墨田・八広・東墨田さんぽのおすすめ6スポット。「すみだの最東端」でユーモアたっぷりの凝り性さんたちが待っている!
北は足立区、東は葛飾区、南は江戸川区と隣接する、まさに「すみだの最東端」。荒川河川敷から見渡せば武骨な工業地域が目に映るけど、街を歩けばユーモアたっぷり凝り性さんたちが微笑(ほほえ)みたたえて待っている。
柔らかな花々の彩りに吸い込まれる『L’eau et le Soleil(ルイルソレイユ)』
「この青い壁にひと目惚(ぼ)れしたんです」とは、店主の山田愛さん。戦後すぐの時代に建てられた味わい深い長屋「旧邸」のかつて玄関口だったスペースで、夫・裕二さんとともに花屋を開いた。店内を埋め尽くす生花は、鮮やかながらどこか深みを含んだ色合いで、優しい印象を受ける。おまかせで花束を組んでもらえば、紺碧(こんぺき)の壁を背景によく映える。まるで絵画のようだ。心が和む。
12:00~19:00、日・祝休。
☎03-6657-2779
全身全霊の豚革愛を浴びろ!『ピッグレザー&カフェ Sai』
豚革製品の美しさに心奪われた店主の児嶋真人さん。自らのブランドを作り上げ、工房も兼ねたショップを開いた。バッグや財布を手に取れば、その柔らかさに驚き。吸い付くような馴染(なじ)みよう、ずっと触っていたくなる。また、奥にはカフェスペースも。「豚革のことをゆっくりお伝えできる場所にしたくて」と、ニッコリ。聞かせてもらいましょ、迸(ほとばし)るその愛を!
13:00~18:00、月・火・水休。
☎080-4869-9778
じんわりおいしい総菜ランチにハマる『mogumoguうさぎ』
「みんなが集まれる場所を」と、店主の青山円さん・創生さん夫婦が始めた総菜カフェ。毎日顔ぶれ変わる総菜は、持ち帰りのみならず店内でアツアツを味わえるのがうれしい。カイノミステーキ1000円に肉入り金平ごぼう300円。生姜と真タコの炊き込みご飯350円。そら豆としらすのキッシュ350円と自由な組み合わせで大人のお子さまランチ完成。アガるわ~。
8:00~20:00、日・月休。
☎なし
中華つまみが乙な味。改札至近の酒場『下町スタンドReN』
改札口の真横の酒場なんて、呑兵衛は素通りできません。「最近、瀬戸内の食材を推してて」とは、店主の實川蓮さん。まずはシロップ漬けの瀬戸内レモンサワー500円で乾杯。アテは中華つまみだ。さしみくらげ550円は、カズノコのごときプリプリ食感がクセになる。器からこぼれ出る痺辛麻婆豆腐750円の辛味もニクイ。酒がすすんでしまうよね~。
17:00~翌1:00(土・日は~24:00)、水休。
☎03-4400-8962
服に宿るストーリーに耳を傾けよう『モードの悲劇』
オーナーの北田哲朗さんとヤナ・ダーメンさんはともに服飾デザイナー。本当に服を求めている人のために作り、届けるため、住宅地の奥の古民家を改装してショップを開業した。古いボロを手直しした羽織りもの。千年前の遺物をチャームにしたネックレス。客と対話して仕上げるスウェットのセットアップなど、商品に宿るストーリーに心打たれる。納得の一着とめぐり合いたい。
14:00~19:00、火・水・木休。
☎なし
模型ってのは夢が詰まっているんだよ『ホビーショップスリーエス』
「創業時は定食屋だったんです」とは、3代目店主の清水一英さん。先代が模型と玩具、スポーツ用品の店に方向転換し、現在は模型店として営んでいる。店内には往年のガンプラやスーパーロボットといったキャラクターものはもちろん、自動車、戦闘機、建物など、なんでもござれ。童心に帰って物色。気づけばお気に入りの箱を抱えて、レジに向かっていた。
13:00~20:00、木休。
☎03-3614-3239
風情はのんびり、仕事はきっちり
界隈(かいわい)がカネボウ創業の地、というのは有名な話だ。江戸時代は湿地帯だったが明治時代に整備され、戦前は一大工業地域が広がっていた。戦後に宅地化が進むも、今でも八広や東墨田はその様相を色濃く残し、町工場が軒を連ねている。そして、このあたりで作られている工業製品が「豚革」だ。
「僕は豚革のために八広へ来たんです!」と、目を輝かせるのは『ピッグレザー&カフェ Sai』の児嶋真人さん。前職はキックボクサーだが、キャリア終盤で豚革製品の魅力に開眼。引退後に豚革について勉強したり、縫製の職人に弟子入りしたり、並々ならぬ熱意と行動力で開業した。
「八広で暮らしている人でも、意外と豚革を知らない人は多くて。気軽に触れられる場所を作れば、もっと知ってもらえると思ったんです」
その深い知識に裏打ちされた豚革秘話は止まらない。「僕、きっと日本で一番豚革のこと喋(しゃべ)れる男だと思います」。いいね、変態だ!
また、『モードの悲劇』の北田哲朗さんとヤナ・ダーメンさんは入り組んだ住宅地の奥、元遊郭の古民家を改装してショップにした。辺鄙(へんぴ)な場所を選んだ理由は、お客さんとの対話を重視しているからだ。
「一人ひとり、体格も性格も違うものですから」とは、ヤナさん。「誰が作った服で、どんなストーリーがあって。それも含めて愛着を持ってくれる人に手に取ってもらいたいんです」。
確かに、客としてもせっかく身に着けるものなら、自分に合うものを選びたい。そのために作り手と懇々と話をできるなんて、なんて贅沢(ぜいたく)だろう。
過渡期の街で芽吹く人の輪
ところ変わって鐘ケ淵駅。八広方面へ向かう鐘ヶ淵通りは、現在拡張工事中だ。「数年前から、一気に始まったんだ」と、『ホビーショップ スリーエフ』の清水一英さん。工事が始まる以前の写真を見せてもらうと、道を挟んで商店が軒を連ねている。
ごっそり店舗がなくなったことを憂いたのは、青山創生さん・円さん夫婦。もともとは創生さんの母・晰子さんが営む「うさぎ薬局」だったが、友人知人の力を借りて『mogumoguうさぎ』に改装。2階で民泊も営んでいる。
「海外の方がよく利用してくれます。1階で朝食を食べながら、常連さんと談笑していますよ」
旅行者に「東京のマザーと呼んでね」と手厚くもてなしている円さん。その気風(きっぷ)の良さに惹(ひ)かれる民泊リピーターもいるそうだ。うーん、微笑ましい。
「僕は隣の立石が地元なんですけど、鐘ヶ淵は雰囲気が違いますね」とは、『下町スタンドReN』の實川蓮さん。当初は立石で開業する予定だったが、巡り合わせの妙で鐘ヶ淵で店を開いた。
「一人暮らしを始めた学生とか、単身赴任者とかが、結構いて。いわゆる飲み屋初心者の人たちも多いような気がします。できるだけ気軽に入れて、そこで知り合った人たちとワイワイ楽しめる店にしていきたいんです」
気の置けない仲間との寄合所。街には必要なんだよね。
決してにぎやかな街ではないけれど、来るもの拒まぬ壁のなさに救われる。でも、よーく話を聞いてみると、アツい気持ちも見え隠れ。墨田のサイハテは、知れば知るほど味わい深い。
取材・文=どてらい堂 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2025年8月号より
どてらい堂
熱血物書き
インタビュー記事を得意とするが、街頭調査やルポルタージュなど、体当たりな企画はより嬉々として勤しむ1984年生まれのB型男。主に『散歩の達人』で執筆。漫画・アニメ・格闘技オタクで、少年漫画脳な気質が文章にちらほら。たこ焼きの腕だけはプロ以上。