【泥ノ田犬彦さん作「君と宇宙を歩くために③」 】 ディスカバリーパーク焼津天文科学館が舞台に
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は奥付記載で10月22日発行の、泥ノ田犬彦さん(静岡県出身)の「君と宇宙を歩くために」(講談社)第3巻。漫画誌「アフタヌーン」と、「アフタヌーン」が運営するウェブ漫画サイト「&Sofa」で連載。
「底辺高校のヤンキー」小林と、物事の同時処理が苦手で日常の行動をメモ化している転校生宇野。出会いが互いの行動を変容させる。人と人のコミュニケーションの取り方の違いを、丁寧な心理描写で描く。
第3巻では、ともに天文部に入った小林と宇野、人に自分の気持ちを伝える方法を思い悩む美川部長が、顧問の引率でプラネタリムを訪ねる。「イライラ」をどう態度で表現していいか分からない宇野に、小林はある提案をする-。
登場人物たちの互いの距離が、少しずつ縮まっていく。それは「言語コミュニケーション」だけによるものではない。他者の「感じ方」「受け取り方」に対する「自分の許容量」を少しずつ増やす高校生たち。ちょっとずつ、相手を「許せる」ようになっていく。読者は「こういう感覚、昔あったな」と感じるに違いない。泥ノ田さんは、言語化できない感覚を漫画で表現する。
作品の「シズオカ濃度」は一層強まっている。9、10話には焼津市のディスカバリーパーク焼津天文科学館が出てくる。巻末のコメントで泥ノ田さんは「想い出の場所だったので、舞台にすることが出来て嬉しかったです」としている。携帯電話に表示されるメッセージも静岡弁。(は)