新世代キャストが新しい風を吹かせる! ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』6年ぶりに上演~会見&ゲネプロレポート(城田優ver.)
2025年5月10日(土)、ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』が東京建物Brillia HALLで開幕した。
『ダンス オブ ヴァンパイア』は、ミヒャエル・クンツェが脚本・歌詞、ジム・スタインマンが音楽を手掛け、1997年に世界初演されたウィーン発のゴシックミュージカル。日本では山田和也の演出で2006年に帝国劇場で初演されて以来、観客から熱狂的な支持を受ける人気作となり、今回は6年ぶり6度目の上演となる。
ヴァンパイアのクロロック伯爵役は日本初演から山口祐一郎がひとりで演じ続けてきたが、新たに城田優がWキャストを務めることでも話題を呼んでいる。他にも、長年本作を支え続けてきたベテランキャスト陣に加えて多くの新キャストが集い、新生『ダンス オブ ヴァンパイア』に期待が高まる。
本記事では5月10日(土)昼に行われた新キャスト組※のゲネプロと、その直後に行われた会見の模様をお届けする。(※この日のキャストは、クロロック伯爵:城田優、サラ:中村麗乃、アルフレート:寺西拓人、クコール:伊藤今人、ヴァンパイア・ダンサー:加賀谷一肇、アブロンシウス教授:武田真治)
ゲネプロレポート
物語の舞台はヴァンパイアの故郷とされている、ルーマニアのトランシルヴァニア地方。厳しい冬を感じさせる荘厳なオーヴァーチュアが流れ始めると、白い照明が吹雪となって客席へ降り注ぐ。すると客席通路から「プロフェッサ〜!」と何とも情けない声で叫ぶ少年、アルフレートが登場。どうやら雪山ではぐれてしまったアブロンシウス教授を探しているらしい。猛吹雪の中なんとか見つけた教授は、あまりの寒さに気絶してカチンコチンに凍っていた。またしても「プロフェッサ〜〜〜!」と絶叫するアルフレート。
……と、幕開けの雄大な音楽とは対照的に、何やらコミカルな展開で物語は始まっていく。そう、本作はゴシックであり、ホラーであり、コメディでもあるのだ。
アルフレートと教授が駆け込んだ宿屋の人々もちょっぴり風変わり。首からニンニクのネックレスをぶら下げて「ガーリック♪ガーリック♪」と陽気に歌い踊る客たち、女中に夢中な宿屋の主人シャガール、そんな夫に呆れながらも人情味のある女房のレベッカ、溢れ出る色気が隠せない女中のマグダなどなど。
風変わりな宿屋の人々の介抱によって元気を取り戻した教授とアルフレートは、この辺りにヴァンパイアが住む城がないか尋ねる。二人はヴァンパイア研究の旅の途中だったのだ。しかし、“ヴァンパイア”と聞いた宿屋の人々の態度は一変。明らかに何かに怯えているような素振りを見せ、決してヴァンパイアに関する情報は教えてくれなかった。
宿屋に滞在することになった教授とアルフレートだが、アルフレートはひょんなことから宿屋の娘サラに一目惚れ。お風呂が大好きだという夢見がちな少女にくびったけだ。ところがある晩、入浴中のサラの前にヴァンパイアのクロロック伯爵が現れ、外の世界に憧れるサラを誘惑。サラは自ら進んで宿屋を飛び出し、姿を消してしまう。アルフレートは愛するサラを見つけ出すことができるのかーー
ヴァンパイアという人ならざるものを描く本作には、終始非現実的な空気が漂っている。ゴシック調の装飾が施された重厚な舞台美術、妖しくも耽美的な旋律を奏でるオーケストラ、大勢のヴァンパイアダンサー・シンガーたちの妖艶なパフォーマンス。これらによって他では味わえない唯一無二のヴァンパイアの世界観が作り出されているのだ。
このヴァンパイアの世界観を確固たるものにしているのが、本作の黒幕であり主人公でもあるクロロック伯爵の存在だ。城田優はまるで黄泉の帝王を彷彿とさせるような冷徹で美しいヴァンパイアとして舞台上を生き、これまでにない新しいクロロック伯爵像を構築。その罪深い美貌は、もはや異次元。背中には孤独をまとっており、触れたら割れてしまいそうな、尖ったガラスのような繊細さがある。まだまだ秘めた可能性を感じさせるクロロック伯爵だった。
クロロック伯爵とアルフレートに求められるヒロインのサラを演じたのは、中村麗乃だ。両親から過保護に育てられてきた世間知らずな可憐な少女を、中村は等身大の少女として溌剌と演じた。アルフレートを手のひらで転がす小悪魔的魅力も持ちつつ、外の世界へ憧れる瞳には純粋さが宿っていた。
ミュージカル界屈指のヘタレキャラ、アルフレートを演じたのは寺西拓人。物語冒頭からへなちょこっぷりを発揮し、無駄に多い動きやクルクル変わる表情で、何事も一生懸命に取り組む一途なアルフレートを好演していた。キャラクターとしてはヘタレなのに、歌い出すとたちまち煌めく王子様ヴォイスなところがまた憎い。どこか爽やかさが隠しきれない、好青年なアルフレートだった。
一心不乱にヴァンパイア研究に勤しむアブロンシウス教授役は、武田真治。研究に熱心過ぎて周りが見えておらず、少々堅物の教授なのだが、ときどき見せる人間味が愛らしい。アルフレートとの掛け合いもバッチリで、本作名物(?)の早口ナンバー「人類の為に」も見事に歌いきっていた。
芋洗坂係長は、娘思いだけれど浮気癖のあるシャガールをひょうきんな演技で軽快に表現。明星真由美はなんだかんだ亭主思いなレベッカを熱演し、哀愁を感じさせる。マグダ役の青野紗穂は、「死んじゃうなんて」で切なくもソウルフルな歌声を響かせ存在感を発揮していた。
クロロック伯爵の息子で、アルフレートに好意を寄せるヘルベルトはジュリアンが怪演。ワイルドかつ美しい身のこなしでアルフレートに迫る姿は恐怖を感じさせる程。クロロック伯爵に仕えるクコール役の伊藤今人(梅棒)は、細かい芝居で観客の笑いを誘った。
大勢の新キャストが加わり、新たな風が吹いた本作。新鮮な楽しみはもちろん、開演前のアルフレートによるアナウンスや、幕間のクコール劇場、「モラルもルールもまっぴら♪」と舞台と客席が一体となって盛り上がるカーテンコールなど、変わらない魅力もある。今回初めてヴァンパイアに出会う人も、ヴァンパイア通な人も、一緒になって楽しめること間違いない。帝国劇“城”ならぬ“ブリリア城”で、ヴァンパイアたちが待っている。
会見レポート
ゲネプロ後に行われた初日記念会見には、クロロック伯爵役の山口祐一郎、城田優、サラ役のフランク莉奈、中村麗乃、アルフレート役の太田基裕、寺西拓人、アブロンシウス教授役の石川禅、武田真治ら8名が登壇した。
まず「初日を迎えるにあたっての今の気持ちや意気込みは?」とレポーターから問われたキャスト陣。日本初演からクロロック伯爵をひとりで演じ続けてきた山口は、牙がついているため聞き取りづらくなることを断りつつ「この作品はようやく成人式(日本初演から約20年)を迎えました。いい婿が来ないかなあと思っておりましたが、ようやく来ました! こんなにいい息子(城田)ができて私は幸せです」と何とも嬉しそうに語った。
続いてゲネプロを終えたばかりの“息子”城田は「20年続いた作品のシンボルとも言えるクロロック伯爵というキャラクターを、自分なりに精一杯、日々向上心を持ち続け、全うし、最後まで演じられれば幸いです」と真摯に述べた。それに対してレポーターが「(今日のゲネプロ公演)素晴らしかったです」と伝えても頑なに「いえ、そんなことは」と謙遜する、自分に厳しい城田だった。
長年本作を客席から観ており、憧れの作品だったというフランクは「やっと初めてこの舞台に立たせていただける喜びと、それをお客様と共有できる楽しみな気持ちでいっぱいです」と笑顔を見せた。
同じくサラ役を務める中村は「母と父が名前を決めるときに、“レノ”と“サラ”という名前で迷ったそうなんです。今回はサラだった私をお見せできるので、楽しみにしていただけたらなと思います」と自身の名前のエピソードを明かした。
続いてアルフレート役の太田は「劇場空間にお客様が入ってさらに濃くなっていく作品だと思います。このあとお客様と互いに共有しながら、エンターテインメント要素たっぷりの素敵な作品をお届けしたいです」と意気込む。
一方の寺西は「僕も親に聞いたら、名前の候補が“アルフ”か“タクト”だったそうなので……」と先程の中村の名前のエピソードに乗っかると、すかさず城田が「これ、ニュースの見出しになるよ」 と冷静にツッコむ場面も。
「実はこの作品はもう二度とお目にかかれないかと思っていました」と話し始めたのは、2009年からアブロンシウス教授役を務める石川だ。出演者全員の客席降りがあり、キャストと観客の距離が近いことも魅力の本作。コロナ禍以降初めての上演となる今回、「一回一回、みなさまとこうやってお会いできる機会があることを幸せに感じながら、最後までやっていきたいと思います」としみじみ語った。
武田はアブロンシウス教授役の初演キャストが市村正親だったことに触れ、「僕の個人的な心の師匠である市村正親さんが演じていた役をやらせていただける喜びを感じております」と、喜びを噛み締めた。
その後は、Wキャストの相手とのエピソードがそれぞれから語られた。
まずは今回初めてWキャストとなったクロロック伯爵役の二人。山口は自身を“消え入る前のロウソク”に例えて笑いを取りながら、「これから宇宙が始まるエネルギーに満ちた息子! 『ああなるほどな〜』と思えるような表現を、この劇場空間でみなさまにお楽しみいただけると思います」と城田を絶賛。続けて「これで私は次から縁側でお茶を飲みながら、息子の活躍をゆっくり眺めることができます」とにんまり。
城田は「一緒にお茶を飲みましょう」と応えつつ「僕が芝居をしたときに、初めて(山口が)客観的に自分の役を見ることができたそうで『面白い発見があった。ありがとう』とおっしゃっていただけました。お役に立てて良かったです」と稽古場での思い出を振り返った。
サラ役の二人は、まるで本当の姉妹のような仲の良さ。フランクは中村を「すごく守ってあげたくなる存在」、中村はフランクを「台本を読んだときに想像していたサラの像にピッタリ!」と互いにコメント。
アルフレート役の太田は「タクティは……」と、以前決めたけれども結局呼んでいなかったあだ名で寺西を呼び(実際は“てら”と呼んでいたそうです)、二人で稽古場や楽屋でお菓子を共有していることを明かした。
寺西は「もっさん(太田)は歌っているときに何かが憑依しているような、目がキマっている感じで、僕には真似できない。それぞれの個性があるアルフレートになっているんじゃないかなと思います」と、Wキャストの醍醐味を語った。
続いて、クロロック伯爵と同じく今回初めてWキャストとなったアブロンシウス教授役。この役は段取りが非常に多いそうで、武田は「歴代キャストが現役で演じて見せてくれるという理想的な形で稽古を進められました。(石川)禅さんがいなかったら僕の初日は開かなかったかもしれないくらい。本当に感謝しております」と大感謝。
石川も自身が市村正親から役を引き継いで初日を迎えたときを振り返り「自律神経がおかしくなって、汗が止まらないわ、『ここは誰? 私はどこ?』という状況でしたので、彼の気持ちがとてもよくわかるんです。二人で頑張りたいと思います」と武田に共感を示した。
会見の最後は山口から「 2025年もいろんなことがありますけれど、みなさまに一番元気をお届けすることができるミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』! ぜひ劇場に足をお運びください」と、力強い一言で締めくくられた。
東京公演は東京建物Brillia HALLにて5月31日(土)まで。その後は愛知・大阪・福岡と全国公演が控えており、7月30日(水)に博多座で大千穐楽を迎える予定だ。ヴァンパイアたちによるめくるめく陶酔の世界へ、足を踏み入れてみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影=松村蘭(らんねえ)