インボイス制度が業務DXの妨げに 運用見直しを4社が提言、制度と実務の隔たり解消を目指す
経費精算に関するクラウドサービスを提供する4社は8月8日、インボイス制度の運用見直しに向けた提言を発表した。現行制度のもとでは、デジタル化による業務効率化が後退する懸念があり、経費精算にかかわる業務負荷や人的コストの増加が課題となっている。
経費MIRAI協議会が制度運用見直しを提言
任意団体「経費MIRAI協議会」は、経費精算システム「HRMOS経費」を提供するビズリーチ(東京都渋谷区)、コンカー(東京都千代田区)、マネーフォワード(東京都港区)、ラクス(東京都渋谷区)と共に設立した。
同協議会は今回の提言において、インボイス制度が掲げる「公正な課税の実現」という理念を尊重しつつも、電子帳簿保存法の要件緩和により進んできた経費精算業務の効率化が損なわれないよう、制度の運用を見直すべきと主張している。企業の実務に即した柔軟な制度設計を求めている。
提言の要点は以下の2点である。
・会社決済型クレジットカード(法人カード)による旅費等の支払いも、「出張旅費等特例」の対象に含めること。
・従業員による一部経費の立替精算について、消費税法上の仕入税額控除をする場合には、一定条件のもとでインボイスの受領・添付を不要とすること。(※インボイスを受領した場合は、法定期間の保存が必要)
インボイス制度による経費精算業務の課題
同協議会は提言の背景として、インボイス制度が経費精算業務に与える以下のような影響を挙げている。
・経費精算の業務負荷が増加インボイス制度では、経費精算において領収書の受領・保存が必須となった。これにより、申請・処理フローが煩雑化し、担当者の作業負担が増している。
・キャッシュレス決済の効率的運用が困難に従来は、3万円未満のキャッシュレス決済データについては、会計システムと自動連携され、改ざん不可であることを前提に領収書なしでの経費計上が可能であった。インボイス制度導入により、領収書を省略する運用が難しくなり、すでに効率化を実現していた企業や、これから導入を予定していた企業でのキャッシュレス経費運用が阻害されている。
・経理実務の複雑化出張旅費等特例は、従業員が個人のクレジットカードや現金で立替払いをした場合に適用される。一方で会社決済型クレジットカードでの支払いは、企業口座からの直接引き落としとなるため、同特例が適用されず、領収書の受領・保存が必要になる。この差異により、会社での運用管理が煩雑になっている。
なお、同提言は「令和7年度税制改正の大綱」や国税庁の税務行政DXの方針とも整合している。
制度と現場をつなぐ橋渡し役としての期待
今回の提言に対し、業界団体からも制度と現場の隔たりに対する問題意識と、制度見直しへの期待の声が上がっている。
公益社団法人経済同友会
「インボイス制度が結果として業務の非効率化や生産性の低下を招いている点は看過できない。制度の趣旨を尊重しつつも、現場の実態を踏まえた制度設計への見直しが必要であり、持続可能な経済社会の基盤として、誰もが納得できる公正かつ実効性の高い制度とするため、今後の改革に期待する。」
一般社団法人日本CFO協会
「キャッシュレス決済を活用した効率的な経費精算プロセスの普及は、日本企業の業務DXや働き方改革の推進、人手不足解消に資するものであり、企業の競争力強化に大きく寄与するものと期待される。今後も関連団体と連携し、税務・会計実務の合理化と企業経営基盤の強化に向けた議論を支援していく。」
同協議会は今後も、関係省庁や業界団体との対話を重ね、制度と現場の橋渡し役として、経費精算領域における業務DXの推進をはかるとしている。
提言の詳細は、同協議会が発表した公式プレスリリース(PRTIMES)で確認できる。