静電気で雑草を抑制する装置~静電気のチカラってすごいかも!
このところ、一気に気温も下がって、空気も乾燥してきました。この季節になると現れるのが、静電気。洋服がまとわりついたり、手にバチっときたりイヤなものです。
しかし、その嫌われ者の静電気を使った、世界初の雑草の抑制装置が開発されたんです。
二枚の網の隙間に人工的にアーク放電を起こす!
クズのような、つる系の雑草を主なターゲットとした抑制装置なのですが、開発者の株式会社トワロントレーディングの梶村典彦さんにどんな装置なのか伺いました。
株式会社トワロントレーディング 梶村典彦さん
「装置は、二枚の網を用いてるという単純な形なんですけれども、一枚には電気を帯電させる、一枚はアースにつないでいるっていう網を、パネルに一つにまとめてます。で、草がそのパネルの間に入ってくると、そこに電気の回路が出来ようとするという形になって、アーク放電が発生して、先端だけを枯らすというそういう装置になります。
要は溜まった電気を放電するっていうのが静電気の仕組みですよね。例えば、ドアノブに手を近づけた時にパチってなると思います。それは電気を発生してるわけではないんですけど、人間が持っている電気とドアノブに溜まってる電気が一気に流れる時に、パチッと火花が散るような形で放電されますけれども、それを人工的に網の間に作り上げているということですね。
植物は水気を帯びてますんで、水気が帯びた所だけに電気が流れるということになりますから、枯れたらもう電気は流れない、これの繰り返しなんですね。」
<黒い枠の金網が今回の装置「WCP」 写真は実験時のもの (写真の提供はすべて株式会社トワロントレーディング)>
静電気で植物の先端だけを枯らす、という装置。「WCP(Weed Control Panel )」と言います。
細かい六角形が並んでいるような金網を二枚一組でパネルにしています。二枚の金網の一枚に電気を帯電させ、一枚はアースのような役目にして、この二枚をくっつけず、隙間を開けて一組にしています。(電源は市販のソーラー式電牧器)
そして、その二枚の金網の隙間に植物が入ってくると、アーク放電が起きて、バチっと!火花で枯らす、というものなんです。人間がドアノブを触ろうとしてバチっとなるのと同じような感じです。(アーク放電とは静電気でバチっと来るのと”同じような仕組みの放電現象。)
<WCPの仕組み>
自分の敷地は生やしておきたいけど、臨家には入れてはマズイ!
この装置は、高速道路や鉄道、携帯の基地局、高圧鉄塔など、公共のインフラの周りを囲うフェンスを持つ事業者の要望を受けて開発されたのですが、雑草の先端だけを枯らす、というところが、実は大きなポイントなんです。再び、梶村さんのお話です。
株式会社トワロントレーディング 梶村典彦さん
「もともと私たちが研究を始めたきっかけというのが、そも土地の管理者様たちが、7月~10月にかけて苦情の電話が鳴りやまないと。それはフェンスの上に登ってきたつる系の雑草、そういった物が繁茂して隣地に入っていくっていうことなんですね。そこで雑草の刈り取りをしてくださいという連絡がひっきりなしにやってくるっていうのが問題になってますね。
ただ、最近、ゲリラ豪雨とか多いですけれども、土が流されるとか、いうものは、やっぱり植物の根っこっていうのはすごく大事になります。だから、登って越えなければ自分の敷地の中は生やしておきたいですけども、人んちには入れてはマズイと。
だから、今までは農薬で枯らす、もしくは防草シートで地面ごと止めるっていうことをやってましたけれども、そうすると地盤が弱くなるんでやりたくない、ということで、地面の根っこはそのまま残してあげようと、先端だけを枯らすというそういう装置になってるんですね。」
自分の敷地は生やしたいけど、隣には行ってほしくないんです。確かに、高速道路や鉄道ののり面は、緑です。あれらも土砂崩れなどが起きにくくするために生やしていて、植物の根の力は重要。しかし、クズは一晩で40センチも伸びる成長の早い植物。これを取り除くのは本当に大変なのです。
<こちらが「WCP」の効果! 手前の未装着部分は、フェンスがクズですっかり覆われています>
<フェンスの下までは雑草が生えていますが、フェンスには登って来ていません!>
動物に対しても静電気は効果あり!?
実は、この装置を作るヒントをくれた人がいます。それが、静電気を研究して25年。近畿大学農学部の松田克礼教授。松田先生は、この雑草抑制の他にも、静電気で害虫を捕まえたり、追い払ったりする装置も開発しています。
そこで、クマの被害が増えているので、植物、昆虫がいけるなら、動物はどうですか?と松田先生に聞いてみました。
近畿大学農学部農業生産科学科 教授 松田克礼さん
「もともと昔から使われているイノシシ除けとかの電気柵、それはイノシシが歩いて来て、空中に線が引いてあるんですけども、その線に鼻が近づくとバチっと鼻に電気が来るんで、嫌がって逃げていくんですね。そういう装置は昔から作られてます。
ほんで、それを僕らは線を網に変えて雑草に応用してるんですね。ですから、その網そのものがバチっと来るんで、動物がその網に近づいてきたら、パチッと食らうんで逃げていく、その可能性はあると思います。線より網の方が良さそうじゃないですか。誰かがね、そういうクマの生態に詳しい人とかが仲間になってもらって、そしてこういう現象がありますよと、色々話していったら、何か新しい概念が生まれるかもわからないですね。」
クマ対策にも効果がある可能性がありそうです。梶村さんも松田先生も、いま被害が広がっているクマについて、自分たちの技術や研究が、クマ除けに活かせないか、周りの人たちや電気柵の会社の人とも話しているとおっしゃっていました。
静電気は自然の力、だからこその可能性があるんです!
そして、最後に松田先生に、静電気の可能性についてお話を伺いました。
近畿大学農学部農業生産科学科 教授 松田克礼さん
「みなさん嫌がるんですけど、静電気は。すごく理屈がシンプルなんで、形も色々変えれるんで色々応用できると思います。静電気には二つ力がありまして、バチっと叩く放電と静電気で引っ付けるかだけなんで、それをどういう形のモノを作って、どういう風に利用するかということだと思います。
もう一つ良いのは静電気って、誰かがどこかで作ってるわけじゃないですよね。地球の中にあるんですよ、いくらでも無限にあるんですね、この電荷というの。それ引っ張り上げて来て使うだけなんで、ほんでまた地球に戻してますんで、環境には優しい、タダで使えるし、誰かに「使うで」と言うて許可もらう必要もないんで、便利やなと思ってやってます。」
自然にあるものだから、コストも安く使いやすいし、自然の力だからこそ、人間も静電気のパチっには慣れないように、動物もやはり慣れないのではないか、とも話していました。
非常に身近で、なんとなく嫌がられている静電気ですが、その可能性は大!ぜひ活躍を期待したいですね。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)