発信!将棋の魅力 釜石でフェス 地元出身・小山怜央四段ら、子どもたちと触れ合い
釜石市出身で、岩手県初の将棋のプロ棋士となった小山怜央四段(31)。今夏、フリークラスから順位戦C級2組への昇級を決めた。飛躍を続ける地域の星を応援しようと、市民らが棋士と交流する「将棋フェスティバル」を企画。愛棋家や子どもたちと触れ合った小山四段は「釜石に関するいいニュースの発信源になれるよう頑張りたい」と意気込みを見せた。
イベントは8日、同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。岩手日報釜石広華会(新里進会長、25会員)、岩手日報社が主催。小山四段、渡辺明九段(40)、本田小百合女流三段(46)を招き、市内外のファンら約200人が集結。憧れの棋士との指導対局やトークを楽しんだ。
トークショーは、釜石出身のフリーアナウンサー佐野よりこさんが進行役を担当。棋士3人はそれぞれの将棋にまつわる経験や印象に残る対局について語った。将棋界における人工知能(AI)の活用について、渡辺九段は「誰もが使うようになって、むちゃくちゃ大変になった。AIで研究しようと思えば終わりがない。時間がいっぱいあった5、6年前に戻りたい」と苦笑い。本田女流三段は「AIは研究には欠かせない存在」とし、小山四段も「研究すべき視点が明確になった。『これを習得できた』みたいな実感を得られる」と恩恵があることを明かした。
特に注目されたのは「どうやったら強くなれるのか」という質問。渡辺九段が「普段から『分からない』と答えている」と明かすと、本田女流三段が「それを生で聞けた」と返し、和やかな笑いを誘った。そして、「得意戦法を持つことや、詰将棋(つめしょうぎ)をやるのがいい。終盤力を鍛えるのに役立つ」とアドバイス。小山四段は「自分の体験と重なる部分が多い」と同調した。
また、将棋の普及に関して渡辺九段は「地域にある教室や指導者の存在が大きいが、それがない地域もあるので課題だと思う」と指摘。本田女流三段は「学校教育とかで取り入れてもらえると、初心者や子どもたちにも将棋の楽しさを伝わる」と伝統文化としての魅力の浸透に期待を込めた。
イベント終盤では、棋士3人が小中高生約20人と一斉に戦う「多面指しぐるぐる将棋」が行われた。紫波町から参加した小学6年生の櫻田大貴さんは「すごい人たちと指すことができて楽しかった。感想戦では褒めてもらってうれしい。こつこつ勉強を続けて強くなって、小山四段のように棋士の道を進んでいけたら」と夢を膨らませた。
将棋ファンの大人たちは、受ける棋士の手に視線が集中。地元の佐々木信孝さん(74)、鈴木守義さん(80)は「子どもたちもなかなかの腕前、強い」と“見る将”を満喫した。小山四段の活躍に注目していて、「これからも上がっていくのを期待している」と応援を続ける構えだ。
将棋フェスは、釜石が持つ文化的魅力と将棋界の発展をつなぐ意義深い催しとなった。主催者の新里会長(66)は「小山四段の存在がきっかけとなった。プロ棋士との交流で刺激を受け、将棋人口が増えれば」と願った。
小山四段 市長に昇級報告「常に、いいニュースを」
小山四段は翌9日、父・敏昭さん、母・聖子さん、日本将棋連盟釜石支部長の土橋吉孝さんとともに市役所を訪れ、小野共市長に昇級を報告。「地元の期待に応えたい」と思いを伝えた。
来年度から順位戦に挑む小山四段は「長時間の対局に耐えられる体力と集中力をつけたい。どんな戦型にも対応できるよう準備し、勝率6割を目指したい」と抱負を語った。小野市長は「諦めず夢を持ち続けて取り組めば、かなう。それを体現する怜央さんは我々のスター。徹底的に応援する」とエールを送った。
小山四段は7月の棋戦で谷川浩司十七世名人に勝利し、成績要件(30局以上指して勝率が6割5分以上)を満たして昇級を果たした。プロ入りから約1年半での達成に「思ったより早い」と振り返りながらも、「厳しい世界なので、現実を見据えながら頑張りたい」と気を引き締めた。
地元からの応援を実感している小山四段は「常に釜石のいいニュースになるよう、一つひとつ結果を残していきたい。最近は負けが込んでいるが、しっかり頑張るので安心してください」と笑顔で決意を語った。