後閑信吾が初めて丸の内で挑戦する酒場「The SG Tavern」の全貌
世界で最も注目されるバーテンダーの一人、後閑信吾が率いるバーカンパニーのSGグループが、「丸の内永楽ビルディング」に2024年5月28日、新店舗「エスジータバーン(The SG Tavern)」をオープンした。
国内外で8店舗を展開するグループとしては初となる、商業施設内の店舗。「商業施設としては珍しく路面で世界観も作りやすく、丸の内という場所的にもコンセプ トにも合うので、チャレンジしてみようと思いました」と話す。しかもグループとしては日本では初めて渋谷ではなく、丸の内という地での挑戦だ。
「若い時に日本を離れたので、渋谷以外あまり知らなかったんです。なのでThe SG Clubは渋谷で始めました。ただ今回のThe SG Tavernに関しては丸の内の方がよりフィッ トしてると思います」。
店名に冠されたタバーン(酒場)というコンセプトは、後閑自身がしばらく温めていたものである。「バックストーリーを考えるのが好きなんですよ」と話す彼が描いたのは、海外渡航を禁止されていた幕末の時代に、薩摩藩からロンドンに密航した19人の若き侍たち「薩摩スチューデント」から着想を得た、タバーン誕生までのストーリーだ。
後閑自身が海外で得た感動をのせて
藩産業の近代化を目的とした、侍たちの長い視察旅。彼らは異文化に触れ、見たことのない酒や料理を口にし、特にバーやカクテルにはすっかり魅了されたのだ。エスジータバーンは、帰国した侍たちがバー文化発展のために日本人と外国人との交流の場を作ろうと、各地で口にしたカクテルや料理を提供する店として、日本の玄関口・丸の内にオープンを迎えた。その扉が開かれた5月28日は、初めて彼らが英国の地を踏んだ特別な日だ。
夢と希望に満ちたこのストーリーは、後閑自身が海外で得たノンフィクションとも入り混じっている。
ストーリーは店の随所に小気味よく表現されている。メニューを見ると、とても自由な発想で構成された料理の数々が並ぶ。一部料理の監修は、後閑同様に世界中から才能を絶賛される南青山「ナリサワ(NARISAWA)」のシェフ、成澤由浩というから驚きだ。
「異業種のプロフェッショナルとの掛け算が大好きなんです」という後閑が、タバーンという日本に馴染みのない業態でどうしてもタッグを組みたいと願ったのが成澤だった。「今までに他店舗を手がけることをしていない方なのでダメ元でお願いしたのですが、即答で快諾していただけました。尊敬するシェフと一緒に仕事ができて光栄です。成澤さんの料理はとにかくバランスが素晴らしいんですよね」。
例えば、たった1滴のレモン果汁で味が決まるようなカクテルを作って客を喜ばせる後閑だからこそ、成澤の料理のバランスを絶賛する。聞き馴染みのあるハンバーグやフィッシュ&チップスといった多国籍の酒場のメニューを、見事に成澤が現代的に昇華させた。
侍たちが各国で味わったハイボールの味わい
それらのどんな料理に合わせても心地よく飲める「ハイボールジャーニー」というドリンクメニューのカテゴリーも面白い。「日本人にとってはハイボールというとウイスキーのソーダ割りを指すと思いますが、カクテルシーンのスタンダートでは、炭酸が入っているロングドリンクを総称してハイボールと言うんです。だから、ジントニックもハイボール。侍たちが各国で味わったハイボールは、どんな食事とも楽しめますよ」
もちろん、食後のシグネチャーカクテルもここならでは。中でも「北極星マティーニ」を飲んだら、誰だって忘れられないひとときになることだろう。ウオッカをベースにパッションフルーツとシーバックソーン(サジー)でシェイク、最後に無濾過(むろか)ビールの泡が美しく注がれた一杯だ。
文明開化を思わせる内観
店に一歩足を踏み入れると、文明開化期を思わせるエイジングされた家具たちがさり気なく置かれ、なんとも居心地がよい。「SGグループを知り尽くしたWHOLEDESIGNの杉山敦彦さんだからこそです。僕がストーリーと大まかなイメージを送ると、絶対一発でいいものをあげてくれる人」と、後閑が絶大な信頼をおく杉山が、ストーリーを見事に丸の内で再現した。
極めつきはバーカウンター横に象徴的に飾られている壁画である。これまでもSGグループの店舗にさまざまなアートを届けてきたジョージハヤシによる、薩長同盟の記念に撮られた一枚の写真へのオマージュ。よく見ると、中央には後閑が悠然と座っているのだ。思わずクスッと笑ってしまった。
ここは決して「タイムスリップ酒場」ではない。後閑の描いたストーリーが、店を構成する全ての要素に時代をリードするエッセンスを交え、見事に表現されている。国内のみならず、国外のゲストにとっても注目の酒場になるのは間違いなさそうだ。