独立系書店が選ぶ「学びのきほん」──ネコゼ商店 編【学びのきほんフェア2025】
書店インタビュー
「学びのきほん」シリーズ おすすめの1冊(第2回)
刊行開始から5年で、累計70万部以上を発行している「学びのきほん」シリーズ。2025年2月現在、全国の書店とNHK出版公式サイトにて、「学びのきほん」キャンペーンを実施中です。
今回は、「学びのきほん」シリーズを応援してくださっている書店にインタビュー。お店の紹介とあわせて、「学びのきほん」からおすすめの1冊を教えていただきました。
第2弾は愛知県の豊橋市でまさにいまお店を構えようとしている「ネコゼ商店」の店主・中上さんにお話をうかがいました。
はじめは移動書店から
──リアル店舗の開業はこれからとうかがいました。
中上:そうなんです。2月28日オープン予定で、いまは移動書店という形で展開しています。
──お店をはじめたきっかけを教えてください。
中上:小さい頃からお店屋さんごっこが好きで、ずっとお店をしたいなと思っていました。やるなら雑貨屋さんか駄菓子屋さんかなと思っていたのですが、ベタですけど体調を崩した時期に読んだ本に救われたことがあって、本への恩返しができるかなと思って。調べてみたら独立系書店という個性的な本屋さんがたくさんあることを知って、やりたいことってこれだったのかなと思いました。それから会社を辞めて愛知県の豊川に引っ越して、このタイミングではじめようと決めたんです。
最初のほうは、体調を崩してすぐの復帰だったので、いきなり実店舗は考えられなくて。ウェブショップから始めて、そのあとマルシェなどにも出店するようになって、移動本屋を始めることになりました。
──そのときはご自身で持っていた古本を売っていたんですか? それとも新刊を?
中上:最初から新刊を仕入れていました。仕入れ先は子どもの文化普及協会さんや一冊取引所さんです。2023年に始めたので、もうすぐ2年になります。
──2年で一気に実店舗というのは、スピード感がありますね。
中上:自分でもいまだに信じられなくて、いろんな契約をするたびに「ほんとに実店舗を構えるのかな」と思っています。「こわ~」って感じで(笑)。
──決断できた動機はあるんですか?
中上:マルシェに出店していた時から、実店舗をやりたいと思っていたんです。それを周りに言いふらしてて。そうしたら、仲良くしている美容室の方が商店街のビルが空いたよ、と声をかけてくれて、「いくいく!」みたいな感じで(笑)。わりとノリみたいなところがあったかもしれません。
川の上の本屋さん
──お店は商店街の中にあるんですか?
中上:そうです。豊橋市に「水上ビル」っていう、川の上にビルが建っているファンキーな場所があるんですが、そこにある3階建てのビルの1、2階を借ります。大きさは、それぞれ30平米くらいだと思います。1階に本を置いて、2階では出版社さんのフェアなどができればいいなと思っています。
──取次さんとのご契約はする予定ですか?
中上:八木書店さんとの取引を考えています。
──新刊だけを置かれるイメージですか? お店には何冊くらい本を置こうと思われていますか?
中上:新刊だけで、本は1000冊くらいかなと思っています。そんなに多くは置かずにやっていこうと思っていて。
──お店のコンセプトや、こういうことがしたい、ということはありますか?
中上:いまの移動書店は夫と一緒にやっているのですが、それぞれ趣味が違いすぎるんですね。わたしは料理やファッションや現代アートが好きで、夫は演劇をやっていて、生物の教師をしていることもあって科学系のことも好きなので、「ごった煮」みたいなお店をやりたいなと思っています。それと、私がもともと雑貨屋で働いていたので、本だけではなくてちょっと個性的な雑貨も置きたいです。わたしたちの好きなものをお見せして、お客さんに買って行ってもらうお店にしたいと思っています。
──お店を始めるにあたって参考にした書店さんはありますか?
中上:関西に住んでいた頃、いちばん初めに独立系書店を知ったのが、「とほん」さんだったんです。そこが私の一番の理想です。静かで、ひとりでいても大丈夫で、落ち着けるというか、そういう空間が好きです。あとは京都の恵文社さんや名古屋のON READINGさんを参考にさせてもらっています。ON READINGさんはここから電車で1時間くらいです。
これから始めるお店は、「いつ来てもいい」と思ってもらえるような本屋にしたいです。仕事帰りにサッと来てサッと帰ってくれてもいいし、自分の気に入る本をじっくり選んでくれてもいいし。かといって、「ここが居場所だ!」みたいな感じの本屋にもしたくなくて。来たいタイミングで来てもらえるような、おばあちゃんの家みたいなお店にしたいと思っています。
「学びのきほん」とネコゼ商店
──「学びのきほん」シリーズはいつ知ってくださったんですか?
中上:会社を辞める前くらいのタイミングだったと思うのですが、そのとき土井善晴先生がすごく好きだったんです。土井先生の新刊が「学びのきほん」から出るのを知って、買わなきゃと思って本屋さんに行ったら、「学びのきほん」のコーナーがありました。料理の本だけではなく、日本語から落語や建築までいろんな種類の本があって、「なんだこのシリーズ!」と思ったんです。「ビュッフェ感覚でいろいろ手に取れる感じ」っていうか、知りたいことを少しずつつまめる感覚が面白いと思いました。それが最初の出会いです。
そのあとも『つまずきやすい日本語』や『「読む」って、どんなこと?』など、何冊か読みました。演劇をしている夫は、平田オリザさんの『ともに生きるための演劇』を読んでいました。
──「学びのきほん」シリーズのどういうところが刺さりましたか?
中上:書店に行ったらドーンとたくさん置いてあって、そこから好きな本を選べるところと、ジャンルが幅広いところです。しかも手に取ってみたら軽いし、文庫本より大きくて読みやすい。分厚くないから持ち歩けるし、会社の休み時間にちょっと読んでもいいし。あと、気軽にいろんなジャンルの基本を学べるというコンセプトも好きだなと思いました。
「本を売る覚悟」を教えてくれた1冊
──今回、シリーズの中からお勧めの1冊を選んでいただいています。高橋源一郎さんの『「読む」って、どんなこと?』ですね。
中上:これは社会人あるあるなのかもしれないのですが、退職してお店をはじめるときに本が読めなくなっていたんですね。エッセイ集とか簡単に読める本は読んでいたのですが、「本当に読めているんだろうか?」という気持ちになって読んだのが『「読む」って、どんなこと?』でした。
最初は国語の教科書を引用されていて、読み方のハウツー本だと思って手に取ったんです。でも読み進めていくと、思っていたのと違うな……という裏切り感があって(笑)。こんなにいろんな文章があるんだという気付きと、「本屋をやる覚悟があるかい?」と自分の中のもう一人の自分から問われている感じがありました。
──覚悟というのは?
中上:高橋源一郎さんが本書の中で紹介されているのは、人生を変えちゃう文章や、「え、そんなの見たくないです!」って思ってしまう劇薬みたいな文章や、自分の混乱をそのまま書いている文章で、文章って本当にいろいろあるんだなあと思って。それを自分が選んで売っていくことに若干怖さも感じたんです。これから商業的に言葉や文章を取り扱う者として、読んでよかったなと思います。
──『「読む」って、どんなこと?』は、お客様にお勧めすることもありましたか?
中上:ありました。それこそお客様もハウツー本だと思われていて(笑)。「この本ってどういう本ですか?」と訊かれたときに、読み方の意識が変わりますよ、と勧めた覚えがあります。
──この本はどういう人に読んでほしいですか?
中上:自分の考えを強く持っている人に読んでもらえたら、考えがガラガラガラって崩れる体験ができるのではと思います。あと、出てくる文章には劇薬のものもありますが、中学生くらいの方にも勧めたいなと思いました。
ネコゼ商店 https://nekoze.base.ec/
Xアカウント @nekoze_shouten
Instagramアカウント @nekoze_shouten
今回ご紹介した『NHK出版 学びのきほん 「読む」ってどんなこと?』などは、全国の書店、またNHK出版の特設ページでも展開しています。