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「誰が見ても楽しめる作品」をつくりたい。札幌で20年以上活動し続ける劇団、“弦巻楽団”の想いとは

Sitakke

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札幌を拠点に20年以上活動する劇団、“弦巻楽団”をご存知ですか?

今回の記事では、「札幌の演劇文化」をもっと知りたい!多くの人に伝えたい!そんな想いで活動する「HBC演劇エンタメ研究会(通称“エンケン”)」会長、堰八紗也佳アナウンサーと、Sitakke編集部YASU子が、劇団の稽古場を取材しました。
劇団代表であり、俳優のみならず脚本家、演出家、講師など幅広く活動する弦巻啓太さんに劇団のこれまでや11月に控えた公演にかける思いについて、お話を伺います。

左から、堰八紗也佳アナ、Sitakke編集部YASU子、弦巻啓太さん

「誰が見ても楽しめる作品」を目指して。

堰八アナ: 本日はよろしくお願いします。弦巻さんは現在48歳ということですけど、いつごろから演劇をスタートされたのでしょうか?

弦巻さん: 中学生の学芸会で、自分で台本を書き、演出をして、みんなで作品を作ったのが初めての演劇経験でした。高校からは演劇部に入って、本格的に創作活動に明け暮れていましたから、もう30年以上になります。

堰八アナ: 高校卒業してからは演劇一本ですか?

弦巻さん:大学に通ってたんですけれどしっくり来なくて、4年かけて挫折して、中退してます(笑)。一方で演劇は何人かの仲間で立ち上げた劇団(「ヒステリック・エンド」)に所属して本格的にやっていたので、その道で生きると決めていました。

堰八アナ:早くから劇団として活動されていたんですね。

弦巻さん:僕はもともと「劇団を作りたい」っていうよりも、「自分の作品」を作りたいっていう意識がすごく強かったんですよね。劇団を立ち上げる人って、一度は先輩たちの劇団で勉強して、仲間を集めて結成するケースが多いですけど、僕の場合は高校を出てからすぐに仲間内で(ヒステリック・エンドを)立ち上げちゃったんですよ。弦巻楽団は、そこを抜けて一度フリーで活動してから2006年に「本当に自分がやりたい演劇をやろう」と正式に活動をスタートしているので、早いようでいて遠回りしています。

堰八アナ: 理想とする演劇人がいらっしゃったんですか?

弦巻さん:80年代から90年代にかけて人気のあった多くの作品が話題となった鴻上尚史さんの「第三舞台」っていう劇団がとにかく好きで、中高生の時にあんなお芝居を作りたいってずっと思っていました。映画やドラマも好きで、高校生の時に見たジョン・カサヴェテス監督の作品や、野沢尚さんという脚本家さんのテレビドラマに影響を受けたところもあります。演劇はその舞台でしか生めない魅力がありますが、映画っていうのははじめから物語が完成されている、演劇でいうところのウェルメイド(※)な表現なんですよね。その魅力というのも大いに感じていました。

(※)ウェルメイド…できの良い、構成のしっかりしたという意味。巧みな脚本、構成で、ストーリーの構築が論理的にもしっかりとしていることを表す

堰八アナ: 今までの上演作品も見ましたが、ジャンルも幅広いですよね。

弦巻さん: はい、それがうちの劇団の弱いところで…(笑)。「この劇団はこうだ」って言い切れないんですよね。芸術性が高くて見た後にいつもモヤモヤしてしまうとか、エンタメに振り切っているとか、特色があるとお客さんにもアピールしやすいんですけど。
なんて言うか、僕は欲張りだから誰もが楽しめるエンタメとして作品を作りたいっていう思いと、演劇にしかできないこと、演劇の本質的な部分どちらもきちんと持っていたいんですよね。そんな模索から、ちょっと実験的な作品に挑むこともあります。幸い、賞を貰ったりもしているので、一定の評価は頂いているのかなとは思いますが。

2021年11月公演『死にたいヤツら』

堰八アナ:本当にたくさんの賞を受賞されています。

弦巻さん:理想は、どのジャンルでも一番すごいって言われること。でも必ず大切にしているのは「誰が見ても楽しめる作品」それに尽きます。

堰八アナ:だからこそ、初めての演劇にもオススメという声も多いみたいですね。

弦巻さん:言われることは多いですね。けど…なんて言うんでしょう、多分皆さんがイメージしてる演劇とはちょっと違うと自覚しています。現実を模倣した舞台やセットがあって、その中でてんやわんやが起きたり、ギスギスしたドラマが起きたりとかを想像して来ると、「あれ…ちょっと雰囲気が違うぞ」みたいな。でも、そこが弦巻楽団の魅力だと思います。

札幌で、札幌でしかできない演劇をつくりたい。

堰八アナ: 弦巻さんは札幌ご出身ということですが、東京への進出は考えないんですか?

弦巻さん: 考えないですね。若い時の考えが今もずーっとあるんですけれど、自分一人だけで東京には行きたくなかった。僕は高校を出てからみんなで劇団を立ち上げていたので、行くときはみんなで行こうってずっと思ってたんです。人気が出て、劇団の公演先のひとつとして、東京に呼ばれるようになればいいやって。それに、僕は札幌で、札幌でしかできない、ローカル性を含んだ演劇を作りたいんですよね。

堰八アナ:札幌のローカル性って何だと思いますか?

弦巻さん: 言葉で説明するのが難しいんですけれど、人間性です。北海道人らしさ、札幌人らしさです。あからさまな北海道弁を喋るとか、「ゴミ投げて」みたいな北海道弁のセリフが入るというつくり方じゃなくて、生き方とか登場人物同士の関係にローカル性が現れるような作品づくりをしていきたいと思っています。

堰八アナ:弦巻楽団は今や全国や韓国でも活動をされています

弦巻さん:ありがたいことに。今後はローカル性を生かしつつも、全国的に流通する作品を作ることが目標ですね。「流通する」って表現にしたのは、作品を上演して面白いって言ってもらえるだけじゃなく、全国の劇団に「私たちもやってみたい」って思わせたいんです。

堰八アナ:演技指導や脚本、戯曲講座など後身の育成にも力を注いでいますよね

弦巻さん:札幌で広めていきたいのは翻訳劇です。弦巻楽団では演技講座を開きながら、その成果発表という形で年1回ほどシェイクスピアを上演してきました。札幌でこういう伝統的な翻訳劇の面白さに毎年トライしてるのってウチだけだと思っています。その魅力が分かるからこそ、もっともっと広げていきたいんです。今よりもハイペースで。

堰八アナ:ハイペースで、ですか

弦巻さん:現在の年1回のペースで続けると、彼の残した約40作を全てをやり終える頃には、僕はもう80歳近くなっているんですよね。せっかくやるなら全部やり終えたい。だから、これからはハイペースでやれるようにメンバーを育てていかなきゃいけません。

最新作は、亡き師匠から託された作品。

堰八アナ: 11月21日から24日、最新作「ファーンズワース・インヴェンション」を上演されますね。

弦巻さん:フィロ・ファーンズワースという世界初の完全電子式テレビを発明した人物の話です。幼少期から発明に目覚めて、天才的な頭脳で誰もがたどり着けなかったところを突破する。でも、大企業にその特許を奪われそうになり…という、実際にあった話をベースにしています。この作品はアーロン・ソーキンというアメリカの映画脚本家の大家が書いた脚本ですが、日本ではまだ未上演だった戯曲で、今回が国内初上演なんです。

堰八アナ:初上演だったんですか!

弦巻さん:2017年に亡くなってしまった青井陽治さんという僕の師匠ともいえる翻訳家・演出家の方が訳してくれて、僕に「面白かったら、いつかやってみて」と託してくれた作品です。台本を読んだ時、絶対に上演したいとは思ったんですが、とても難しいタイプの演劇で、当時は札幌にはこれできる役者はいないなって感じました。劇団の皆がもっと大人にならないと出せない、理解できない感覚がある台本だなと。それで7年間ずっと温めていました。今は充分に役者が揃ったと思っています。

「ファーンズワース・インヴェンション」稽古場の風景

堰八アナ:青井さんが天国から舞台を見ていたら、何とおっしゃると思いますか?

弦巻さん:うーん、ニコニコしながら、細かいダメ出しをしてくれるかな(笑)

堰八アナ:そこはダメ出しなんですね(笑)

奪うか、奪われるかのぶつかり合いに注目。

堰八アナ:見どころについても…ネタバレしない範囲で教えてください

弦巻さん:性別を限定した言い方は今の時代に良くないとは思うんですけど、簡単に説明するなら「男同士のぶつかり合いのドラマ」です。舞台が約100年前のアメリカの男性社会、仕事への欲望とプライドが個人のアイデンティティーに直結した、奪うか、奪われるかの世界。自分が名を成さないとゼロになってしまう世界で生きる人間たちのぶつかり合いに注目して欲しいですね。日本のドラマで例えるなら「半沢直樹」に近いでしょうか。

堰八アナ:アーロン・ソーキンは映画「ソーシャル・ネットワーク(※1)」の脚本でも有名な方ですよね

弦巻さん:僕らの世代では、彼の映画脚本デビュー作でもある「ア・フュー・グッドメン(※2)」が有名です。僕も高校1年生の時に見て影響を受けた作品の1つで、その人の脚本にこうやって取り組めるのは嬉しいなって。どちらの作品もアメリカが舞台の法廷劇で、先述の通り仕事に全てのアイデンティティーがある人たちの話なんです。その感覚が日本人にはなかなか掴みにくい。

(※1)「ソーシャル・ネットワーク」…2010年のアメリカ映画。デヴィット・フィンチャー監督作品。マーク・ザッカーバーグを主人公に「Facebook」の設立とその後の訴訟を描いている。(※2)「ア・フュー・グッドメン」…1992年のアメリカ映画。アーロン・ソーキンによる同名の舞台が原作。トム・クルーズ、ジャック・ニコルソン、デミ・ムーアが出演。米軍の軍法会議を舞台にした法廷サスペンス。

堰八アナ:確かに…

弦巻さん:日本だと仕事で負けても「でも家庭が一番大事だよね、めでたしめでたし」ってなりますけど、アメリカの実力社会ではそうはならないんです。少しでも奪われたら全てを失ってしまう、命がけの戦い。舞台をつくる上で、俳優たちとその認識を共有しなきゃいけなかった点が苦労しました。

堰八アナ:役者の方々も魅力的ですよね

弦巻さん:僕の劇団でも、他の劇団でも主役を張っているほど実力のある役者たちが何人も出てくれています。みんな僕と10年ぐらい、長い人では15年ぐらい一緒にやってきて、翻訳劇へのアプローチや演技に求める点を一緒に積み上げて、言わば共通言語を持っている仲間たちです。彼、彼女たちの演技にもぜひ注目して欲しいですね。

堰八アナ:「男同士のぶつかり合い」ということですけど、Sitakkeのメインの読者である女性の方にメッセージをお伝えするとしたら?

弦巻さん:ストーリー上は男同士の戦いだけれども、そこで描かれている構図は女性の方にも起こりうると思います。それは、自分のアイデンティティーが一瞬にして奪われてしまうかもしれないというリアリティや切迫感です。現代の女性は、男性よりも、家庭や仕事といった「より所」を無くして、闘っている人が多い気がします。仕事に全てをかけるか、家庭に全てをかけるか。
この作品における「テレビ開発」は、子育て経験のある専業主婦の女性の立場から見ると「子供」になるのかもしれません。
例えば、必死に子供を育ててきたのに、離婚しなければならなくなった時、一方的に子供を奪われてしまうケースのような…。
そういう意味で、年齢性別問わず共感し、楽しめるような作品に仕上がっていると自負しています。

堰八アナ:どんな舞台になるのか、ますます楽しみになりました!弦巻さん、本日はありがとうございました!

舞台「ファーンズワース・インヴェンション」

・公演日時:
11月21日(木)14:00/19:00
11月22日(金)14:00/19:00
11月23日(土)14:00/19:00
11月24日(日)14:00    
※全7ステージ。※開場は開演の30分前。
※上演時間は約120分を予定。

・会場:生活支援型文化施設コンカリーニョ
・住所:北海道札幌市西区八軒1条西1丁目2-10 ザ・タワープレイス1F

・チケット料金(税込)
予約・前売券 一般:4,000円 U-25:2,500円 高校生以下:1,000円 ペアチケット:6,000円
当日券 一般:4,500円 U-25:3,000円 高校生以下:1,500円

・公式HP:https://40farnsworth.tsurumaki-gakudan.com/

〈弦巻楽団〉
2003年、脚本家・演出家の弦巻啓太が「様々な演劇人とのコラボレーションの場」として、北海道札幌市に設立。
ウェルメイド・コメディを中心に、社会問題を描く会話劇、人生の逃れられない切なさをテーマにした作品、さらには宇宙を冒険するSFまで、幅広いジャンルの作品を上演しています。わかりやすい語り口と深い洞察を兼ね備えた「物語」によって、札幌の演劇界で確固たる支持を得ている。

***
文・写真:太野垣陽介(シーズ)
編集:Sitakke編集部YASU子

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