【昭和の春うた】中山美穂「色・ホワイトブレンド」竹内まりやが作った資生堂春のCMソング
リレー連載【昭和・平成の春うた】VOL.13
色・ホワイトブレンド / 中山美穂
▶︎ 作詞:竹内まりや
▶︎ 作曲:竹内まりや
▶︎ 編曲:清水信之
▶ 発売:1986年2月5日
中山美穂4枚目のシングル「色・ホワイトブレンド」
アイドルのイメージチェンジは非常に難しい。定着していたキャラへの未練もある。人によっては、拒否感すら出るかもしれない。しかし逆も然り。驚くほどの華麗な変身もある。まるで、蕾が開き、大輪の花が咲く、その瞬間に立ち会った感動を覚えるような――。
私にとって、中山美穂4枚目のシングル「色・ホワイトブレンド」はまさにそうだった。この曲を聞くまで、私の中で彼女は “のどか” であった。まずは、遥か昔、私の中学校卒業シーズンに起きた、とある現象をお話ししたい。
当時(1985年)バインダー式のサイン帳が流行っていて、女子たちはもれなく1枚1枚外してクラスメートに配り、卒業記念にプロフィールやメッセージなどを書いてもらっていたのである。私もその流れに乗り、全クラスメートに配った。すると男子たちの多くが、頼みもしないのに、プロフィールに “好みのタイプ” という欄を作り “のどか” と書いてきたのだ。この “のどか” こそ、この年の1月から放送されていた大人気ドラマ『毎度おさわがせします』で、中山美穂が演じた役名だった。
このドラマは思春期の性をテーマにしたドタバタコメディ。彼女は当時まだ14歳だったが、下ネタ満載のセリフ、刺激的なシーンを堂々と演じていた。気が強そうな、猫のように美しい顔立ちは魅力的で、10代の男子ならほとんどがトリコになったのもわかる。
一気に人気者になったが、強烈なデビュー作は尾を引く。次の主演ドラマが『夏・体験物語』。12月には『毎度おさわがせしますⅡ』がスタート。おかげで、Hとかヤンチャとかが似合う印象がガッチリついてしまった。デビュー時、彼女は “早熟・生意気” を具現化したようなアイドルだったのだ。
資生堂のCMで主題歌&モデルを務める
ただ、不思議とその時から下品な印象はなかった。どんな下ネタを言っても、浮かれてはいない。ノーブルな重さ、暗さがあったのだ。その気品は、彼女の歌手活動にしっかり反映されていた。デビュー曲の「C」から「生意気」「BE-BOP-HIGHSCHOOL」と名曲が続く。特に「C」と「生意気」は、ドラマで彼女に課せられた “性の目覚め” 的キャラクターを、1つの単語で匂わせるタイトルである。
ここで “のどか” ファンを満足させつつ、歌詞とメロディは繊細かつ文学的で、老若男女が共感できるような隙のない美しさであった。なるほど、制作陣を見れば松本隆&筒美京平!職人技に唸る。だから、“のどか" キャラは受け付けなかったが、歌手・中山美穂は楽しみだった。4枚目、どう来るか。すると、期待を軽く超えてきた楽曲が来た。それが1986年2月リリース、竹内まりや作詞作曲の「色・ホワイトブレンド」である。
資生堂春のキャンペーンCMでこの曲を聴いた時はビックリした。これまでとはどこか違う、やわらかな歌声。CMソングだけでなく、出演モデルも務めた彼女は、姿も声も、びっくりするほどレディであった。日焼けのイメージがあったので、“白美穂" は想定外。あのCMの彼女は、大げさでなく発光していた。少女マンガの主人公のように目に星がきらめき、背景に、花が咲き乱れるのが錯覚で見えるほどだった。
ちなみに、「色・ホワイトブレンド」と同時期、資生堂のライバルであるカネボウのCMソングは、岡田有希子が歌う「くちびるNetwork」。モデルは沢口靖子であった。クッ、こちらも強い! おこずかいをためて、「♪White Spring 春の陽ざしに」「♪ねえ…誘ってあげる」と2曲を口ずさみながら、資生堂とカネボウの売り場をハシゴした人も多いだろう。
中山美穂と竹内まりやの不思議な関係
この「色・ホワイトブレンド」というタイトルは、CMのキャッチコピーも兼ねていた。資生堂のリップ『インテグレート』の新色が、白っぽい発色だったのだ。なるほど “ホワイトブレンド” ――読んで字のごとしである。しかし、さすが竹内まりや。このタイトルから、失恋から立ち直る少女のストーリーを見事作り上げているのである。“White” を枕に、ワインや日記など日常を彩るモノや出来事を2つ並べ、それをブレンドさせて1つの現象を導き出す方程式が組み込まれ、まさに匠の技である。
私のお気に入りは「♪White dress」(おめかし)と「♪Whit shits」(まぶしい彼)のブレンドで、突然のくちづけとなるくだり。エモーショナルの極みではないか。すべての単語の頭に “White" がついているのがまた、新しい自分になる “良い風向き” を感じさせる。こうして春、様々な行動と輝きをブレンドさせることにより、少女の前には “新たな恋” が現れるのだ。
遡れば、竹内まりやも1980年に、資生堂・春のキャンペーンソングを歌っている。それが、彼女の初ヒットとなった「不思議なピーチパイ」(作詞:安井かずみ、作曲:加藤和彦)。それから6年という月日が流れ、楽曲制作者側として白羽の矢が立ったのだから、思い入れも深かったのだろう。竹内まりや自身が歌唱指導に赴き、コーラスも担当している。中山美穂にとっても初めて20万枚を超えるヒットとなった。
中山美穂の声が持つクローズ感
竹内まりやは、中山美穂との初対面で “アイドルという感じよりは、女優さん的な感じの佇まい” と思ったそうだが、まさに彼女の歌手としての魅力はそこである。群を抜いた美貌はどんなコスチュームも似合いゴージャス。そこから、なんともドラマチックで重みのある歌声が出てくるのだから、まるで1つの舞台を見ているようだ。
そう。中山美穂の声は重い。秘めたる思いが、湿気をどっぷりとふくんで降ってくる。それが、心の扉が開ききっていない独特の影を思わせる。「色・ホワイトブレンド」も、歌い手によっては、ふんわり浮き足立った、ブリッブリのアイドル風味にもなったはず。けれど、中山美穂の声が持つ感触が、そうさせなかった。“White” に清らかな情熱と強い意思をブレンド。だからこそ、今も多くの人の心に深く長く根差すのだろう。39年も前の歌だが、今でも春になると、凛とした彼女の笑顔と艶やかな高音が鮮やかに蘇る。
明日が待ってるから
後ろは振り向かないわ!
これまでとは違う自分が必ず出せる、とやさしく背中を押してくれるように。
*註:「C」は、「 」付きが正式タイトルとなります。