「三四少女に恋をし続けてほしい」三四少女が放つ「かわいい」と3年間の軌跡を詰め込んだ1stアルバム『恋してる・コンティニュー』
つぶらな瞳の動物やふわふわのスイーツ、頬を擦りたくなるぬいぐるみまで、私たちの生活にはかわいいが溢れている。大阪発の4人組・三四少女は、そんなかわいいを超えたかわいいである「ちょーかわいいバンド」を掲げ、2022年に走り始めた。彼らの「かわいい」に込められているのは「誰もに受け入れられたい」という揺るぎない思いであり、11月27日(水)にリリースされる1stアルバム『恋してる・コンティニュー』にはそんな願いと3年間の軌跡が詰まっている。日本語と英語、中国語を縦横無尽に駆け回る自己紹介ソング「たのしいさんすう」をはじめ、目を背けたくなる現実をキュートなサウンドで包み込み、とことんエンジョイしようとする全9曲。今回SPICEでは、最新作『恋してる・コンティニュー』についてはもちろん、彼らが「ちょーかわいいバンド」を旗印にするまでの経緯や12月14日(土)よりスタートする初の東名阪ツアー『▶はじめから』への意気込みを語ってもらった。
誰もに受け入れてもらうために。三四少女が「ちょーかわいいバンド」を掲げるまで
――皆さんのプロフィールを拝見させていただいて、ラジオや映画、お笑いといった音楽だけではないエンタメからの影響を感じました。たくさんのルーツがある中で、なぜ音楽やバンドを選択したのでしょうか。
川田羽撫子(Vo.Gt):お笑いや映画、絵を描くことも好きだったので、人生において「何になりたいか」を考えるタイミングが何回かあったんです。そんな時にたみ(Gt)がバンドに誘ってくれたから「やります」と答えただけで、正直なところ、自分から音楽を選んだわけではないんですよ。だから、気づいたら音楽をやっていた感覚ですし、大学で映画を撮ったり、バンドでもアートワークやイラストを手掛けたりもしていて。音楽を中心にしながら、全部取り組めているかなと。
――アートワークや映像を別軸でやることは考えなかった?
川田:他の活動に関しては、音楽をやっているからできることだと思っているんですよね。イラストはバンドのためにしか書かないし、映像も「こういう音楽に映像を使いたい」という発想があったから、大学の人づてに映像チームに交渉ができた。全部のキッカケに三四少女が存在した上で、やりたいことを消化しているんです。
――音楽を選ぶことになった背景には、たみさんからの誘いがあるとのことですが、どのような経緯でお誘いがあったのでしょうか?
川田:中高では軽音楽部に所属していたのですが、部活の引退記念としてライブハウスに出演してみることを決めたんです。そしたら、偶然同じイベントにたみが出ていて、声をかけてもらいました。
――音楽を結果的にやることになったとおっしゃっていましたが、軽音楽部に加入したのはなぜですか?
川田:それも明確な理由があったわけではないかな。でも、学校を決める際に「軽音楽部がある中学に行きたい」とは考えていて。漠然とした憧れがあったんだと思います。
――中学校入学前に軽音楽部を意識されていたということは、早い段階でバンドに触れていらっしゃいますよね。
川田:お母さんが若いころにバンドをやっていたので、自分が生まれてからも時々演奏をしていたんですよ。とはいえ、その姿を見てバンドに憧れたわけではなく。小学生の時に段々と音楽に触れていった結果、その過去の記憶と好きになってきた音楽が結びついて「バンドってこれか」と気づきました。
――なるほと。身近な場所に音楽が存在していたと。さっちゅーさん(Ba)、あんどりゅー(Dr)さんは、どのように音楽と出会ったんですか?
さっちゅー:父親がビートルズを好きだったので、私は常にビートルズがかかっている環境で育って。その影響もあって、気付いた時にはバンドが好きになっていました。だから、高校も軽音楽部に入ろうと思っていたのですが、軽音楽部がない学校で。それで1人でベースを始めたんです。
あんどりゅー:僕が音楽に触れ始めたのは高校生の時で、軽音楽部でドラムを始めてからバンドを知るようになりました。正直、それまでの自分は音楽にそこまで関心がなくて。アニメやお笑いの方が面白いと感じていたんですよね。でも、いざドラムを始めたら、その面白さに気付いて。僕は何であれ実際にやる方が好きなタイプなので、プレイの後を追って音楽にハマっていきましたね。
――三四少女の結成の流れとして、川田さんとたみさんが発信していたベース募集にさっちゅーさんが応募され、その後、さっちゅーさんのお知り合いだったあんどりゅーさんが加わったと伺っています。さっちゅーさんは、なぜ募集に応募することを決めたのでしょうか。
さっちゅー:コロナ禍に1人でベースを始めたこともあって、純粋にライブハウスに出演してみたかったんです。それでSNSでベースの募集を探し、投稿を見て1番自分と趣味が合いそうだったので、連絡を送りました。
――川田さんはさっちゅーさんとあんどりゅーさんを迎え入れる側だったわけですが、お2人のどういったところにご自身との合致を感じたのでしょう。
川田:あんどりゅーは学校の先生に顔が似ていたので、会った瞬間から親近感があったんですよ。あとは、スーツも着ていたし、まともな人っぽいなと。さっちゅーはかわいいセットアップに青髪で現れたから、「かわいいお姉さんがきたな」と思いました。そうして初対面を果たしたあと、公園でご飯を食べる流れになったんですね。そしたら、さっちゅーが制服を着た私に「制服汚したらあかんのじゃない」と、服のデザインで使う型紙を敷いてくれて。その優しさに惹かれましたし、音楽やお笑いをはじめ、共通の趣味が多かったのも仲良くなれた理由だったかな。
――川田さんは制服、あんどりゅーさんはスーツ、さっちゅーさんはバチバチのセットアップと、なかなか印象的な初対面ですね。川田さんとさっちゅーさんは共通の音楽趣向をキッカケに仲を深めたとのことですが、それぞれ音楽的な好みがあると思うのですが、そうしたバラバラなルーツがある中で、どのようなバランスで三四少女の楽曲に影響源を落とし込んでいるんですか?
川田:たみと自分が持ってきた曲をみんなで編曲して制作をしているのですが、その過程でさっちゅーもあんどりゅーもやりたいことを詰め込んでいて。だから、バランスがどうというよりも、やりたいことをきちんと出した結果、なぜかまとまっている感覚なんです。
――では、さっちゅーさん、あんどりゅーさんはやりたいことを楽曲に加えるにあたって、どういった点を大切にされていますか。
あんどりゅー:前提として、僕が聴いてきたラウドやポップパンク、メロコアといった激しい音楽をたみは通ってきていなくて。これまで聴いてきた音楽が全く違ったから、最初はどんなドラムを入れたら良いか分からなかったんです。でも、やっている内にそれぞれの曲で求められていることが分かるようになってきて。それに合わせて、自分らしいフレーズやこれまでやってこなかったキメを入れて、全曲違ったニュアンスを出したいと考えています。
さっちゅー:キャッチ―な楽曲が多い分、ベースが前に出すぎることがないようにしたいなと。まだまだ手探りな部分もあるのですが、馴染んだベースラインを追究しています。
――三四少女は「ちょーかわいいバンド」を掲げていますが、このコピーはどういったキッカケで生まれたのでしょう。
あんどりゅー:さっちゅーがかわいいからだよね?
川田:みんながかわいいからです(笑)。
さっちゅー:最初は「曲がキモいね」と話していたので、「キモかわいい」と言っていたんですよ。でも、曲がまとまるにつれてキモさがなくなってしまったから、「ちょーかわいいバンド」を掲げるようになりました。で「ちょーかわいい」には、「今かわいくありたい」という気持ちだけではなく、「将来もっとかわいくなりたいよね」という思いも込められているかなと。
――かわいいを追究しているのは、何故ですか?
さっちゅー:純粋にかわいいものはみんなが好きだし、良いじゃないですか。ビジュアルに限った話だけではなくて、雰囲気がかわいければ受け入れられやすいですし。
――三四少女はMVやアー写をはじめ、ビジュアルやムードを大切にしているバンドだと感じています。そうした周囲からの視線を意識するようになった背景を教えてください。
川田:もちろん服が好きなのも理由なんですけど、沢山の人に受け入れてもらうためにはビジュアルを整えることが大前提かつ、一番手っ取り早い方法だと思うんですよ。良い曲を作るよりも、髪型をセットしたり、化粧を頑張ったりする方が簡単なので。
――かわいいへ近づくための手段のひとつがビジュアルだと。ルックス面において、どのようなポイントを意識されていますか?
川田:高校生の時は髪も短くて、何をやっても引かれへん見た目になろうと考えていたんですね。わんぱくなイメージが見た目で伝われば「まだ子供やし」で、何をやっても許されるかなと。だから、ステージを降りたり、さっちゅーに突進したり、元気なパフォーマンスもできたんです。でも、高校卒業をキッカケにわんぱくを貫き通せるフェーズは終わったし、みんなに憧れられる存在にならなきゃいけないと思ったんですよ。それで、最近は大人っぽい雰囲気を意識しています。
ネガティブをかわいいで書き換える1stアルバム『恋してる・コンティニュー』
――三四少女のかわいいが詰まった1stアルバム『恋してる・コンティニュー』が11月27日(水)にリリースされます。名刺代わりの1枚でありながらも、ポップな歌詞やサウンドの裏に真っ直ぐな愛を感じる作品だと思いました。改めて今作を振り返って、皆さんはどんな作品になったと感じていますか?
さっちゅー:2021年の結成から現在までの3年間で生まれた曲が入っている分、バラエティーに富んだ1枚になったと思っています。これまで私たちは4曲(1st EP『創刊号』と「ユートピア」)しか、配信をしていなくて。今どき、そんなバンドいないじゃないですか。だけど、今作は短い期間で作ったわけではないから、あの時作った曲もこの時作った曲も混ざっている。その分、色々な種類の曲を楽しんでもらえるなと。
あんどりゅー:さっちゅーが言ってくれたように色んな曲が入っているので飽きないし、聴いていて面白いんですよね。羽撫子が歌う曲もたみが歌う曲もあれば、2人で歌うものもある。速くて激しいかと思えば、遅くてゆっくりなものもあって、このバンドひとつで網羅できているんじゃないかな。
川田:この3年間の結晶のようなアルバムになりました。全ての曲に思い出がありますし、作った当初の気持ちを振り返ることもできる。ここまでやってきたことと色々な思いが乗った1枚だと思っています。
――制作をスタートした段階から、1stアルバムはこれまでの歩みを閉じ込めたものにしようと考えていたのでしょうか。
川田:というよりも、既にライブでやっていた曲を詰め込んだ感覚でした。でも完成した後に振り返ってみたら、一貫して言っていることがあって。それはそれぞれの時期で私とたみが考えていたことだから、これを聴けば私たちの3年間の頭の中が分かると思いますね。
――川田さんとたみさんの思考の変遷を読み取れる1枚になっていると。日本語と英語、中国語が入り乱れる歌詞が特徴的な「たのしいさんすう」は、リリックに<我们是三四少女>とある通り、三四少女の名刺的なナンバーですが、この曲は制作当初から自己紹介ソングを目指していた?
川田:「たのしいさんすう」は全く自己紹介ソングじゃなくて、もともとたみが書いた違う歌詞が乗っていたんですよ。だけど、初ライブの前日に「この歌詞、曲に合ってなくない?」という話になって。私が書き直した結果、今の形になりました。
――土壇場で歌詞を変更しなくてはならないほど、曲と歌詞がマッチしていなかったと……。
川田:既にあった歌詞を強引に合体させていたので、音と合致していなかったんですよね。この曲は良いという直感もあったので、せっかくだったら丁寧に歌詞を考えたかったんです。
――「たのしいさんすう」を自己紹介ソングたらしめている理由のひとつが中国語の歌詞だと思うんですね。一夜で歌詞を書き直すにあたって、中国語を入れようと思ったキッカケは何だったのでしょう。
川田:バンド名が三四少女やし、こういう曲があっても良いなって思ったんです。
――<1234 Shall we dance?>をはじめ、各所で韻も踏まれていますが、中国語に慣れ親しんでいたから歌詞に組み込んだわけでもなく?
川田:前々から「1234」と「Shall we dance?」は韻が踏めるなと思っていたので、それをベースにしようと考えたんですよ。「このワードは中国語で何て言うんやろ」と思ったら翻訳アプリで調べつつ、メモに溜めていた言葉を詰め込みましたね。
――「たのしいさんすう」の<我爱你で生きていたい!>というラインをはじめ、アルバムの各所からは「辛い世の中でもエンジョイして生きてほしい」「何とかしてハツラツに困難を乗り越えてほしい」というメッセージを感じました。
川田:おっしゃっていただいたような想いは、確かにあるかもしれないです。私は不登校だったので、「たのしいさんすう」には学校に対するムカつきや苛立ちが凄く表れていて。でも、そういったネガティブな感情を楽しく歌えば、楽しくなるんじゃないかと思ったんですよね。どうにかポジティブな方向に持っていこうとする様子が、「乗り越えよう」という気持ちと繋がっているのかもしれないなと。
――楽しいものでネガティブな感情をコーティングする感覚?
川田:そうですね。直接言うよりも、間接的に表現した方がかわいいと思いますし。
――間接的な表現がかわいいという今のお話は、三四少女のかわいいにとって肝要な気がしていて。先ほど当初は「キモかわいい」を掲げていたという話もありましたが、グロテスクだったりネガティブだったりする感情が、三四少女の「かわいいフィルター」を通すことでプラスに変換されるじゃないですか。「シュガースーサイド」を筆頭に、マイナスな現実を間接的に表現する、つまりかわいくすることで楽しさに変えてしまう力が三四少女にはあると感じるんですよ。
川田:三四少女のことを好きでいてくれる中学生がいたとして、その子が親の前で聴けるバンドになりたいんです。私たちの曲を聴いている子どもに対して、お父さんお母さんが「何この曲?」となるバンドにはなりたくない。だから、聴いていて嫌じゃない音楽にすることを意識していて。それがかわいさや楽しさになっているんだと思いますね。
――今おっしゃっていただいたことは、憧れられるビジュアルを意識しているという先ほどのお話と通じているなと。あんどりゅーさんは、提示された楽曲をどのように受け止めていらっしゃいますか?
あんどりゅー:自分はずっと直接的に生きてきたから、間接的な表現をするのも、理解するのも苦手なタイプなんですよ。なので、最初の頃は「<あの子はシュガースーサイド>(「シュガースーサイド」より)ってなんや」と思っていたんです。でも、歌詞をよくよく読み解いていくと、きちんとひとつの物語になっていることに気づいて。最近は、伝えたい内容に合わせて、ドラムを選択できるようになってきました。
――オブラートな表現が苦手だったにもかかわらず、少しでも理解しようと思えたのはなぜなのでしょう。
あんどりゅー:僕とたみが正反対な性格をしているので、分からないなりに歩み寄らなきゃいけないと思ったんです。「愛をこめて」はパンク系の1曲ですけど、何でもかんでもツービートじゃ駄目だなと。
――さっちゅーさんは、上がってくる楽曲に対してどういった感想を抱いていますか?
さっちゅー:たみの歌詞は詩的で魅力を感じますし、羽撫子が書いてくれる歌詞は、「ユートピア」の<アイスクリーム>と<I scream>を筆頭に、ダブルミーニングが凄くて。「どうやって思いつくんやろ」と思います。
――さっちゅーさんにおっしゃっていただいた通り、三四少女の歌詞はダブルミーニングも特徴的ですよね。
川田:私はtetoが好きなんですけど、言葉でリズムを取っていくスタイルが格好良いなと思ったんです。だから、自分もやってみたいなと。そのために日ごろから「この言葉は何で韻が踏めるやろう」と考えています。
――タイトルに「コンティニュー」を冠した本作は、<リセットボタンと あいつのせいにして>と歌詞を綴った「ユートピア」で終わり、再び「▶つづきから」でスタート地点に返ってくる構成になっているじゃないですか。このようにループするアルバムの流れは、意図していたのでしょうか?
川田:今、気付きました! 確かに、8bitとか隠しコマンドって言ってるしな。
さっちゅー:めっちゃ凄くない?
川田:今日からそういうことにします(笑)。でも、ゲームの要素が多いことは自覚していて。私たちって1人1人がアイコニックだし、ゲームのキャラクターっぽいなと思ったんですよ。だから、ジャケットも格闘ゲームのキャラ選択画面を意識したビジュアルになっていて、タイトルもゲームを絡めている。あとは「三四少女と恋をしましょう」とMCをすることがあって。これからも三四少女に恋をし続けてほしいなと思って、コンティニューをタイトルに付けました。
同世代バンドと各地で激突する初めての東名阪ツアー『▶はじめから』
――12月14日(土)愛知・名古屋CLUB ROCK’N’ROLLより、『恋してる・コンティニュー』を引っ提げての初の東名阪ツアー『▶はじめから』がスタートします。愛知編にはザ・シスターズハイとパキルカ、東京編にはHazeとアンと私、大阪編には猫背のネイビーセゾンと超☆社会的サンダルが出演します。
川田:バンドをしていることを抜きにして、普段から聴いているバンドを呼びましたね。
さっちゅー:自分たちもライブを観て楽しみたいし、憧れのバンドとも対バンしたかったんですよ。なおかつ、「このバンドと三四少女の組み合わせが観たい」と言ってくれている人の希望も叶えることができたと思っています。
川田:あとは、年齢が離れていない人たちが良いなと。同世代として近しいライブシーンにいるバンドたちと戦うツアーになりました。
――各地で化学反応が起こると思います。最後にツアーに向けての意気込みを聞かせてください。
あんどりゅー:初めての東名阪ツアーなので、全通は絶対です!
さっちゅー:アルバムを聴いて、遊びに来てください!
川田:よろしくお願いします!
取材・文=横堀つばさ 撮影=福家信哉