【スージー鈴木ロングインタビュー前編】「2枚目の名刺をつくってみよう」 会社員こそ挑戦すべきキャリア戦略
パラレルキャリアや副業という言葉では捉えきれない、「もうひとつの肩書」を育み、人生を豊かにする人々。連載「肩書+(プラス)」では、本業の幹を育てるかたわらで、自分らしい枝を育み、活躍している人の仕事観に迫ります。
今回登場するのは、音楽評論家のスージー鈴木さん。新卒で広告代理店に入社し、会社員としてのキャリアを積む一方で、音楽や野球といったサブカルチャーをテーマに執筆やラジオ番組での活動を続けてきました。2021年に55歳で早期退職制度を活用して会社を離れ、現在は独立して、サブカルチャー領域で幅広い活躍をしています。
インタビュー前編では、「会社員時代からサブカルを諦めなかった」スージーさんに、会社員という安定を土台に実践してきた「サブカル」+「サラリーマン」=「 サブカルサラリーマン (以下、サブサラ)」活動の実践法について伺いました。
後編:【スージー鈴木 ロングインタビュー後編】博報堂マーケ局長×音楽評論家の二刀流。本業とサブカル両立のためのTips
会社員時代こそ挑戦の好機。安定を武器に一歩踏み出そう
──就職前、学生時代からラジオに関わっていたと聞きました。
スージー鈴木(以下、スージー):ええ、FM局の深夜番組でアルバイトをしていて、1分間のコーナーを企画から出演まで任されました。あるとき突然「街頭インタビューやってこい」と言われて、とっさに名乗った名前が「スージー鈴木」だったのです(笑)。
あくまで学生の遊びの延長でしたが、新卒面接で話したところ珍しがられ、広告代理店への入社につながる大切なきっかけになりました。
──サラリーマン時代もメディア活動を続けていたそうですね。
スージー:まあ、そうですね。入社2年目にはフジテレビの深夜番組でアイデア出しのバイトを始め、雑誌『TV Bros.(テレビブロス)』で連載「ブロス探偵団」に執筆陣の一人として参加しました。FMヨコハマでは、5分ほどのコーナーを担当しました。30代に入ってからは野球にハマり、『週刊ベースボール』で音楽と野球をテーマに連載を持つなど、本業の傍ら好きなことを形にしていきました。
──多くの人は、本当にやりたいことがあっても会社の仕事でいっぱいいっぱいです。まず何から始めればいいでしょうか?
スージー:どんなささいなことでもいいので、まずは“形にする”ことです。 その方法は大きく分けると、外向きと内向きの二つがあります。
「外向き」は、人に見せられる具体物を持つこと。会社のものと別に「もうひとつの名刺」を一枚つくる、自分のWebサイトやYouTubeチャンネルなどを立ち上げる。それだけで“ゼロからイチ”が生まれ、人に説明もしやすくなります。
私自身もインターネット黎明期に、自作サイトを立ち上げ、誰に読まれるとも分からない文章を毎週更新していました(笑)。暗闇に向かって投球練習をしているようなもので、当然お金をもらって人前に出せるレベルではありませんでしたが、「毎週1本書く」と決めて書き続けたことが、今の仕事の礎になっています。
一方の「内向き」は、自分を行動に向かわせる仕掛けです。たとえば、パソコンのデスクトップにやりたいことの名前でフォルダを作ってみる。私はこれを 「カルチャー系活動フォルダ」 と呼んでいます。私の場合、フォルダの名前は「音楽本出版プロジェクト」でした。デスクトップは常に目に入るので、毎日それを意識するようになり、意識している間に、資料やアイデアをどんどんフォルダの中に放り込む習慣が生まれてきます。単にフォルダを作るという、ほんの数秒の行動でも、日常の中でやりたいことを前に進められるのです。
結局、 やりたいことはゼロから突然生まれるわけではなく、積み重ねてきたことの延長にあります。 本を書きたいなら、まずはSNSやnoteとかに書いてみるとか、タイトルを考えてみるとか。小さくてもいいので、実際に動くことが大切です。それがスタートラインになります。
──「名刺をつくる」ということなら、すぐにできそうですね。
スージー:そうですね。名刺づくりは小さくても大事な一歩です。 こうした“形にする”行動を後押ししてくれるのが、会社員という立場なんです。 安定した収入(額はさておき……)や休みがあるからこそ、余裕を持って、自分の好きなサブカルに触れられる。もちろん最近は正規・非正規という雇用の違いがありますので一概には言えませんが、特に正規社員(正社員)であれば挑戦しやすい環境だと言えます。少なくとも、病気や収入の不安定さが大きなリスクになるフリーランスよりは恵まれている。あと、最近は副業解禁の企業も増えており、会社員なら、以前よりも両立しやすくなりました。
私自身も、サラリーマン時代に小さな経験を積み重ねていって、それが人脈や実績となりました。そして55歳で早期退職し、独立。いまは音楽評論家として活動を続けられています。動き出すのに“完璧な準備”はいりません。もしもあなたが会社員なら、安定している今だからこそ、挑戦するチャンスです。
震災が大きな転機に。「やりたいことをやろう」と決意した45歳
──新入社員の頃から、いずれはサブカルの道を進もうと計画していたのでしょうか?
スージー:まったく考えていませんでした。20代後半〜30代は本業一色。プレゼンに勝てば嬉しい、企画が通れば達成感がある。そんな日々に没頭していて、音楽の流行も追えないほどでした。だから2000年~2010年ぐらいの音楽にはあまり自信がない(笑)。
転機は2004年の管理職への昇進ですね。熱狂していた現場仕事が少しずつ減るにつれて、サブカルへの思いが強まりました。そして2011年の東日本大震災で、「命には限りがある」と痛感し、「やりたいことをやろう」と決意。45歳で本格的に執筆を始めました。 デビューが遅かったのはむしろ幸運 かもしれません。というのは、会社員時代に積み重ねた経験や感情が、ものを書くときの大きな支えになっているからです。
さらに2015年からのサブスク普及が追い風となり、米津玄師や宇多田ヒカル、星野源の曲を聴くようになり、その表現力に驚かされました。翌年には最新ヒットの評論依頼も舞い込み、若いアーティストたちが過去の音楽を巧みに咀嚼し、自分の表現に昇華していることに気づきました。Vaundyが歌詞にデヴィッド・ボウイを織り込むなど、70年代のロックをうまく取り入れているのは、その好例です。サブスクによって過去と現在を自在に行き来できるようになり、私自身も「音楽の世界に復帰できた」と心から思えました。そして人脈も広がり、音楽評論家としてのデビュー作『1979年の歌謡曲』(彩流社)につながりました。
──社外活動での経験が、本業に好影響を与えたことはありますか?
スージー:確実にプラスになりましたね。広告業界は「外の空気を知っていること」が武器になります。社外で出会った人との会話やメディア出演、執筆の経験がそのまま仕事の糧になります。プレゼンでも社外で得たエピソードを交えることで、相手の興味を引き、説得力も増すことができます。こうした引き出しは、会社の中だけにいたら絶対に得られなかったものだと思います。
あとは、社外で文章を書き続けたことで「伝わる日本語」の力も磨かれたと思っています。広告業界の企画書は、例えばカタカナや体言止めが多いとか、業界内でしか通用しない独特の文体になりがちです。外で“他流試合”を重ねることで、より洗練された文章力を身に付けられたと思います。
逆に、本業で培ったスキルも社外活動に活かせましたね。特に「企画書を簡潔にまとめる力」です。広告業界的には簡易なA4用紙数枚の企画書を書くのを得意にしていたのですが、実際、簡易な体裁の中に、全体構成案や表紙デザインを織り込んだ企画書を編集者に送ったことが書籍化につながったのです。
諦めたことの中に、やりたいことのヒントがある
──音楽評論家として活動するにあたって、他との差別化で気をつけたことはありますか?
スージー:意識したのは “差別化”よりも、自分なりのスタイルを持つこと でした。渋谷陽一や小林信彦のような、書き手自身が文体でパフォーマンスしている文章に憧れていました。私も、単なる情報提供ではなく、書き手自身の存在感を表現したかったんです。
もう一つは、音楽理論をベースにした視点です。評論といえば歌詞分析が主流でしたが、私はコード進行やメロディ展開の意味を切り口に加えました。学生時代にビートルズなどを聴きながら「なぜここでこのコードを使うのか」を考えるのが好きだったので、その経験が、今のスタイルに活きています。
──やりたいことを見つけられていない人にアドバイスはありますか?
スージー: 「やりたいことは遠くから突然やってくる」と思いがちですが、多くは自分の過去に種があると思いますね。 私も、高校時代に渋谷陽一の『ロックミュージック進化論』(日本放送出版協会)を読んで以来、音楽を語ったり書いたりするのがずっと好きでした。半ばあきらめながらも手放さなかったものが、後に形になったんだと思います。
だからこそ、「あの頃やりたかったこと」「途中で諦めたこと」を思い出してみてください。熱がまだ残っているなら、もう一度火を入れ直せます。未来を探しに行く前に、自分の過去を棚卸しする。きっとそこに、やりたいことのヒントが眠っていますよ。
プロフィール
スージー鈴木
1966(昭和 41) 年、大阪府東大阪市生まれ。音楽評論家、ラジオ DJ、小説家。BAYFM『9 の音粋』月曜DJ。早稲田大学政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中より音楽評論家として活躍。2021 年、55 歳になったのを機に同社を退職。著書に『沢田研二の音楽を聴く1980-1985』『大人のブルーハーツ』『サブカルサラリーマンになろう』『〈きゅんメロ〉の法則』『中森明菜の音楽1982-1991』『幸福な退職』など多数。2025年10月28日(火)、南青山 BAROOM にて『スージー鈴木のレコード研究室Vol.27「40周年!!サザン『KAMAKURA』をちゃんと聴くナイト」』を開催予定。
X(旧Twitter)
@suziegroove
個人HP
週刊スージー鈴木(硬式サイト)
▼スージー鈴木『サブカルサラリーマンになろう 人生をよくばる108の方法』(発行:東京ニュース通信社、発売:講談社)
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▼スージー鈴木『幸福な退職―「その日」に向けた気持ちいい仕事術―』(新潮新書刊)
≫Amazon
取材・文:西谷忠和
撮影:求人ボックスジャーナル編集部
編集:求人ボックスジャーナル編集部 内藤瑠那
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