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保身に走ったら終わりの時代に必要なのは、速すぎるAIの進化を「面白がり続ける」こと【PKSHA Technology上野山 勝也】

エンジニアtype

保身に走ったら終わりの時代に必要なのは、速すぎるAIの進化を「面白がり続ける」こと【PKSHA Technology上野山 勝也】

聴くエンジニアtype

「テクノロジー業界の未来予測」「AI時代にエンジニアはどう変わるべきか」

エンジニアtype読者であれば、そんな議論はもう耳にたこができるほど聞いてきただろう。だが、この人には改めてこのテーマをぶつけさせてもらいたい。

PKSHA Technology代表取締役の上野山 勝也さん。

東京大学で機械学習・深層学習の博士号を取得し、「未来のソフトウエアを形にする」というミッションのもとPKSHA Technologyを創業。社会課題を解決する多様なAIおよびAIエージェントを社会実装してきたAI界のパイオニアは、これからの業界を、そしてエンジニアのキャリアをどう捉えているのだろうか。

進化し続けるAIとともに歩む上野山さんの考えを聞いていこう。

PKSHA Technology
代表取締役
上野山 勝也さん(@KatsuyaUenoyama)

ボストンコンサルティンググループ、グリー・インターナショナルを経て、東京大学松尾研究室にて博士号を取得。2012年にPKSHA Technologyを創業。20年、世界経済フォーラム『ヤング・グローバル・リーダーズYGL2020』に選出

エンジニアが「設計」する対象が広がっていく

今のインターネットは、ウェブページの集合体としてパーマリンクによってつながり合うネットワークですよね。そして、大規模言語モデル(LLM)は、その膨大なウェブページ全体をうまく圧縮している存在だといえます。

入力したテキストに対して人間のように自然に返答してくれるだけでなく、今後は、エージェントのような“小さな自律的ソフトウェア”たちが動き回り、相互作用する世界がやってくるでしょう。

そう考えると、これまでの「ページとページのネットワーク」が、「エージェントとエージェントのネットワーク」へと進化していくかもしれない。少し抽象的な話ではありますが、そんな変化の兆しを感じています。

インターネットはまだ進化の入り口にあって、私たちは“データ集め”に勤しんできたにすぎないのかもしれません。人々がウェブ上にデータを次々とアップロードすることで、それらが巨大なAI、あるいは無数のエージェントへと姿を変え、動き始めた……そんなふうに見ることもできそうです。

これからは、「エンジニア」の定義そのものが大きく変わっていくと思います。

AIによるコーディングの進化には目を見張るものがあります。それを面白いと思う一方で、「中期的に見て、エンジニアのスキルやキャリアはどこに向かうのか?」という議論の盛り上がりも感じますね。

私が考えている一つの方向性は、「設計」領域での進化です。いくらAIが発展しても、設計そのものはなくならないでしょう。そして、その設計対象はソフトウェアの枠を超えて、ユーザー体験や社会全体にまで広がっていくはず。その証拠に、最近では「ソフトウェアエンジニア」ではなく「プロダクトエンジニア」と呼ぶ会社も増えている印象です。

こうした流れの中で、狭義の「ソフトウェア的アーキテクチャ」と、「ビジネスや社会構造を含めた構造体としてのアーキテクチャ」が、少しずつ交わり始めています。そして、後者のアーキテクチャの領域は、まだ完全にはAIで代替できません。社会はさまざまな会社やオブジェクトが相互作用して成り立っており、すべてをAIが予測しきることはできないはずです。

だからこそ、人間が文脈を読み取り、状況に応じて構造を組み立てていく必要がある。その部分にこそ、エンジニアとしてのアーキテクト能力が生きるのではないか……というのが私の仮説です。

もちろん、「技術を深める」領域にもまだ大きな余地が残されているとも思います。たとえば「AI時代のSREはどうなるのか」とか、「セキュリティーのあり方も大きく変わるのではないか」といった議論も活発です。技術を“広げる”だけでなく、“深める”という選択肢も同時に存在していることは間違いないでしょう。

目が回るような速さが「飽き」を退ける特効薬に

一方で、最近よく話題になるのが「若手エンジニアはどこで技術を磨けばいいのか」という問題です。

ある程度の経験を積んだ人であれば、AIを活用することでむしろエンジニアリングの面白さは広がるでしょう。しかし、これからの世代にとっては少し違うかもしれません。

デザイナーに置き換えて考えてみると、以前は自分の手でたくさんのデザインを試しながらセンスを磨き、多くのバナー広告を作り上げていました。でも今は、AIがその工程を代替しつつあります。となると、かつてのプロセスを経ることができない若手は、AIを本当に“楽しく”使いこなせるのだろうか、という課題が生まれるわけです。

とはいえ、これからの時代は「保身に走ったら終わり」だと思います。新しいことを楽しみ続けて、自分自身を拡張し続けるモードでいないと、キャリアもスキルも苦しくなる。逆に言えば、そこにこそ、エンジニアという職業の本質的な面白さがあるのではないでしょうか。そしてその根本の面白さは、昔から変わっていないように思えます。

AIの進化スピードには、目を見張るものがあります。例えるなら、これまでは好きな映画をゆっくり味わって観ていたのに、突然、3倍速で観せられるようになったような感覚です。「もう少しゆっくりした方が、みんな楽しめるんじゃないかな」と思うこともあります。正直、ここ数年で一生分くらいの経験をしたんじゃないかと感じるほどです。

ただ、その中でも私が恵まれているなと思うのは、AIのど真ん中で事業を作り続けていく環境にいることです。

一般的なスタートアップは、創業期がもっともカオスで、そこを乗り越えると徐々に安定していきます。そして上場フェーズに入る頃には、変化の幅が小さくなっていくものです。ですがAI領域の場合、規模が大きくなっても技術の進化が止まることがありません。そこが本当に面白いんです。

好奇心の強いエンジニアや起業家にとって、一番の敵は「飽き」だと思います。どれだけ「面白い」と感じ続けられるか、ということが重要です。

そういう意味では、今の環境には飽きる暇がありません。新しい技術が生まれ、それがチームの創造性と掛け合わさって、次々と新しいものが生まれていきます。

AIの進化は確かに速すぎる。でも、このスピード感の中で新しいものを作り続けられるというのは、間違いなく、今もっとも面白い挑戦の一つだと思います。

※本記事は聴くエンジニアtypeオリジナルPodcast『聴くエンジニアtype』#130、131、132、133をもとに執筆・編集しております

聞き手/河合俊典(ばんくし) 文・編集/秋元 祐香里(編集部)

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