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​【MOA美術館の「北斎 The Great Wave×Digital 2.0」】 富嶽三十六景+「10図」を現代の風景に重ねる。高精細画像で分かる彫師、摺師のすごみ

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は熱海市のMOA美術館で4月25日に開幕した「北斎 The Great Wave×Digital 2.0」展を題材に。

MOA美術館が所蔵する葛飾北斎(1760~1849年)の「冨嶽三十六景」と追加された10図、全46図が見られる。同館は定期的にこうした機会を設けているが、今回は新機軸を打ち出してきた。デジタル技術を活用し、「富嶽三十六景」の新しい見せ方を提示している。文化財の奥底に宿る制作者の意図や工夫がよく分かり、新鮮な驚きを得た。

白眉は、各図を1億5千万画素の高精細画像で見せる約7分の大画面映像。原寸は縦27×横39センチの「冨嶽三十六景」を隅々まで見渡して分かることは、彫師や摺師の超絶技巧である。摺りをいくつも重ねているだろうに、ほとんどズレがない。

例えば「神奈川沖浪裏」の波しぶきの先端の薄青、「尾州不二見原」の丸い大桶を締める「たが」の青、「東都浅艸本願寺」の瓦の青。原寸大で見たらおそらく小指の先ほどの輪郭線の内側にピタッと収めている。ベロ藍のグラデーションの美しさばかりに目が行っていたが、職人たちの技術の高さに改めて気づかされた。

「凱風快晴」では、山肌にきちんと樹木が描かれているのがはっきり分かる。現在の富士山と見比べると、かなり標高が高いところにまで木々がある。当時の森林限界は今よりずっと高地だったのだろうか。

今回展では、各作品が描いた場所を独自に撮影し、映像や画像で比較展示している。これがかなりの「労作」だ。高層ビルが富士山への道筋を阻む都心以外では、できる限り浮世絵と写真の位置や画角を合わせようとしている。版画の画面とほぼ同じ位置に富士山を置き、過去と現在を比較している。

「凱風快晴」の対比写真はわざわざ早朝に撮影したようだ。手前の水面は本栖湖だろうか。版画作品の雰囲気が今も失われていないこと、北斎は確かにこの風景を肉眼でみただろうことがよく伝わる。「駿州江尻」も秀逸。カーブした道を行くすげがさをかぶった旅人が、写真では円柱形の巨大タンクに置き換わっている。だが富士山の大きさやたたずまいは全く変わらない。霊峰の存在感が際立つ。

冨嶽三十六景とはテーマがずれるが、コレクションを見せる第3室には竹内栖鳳の優品が6点も並んでいる。右隻に夏の群鹿、左隻に跳躍する鹿一頭を描いた「夏鹿」に圧倒された。静岡市美術館で回顧展開催中の小野竹喬、年明けに静岡県立美術館で個展があった石崎光瑶の師匠である。県内で京都画壇の系譜を確認できる幸せに浸った。

(は)

<DATA>
■MOA美術館「北斎 The Great Wave×Digital 2.0」
住所:熱海市桃山町26-2
開館時間:午前9時半~午後4時半
休館日:木曜日。祝休日は開館
企画展料金(当日):一般2000円、高校・大学生1400円、中学生以下無料、障害者無料
会期:6月10日(火)まで

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