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晩夏の夜に浮かぶ鎮魂の光‐歴史と美を再発見した文化財と地域の力【福島県会津若松市】

ローカリティ!

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福島県会津若松市にある国指定重要文化財・円通三匝堂(えんつうさんそうどう・通称:会津さざえ堂)で、戊辰戦争で自刃した白虎隊士の命日に合わせたライトアップイベント「8.23 TAMASHIZUME鎮魂祭」が開催された。約230年の歴史を持つ螺旋(らせん)構造の木造建築が、幻想的な光に包まれた姿は、過去と現在をつなぐ場として来場者の心を揺さぶった。建築と祈りが交錯する空間で、文化財との新たな対話と“知ることの喜び”を深く実感した。


光が導く新たな体験

筆者はこれまで何度となくこの古刹を訪れてきたが、晩夏に行われたライトアップイベントは、これまでとはまったく異なる印象であった。螺旋状の木造建築である珍しいフォルムの美しさは、建築学的な側面からも以前から心をひかれていたが、闇の中に光で浮かび上がるその姿を再び目にした瞬間、まるで時間の渦に巻き込まれるような感覚になった。それは、当時の人々との巡り合いであり、時を超えた建築物との新たな対話の始まりだった。

「円通三匝堂の深淵」構造が語る思想

さざえ堂は、江戸時代後期に建てられた木造建築で、築年数は約230年。高さは16.5メートル、六角三層の堂内には、上りと下りが交差しない二重螺旋になっており、らせん状のスロープを歩くだけでいつの間にか入り口に戻ってきているという不思議な構造になっている。かつて堂内には西国三十三観音像が安置されていており、ここを巡るだけで西国三十三観音参りができるとされていた。

現代建築にも螺旋構造は見られる。台湾の「陶朱隠園(タオヂュインユェン)」やロシアの「Evolution Tower」などがその例だが、宗教的巡礼と一方通行の動線設計を融合させた木造建築は、さざえ堂ならではの存在だ。国指定重要文化財として保存されるこの堂は、地域の歴史と信仰を今に伝える貴重な文化資産である。

鎮魂の光「8.23 TAMASHIZUME鎮魂祭」

そんなさざえ堂を舞台に、戊辰戦争で自刃し最期を遂げた白虎隊士19名の命日に合わせ、「8.23 TAMASHIZUME鎮魂祭」が開催された。2018年の戊辰戦争150年を契機に始まったこの祭は、飯盛山で自刃した白虎隊士や戊辰戦争で亡くなった方々の霊を鎮め地域の方々に平和の大切さと元気と勇気を与える願いを込めて毎年行われている。

鎮魂祭の目玉のひとつは、さざえ堂のライトアップだ。午後8時まで続いた照明演出は、建築の構造美を際立たせるよう設計。実行委員会のひとりで、アートディレクターの佐瀬勉(さぜ・つとむ)さんは「内部からのLED照明に加え、外部からも建物の輪郭が分かるよう工夫した」と語る。赤、青、紫、緑、ピンクと色彩が変化する光が、さざえ堂を普段とは異なる空間へと変貌(へんぼう)させた。螺旋に沿って動く光の筋が堂内の木組みを浮かび上がらせ、まるで建物が呼吸しているかのような幻想的な雰囲気を醸し出した。建築・光・音の三要素が調和することで、さざえ堂は単なる建物ではなく、過去と現在が交錯する「体験の場」として昇華されたのだ。

また、白虎隊士の霊像をまつる宇賀神堂では神事も執り行われ、飯盛山で最期を遂げた白虎隊士19名をはじめ、戊辰戦争で亡くなった人々の御霊(みたま)を鎮める祈りが捧げられた。鎮魂の光に包まれた飯盛山は、先人への敬意と平和への願いを込めた静謐(せいひつ)な空間となった。

文化財との対話

会津若松には戊辰戦争の舞台のひとつである会津若松城(通称:鶴ヶ城)や美人画で名高い画家・竹久夢二が愛した東山温泉など、歴史的資源が豊富にあるが、さざえ堂はその中でも異彩を放つ存在だ。文化財とは、ただ保存されるものではなく、多くの来訪者の目に触れ、語られることで生き続けるのだと実感した。静かで控えめながら、深く心に残るさざえ堂。建築が語る思想、歴史が刻んだ信仰、そしてそれらを現代に伝える演出―すべてが、「知ることの喜び」である。

私たちは、どれほど多くの“知られざる螺旋”を見逃しているのだろうか。その答えを探す旅は、きっとこれからも続いていく。

参考資料:熊谷組の仕事ピックアップ 陶朱隠園(熊谷組)、会津若松観光ナビ(会津若松観光ビューロー)、БашняЭволюция(Академия БИМ)

昆愛

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