不穏で、そして切ない作品世界に浸る――TVアニメ『光が死んだ夏』展レポート
2025年11月14日(金)から2025年12月7日(日)まで、サンシャインシティ(東京・池袋)のサンシャイン60展望台 てんぼうパークにて、TVアニメ『光が死んだ夏』展が開催中だ。
新進気鋭の作家・モクモクれんが描く漫画『光が死んだ夏』(KADOKAWA 刊)は、主人公である佳紀(よしき)と、親友だが、中身が別の〝ナニカ〟に入れ替わってしまった光(ひかる)とのホラーストーリー。シリーズ累計発行部数400万部を突破しており、『このマンガがすごい! 2023』(宝島社)オトコ編第1位に輝く話題作である。
TVアニメ化にあたり、監督・シリーズ構成を務めるのは『夜のクラゲは泳げない』の竹下良平。そのほか、キャラクターデザイン・総作画監督は高橋裕一、ドロドロアニメーターを平岡政展、アニメーション制作をCygamesPicturesが手掛け、TVアニメ第1期が2025年7月から9月にかけて放送。第2期の制作も決定している、人気の作品だ。本展はTVアニメ放送を記念する、作品初の展覧会である。
細部までリアルな展示!作品世界に入り込める内容
会場は雰囲気の異なる複数のエリアで構成されており、不穏な空気を漂わせる「丹波山」を通過すると、山久商店を再現したエリア「山久」が登場する。そして佳紀と光が通う高校の「教室」、「光の家」「希望々山」「佳紀の部屋」「図書館」「海」と続く。
山久商店の店頭に並ぶ本や自動販売機、学校の机や椅子やロッカー、佳紀たちの家の内部などは細部に至るまで作り込まれており、非常にリアルなので、作品の世界に迷い込んだ気持ちになる。
会場に流れる映像はアニメへの没入を誘う。中でも「教室」で鑑賞できる体感型の映像は恐ろしいが美しく、まるで自分が佳紀になって〝ナニカ〟に浸食されているような感覚を味わえる。
TVアニメでは効果的に音が使われているが、本展でも蝉の音やTVアニメに登場した曲が流れており、作中の夏の空気や湿度が伝わってくる気がした。またTVアニメは色彩が際立っており、青春をイメージさせる青、生命力あふれる緑、危険や恐怖を連想させる赤、光の白と闇の黒などが感情を揺さぶる。本展もその叙情的な魅力が生かされており、空間を満たす色が印象的だ。
展示パネルの言葉は、作品を象徴するものが選び抜かれている。佳紀が発言した時の感情や、それを受け止める光の気持ちになどに思いが及び、気がつけば不穏で切ない世界にどっぷりと浸っていた。
作品をより深く知ることができる複製原画や資料も豊富に展示
本展はTVアニメの貴重な複製原画が多数紹介されており、登場人物の表情やちょっとした仕草などを静止画でじっくり確認できる。展覧会開催記念の贅沢なイラストなどを鑑賞できるのもうれしい。
ここでしか見ることのできない設定資料や監督らのコメントなども豊富。佳紀と光の関係性は繊細で複雑なので、細かい設定を再確認し、何を考えて行動しているか、このシーンではどんな気持ちだったのか、などと想像が膨らんだ。
フォトスポットや体験型のギミックも! 楽しめる要素が盛りだくさん
展覧会ならではのコンテンツも多く、フォトスポットには山下商店のほか、「希望ヶ丘」で野良猫のメンチ兄貴とのツーショットが撮れる楽しいスポット(メンチ兄貴を優しくなでることも……!)、「海」でオオサンショウウオと一緒に撮影できるスポットなど、作中の印象的な場面や、クスッと笑ってしまうような部分が採用されている。まるで登場人物になったような一枚を撮影できるだろう。
その他、光の(体の)中に手を入れて感触を確かめられる仕掛けや、花火の刺さった巨大パフェが人気のファミリーレストラン「あめりか」でフラッシュを使って撮影すると何かがあらわれるギミックなど、展示体験がより楽しくなる要素も盛りだくさん。会場には作中に登場したアイテムも散りばめられているので、是非見逃さずにチェックいただきたい。
恐ろしくも美しい作品世界にどっぷりと浸り、アニメ制作の裏側をのぞくことことや、楽しい仕掛けで盛り上がることができるTVアニメ『光が死んだ夏』展は、2025年12月7日(日)まで、サンシャインシティ(東京・池袋)のサンシャイン60展望台 てんぼうパークにて開催中。
(C)モクモクれん/KADOKAWA・「光が死んだ夏」製作委員会
文・写真=中野昭子