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伊能忠敬と内縁の妻・お栄を中心に展開する“お江戸測量ラブコメディ” アナログスイッチ『伊能忠敬、測り間違えた恋の距離』公演レポート

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アナログスイッチ 22nd situation『伊能忠敬、測り間違えた恋の距離』

アナログスイッチ 22nd situation『伊能忠敬、測り間違えた恋の距離』が、2025年8月14日(木)、東京・下北沢のザ・スズナリで初日を迎えた。公演は19日(火)まで。ここでは、初日に行われたゲネプロの模様をレポートする。

本作は、江戸時代に日本地図を完成させた伊能忠敬と、その内縁の妻・お栄を中心に、仲間たちを巻き込みながら展開する“お江戸測量ラブコメディ”。

伊能忠敬といえば、年齢を重ねてから測量を始め、正確な日本地図を作り上げた人物――とその程度の知識しかない。そんな筆者にとって、「伊能忠敬」と「ラブ」の距離はあまりにも遠い。「伊能忠敬、どんな恋愛してたんだろうなぁ」なんて考えたこともないし、そもそも歴史上の人物をラブの角度から想像したこともない。

それでも、誰かが誰かを思う気持ちは、きっと時代を超える。歴史に疎い私でも、伊能忠敬という人物を、これまでより少しリアルに、そして少し身近に感じられるかもしれない。そんな期待を胸に会場へ向かった。

物語は、古関えりか演じるお栄が望遠鏡で星を眺めるシーンから始まる。そこに現れるのは、葛飾北斎の娘である応為(土本橙子)。手にはお酒とお猪口、どうやら酔っている様子だ。

お栄が「織姫と彦星って、今でも幸せにやってるのかな?」「一年に一回しか会えなくて、それで上手くやっていけるのかな?」「私には無理だな」と寂しげにこぼすと、応為は「それ、離縁されたばっかりの私に聞く!?」と不機嫌に返す。どうやら傷心のやけ酒らしい。父の血を継ぎ絵を描く応為に、元夫は「もう絵は描くな」と言い放ったのだという。「人が一番やりたいことやるなって、こんなに残酷なことないよ。クソだ!」と憤る。一連のシーンはコミカルでありながらも、振り返ると本作全体のテーマを示唆しているようにも感じられる。

次に登場するのは測量御一行。客席横の階段から、伊能忠敬(奥谷知弘)が歩数を数えながら舞台へと現れる。同行するのは、息子の秀蔵(秋本雄基)と、弟弟子の隼太(渡辺伸一郎)。秀蔵はお栄の子ではなく、その前に内縁関係にあった女性(すでに故人)が母だという。この後の会話から、伊能忠敬にはお栄以前に内縁を含め3人の妻がいたこともわかる。時代的な背景はあるだろうが、それでも心の中で「そんなにモテてたの!?」と驚いた。しかし奥谷演じる忠敬には測量ひとすじに生きる男のまぶしさがあり、惹かれるのもわかる気がする。いつの時代も、何かに真っ直ぐ向かう人は魅力的である。

しかし、測量ばかりで構ってくれない相手との関係を維持するのはなかなか大変なこと。お栄は、忠敬の師・高橋至時(忠津勇樹)から借りたオランダの恋物語に触発され、一芝居打つことを思いつく。それは――お栄を奪おうとする恋敵が現れ、焦った忠敬に結婚を誓わせる、という計画だ。もしそれが叶わなければ、次の測量旅には行かせないと至時に宣言。「仕事と私、どっちが大事?」という昔のドラマの定番台詞さながら、まさに「測量と私、どっちが大事?」といったところだ。

恋敵役には、かつての忠敬の仕事仲間であり至時に弟子入りを志願してきた間宮林蔵(田鶴翔吾)を抜擢。一方の忠敬陣営も、家出したお栄を呼び戻すために対抗策を練る。そこで弟子のお菊(櫻井成美)が、自ら志願して恋敵役を買って出る。二人のライバル役が見せる本心の揺れも見どころのひとつだ。

測量の旅に出たい忠敬陣営と、プロポーズ(劇中ではオランダ語風に「プロポージュ」)させたいお栄陣営。両者の入り乱れた駆け引きは泥試合の様相を呈し、恋という感情に疎かった忠敬も(3人も妻がいたのに!!)次第に自分の気持ちを自覚していくことに。

果たして忠敬はお栄に「プロポージュ」するのか? そして、どんな時でも崩さないその歩幅は、最後まで乱れないままなのか!?

真夏のザ・スズナリにて、江戸のポップな恋物語を目撃してほしい。

取材・文=碇雪恵

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