほうがより楽しめるのではないかと思い、提案させていただきましたが、原作者の方々、また原作の出版社の方々が、そんな私のアイデアを大きな度量で受け止めてくださって、とてもありがたく思っています。

──実際にミラノに行かれて、原作者やイラストレーターさんとお話されたそうですが、どんなことを話し合われましたか。

▲イタリア・ミラノにて。制作メンバーとの打ち合わせの様子。

ディーンさん:本の話をする前に、食べ物の話をたくさんして……みんなスパゲッティ・ボロネーゼが大好きという「男の子トーク」をしまして(笑)。

そこからさらにお互いの好きなものの話をしました。彼らはマンガやアニメなどの日本のカルチャーにとても興味を持っていて、その上とても詳しいんですよ。

そんなトピックを通して、お互いの趣味嗜好、どんなふうに物事と向き合っているか、何を大切にしているかというトーンやマナーのようなものを伝え合えた気がします。

──その結果、ありさんシェフをモチーフにしたディーンさんのイラストまで描いてくれたんですね。

ディーンさん:うれしかったですね。「ここをこう変えたい」というお話もしましたし、イラストのそばに、原作にはなかったテキストを添えるコンポジションも、去り際に「OKだよ」と言っていただいて……。

「お前ならまぁ、大丈夫だろ」という感じで任せていただいたのかなと思います(笑)。

▲表紙をめくると見返しにありさんシェフのイラストが。このセリフは、ディーンさんのアイデアでテキストを追加したもののひとつ。

さまざまな視点を持つことで 新しい世界が見えてくる

──この作品には、ありさんとはまったく違う生き物もたくさん出てきますが、ディーンさんご自身も、言語や文化の異なる海外で多くの時間を過ごされてきたと思います。その中で特に違いを感じたことはありましたか。ディーンさん:いろいろな違いがありますが「暦」、「カレンダー」の違いは大きいと思います。イスラム圏で仕事をしたとき、初めて「土曜日始まり」というサイクルを知ったんです。

最初は驚きましたが、そんなイスラム教の宇宙観や暦のリズムが、やってみると僕にはとても快適で。それからは日本にいるときも、スマホのカレンダーは土曜日スタートにしています。こうすると、週の真ん中が火曜日になるんですよ。「まだ火曜日だ」ではなく、「もう火曜日だ」となるので少し気分が良くなりますね(笑)。

土日への向き合い方も変わるので面白いです。「リズム」というのは、絵本を読むときもそうですが、生活においてもとても大切だと思っています。これは宣伝になりますが、僕はTFMで土曜日に「New Calendar」というラジオ番組をやっているので、こちらもぜひ聞いてみてください(笑)。

──はい(笑)。子育て中の親御さんをはじめ、絵本の読み聞かせをされる方へ、ディーンさんの読み聞かせスタイルやコツがあれば教えてください。

ディーンさん:この『ありさんシェフのしょうたいじょう』は、僕自身の読み聞かせ映像がYouTubeで配信される予定なので、ぜひそちらもチェックしてみてください。

絵本は何度も読むことが多いと思うのですが、子どもたちは何度も読んでいると次のセリフを覚えて、先に言ってきたりしますよね(笑)。そんな場合はアドリブみたいなものを入れて、飽きさせない工夫をすることもあります。

この本を読み聞かせるとなったら、ミラノでボロネーゼを食べたよとか、絵本を翻訳するとはどういうことなのか、制作の裏側のことまで話してしまうかもしれません(笑)。

──ディーンさん流の絵本の選び方などはありますか?

ディーンさん:うーん、海洋生物とか(笑)? 動物のものは選ぶかも。

──最後に、この絵本を手に取る読者へメッセージをお願いします。

ディーンさん:僕自身、移動が多い人生だったので、「視点が変わる」という経験を何度もしてきました。視点が変わると、ものごとの見え方は大きく変わります。「これが唯一」というものはないし、多くの視点を持つことでさまざまな感じ方、受け止め方ができるようになります。

人は無意識に自分を中心にものごとを見てしまうものですが、例えばこんな絵本がきっかけになって、世界を見る新しい視点のヒントを得てもらえたら、嬉しく思います。

取材・文/小川聖子
撮影/市谷明美

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