ゴールデンキングス、優勝賞金100万ドルのEASLで3戦無敗!“個性だらけ”のアジア勢に勝てる理由は「アジャスト能力」と「チームマインド」にあり
プロバスケットボール「東アジアスーパーリーグ(EASL)」に参戦している琉球ゴールデンキングスは12月4日、沖縄アリーナで韓国KBLの釜山KCCイージスと対戦し、91ー82で勝利した。通算成績は3戦全勝となっており、グループBで暫定首位を走る。 今季で3シーズン目となるEASL。日本、韓国、フィリピン、チャイニーズ・タイペイ、マカオ、香港の各地のリーグにおいて、昨シーズン優勝や準優勝を果たしたチームが参戦している。現在は5チームずつに分かれてグループステージを行っており、上位2チームずつが決勝トーナメントの「ファイナル4」(2025年3月7〜9日)に進出する。優勝賞金は100万ドル(約1億5千万円)。 3シーズン連続の出場となるキングスは、コロナ禍が明けてホーム&アウェー方式となった昨シーズンは3勝3敗でグループステージ敗退。各国の個性溢れるチームや海外のアウェー会場を包む独特な雰囲気、Bリーグのレギュラーシーズンと並行して実施されることによる過密日程などに対して適応に苦しみ、思うような結果を残すことができなかった。 それが一転、今シーズンはアウェーでの1試合を含めて、これまで負け無し。チームごとで消化した試合数に違いはあれど、グループBでの全勝はキングスのみである。これまでの戦いぶりや、4日の記者会見の内容から、快進撃の要因を探る。
“元NBA”に対する植松義也のディフェンスが流れ変える
釜山KCCイージス戦、ジャック・クーリー、アレックス・カーク、ケヴェ・アルマの「3BIG」のラインナップで試合に入ったキングス。クーリーからのパスでアルマがアリウープダンクを決めるなど、高さの優位性を生かして先行した。しかし、元NBA選手のデオンテ・バートンにミドルシュートや3Pシュートを高確率で決められ、点の取り合いになった。 流れを変えたのは、交代でコートに入った植松義也だ。 体の強さを生かしてバートンにフェイスガード(ボールを持つ前からへばり付くようなディフェンスをすること)を仕掛ける。バートンはそれでも厳しい体勢からシュートを沈め続け、前半だけで一人で26得点を挙げたが、脇真大や小野寺祥太らも同様なディフェンスでプレッシャーを掛け続け、後半はシュート成功率ががくっと落ちた。 キングスは試合を通してチームの3Pシュートが23本中5本(成功率21.7%)のみの成功にとどまったが、リバウンドの本数で51本対22本と圧倒し、最後の勝負所でもインサイド陣がセカンドチャンスポイントを重ねて逃げ切った。 試合後、桶谷大HCは「釜山KCCとは予選ラウンドで1回しか当たらず、予選を突破するために重要な試合だったので、勝てたことはとても良かったです」とコメント。勝因にも触れた。 「前半は相手に気持ち良くオフェンスをさせてしまい、点の取り合いになってしまいましたが、義也がバートン選手をフェイスガード気味に守り出してから流れが変わりました。後半も、2BIGのラインナップの時でも脇が体を張ってファイトしてくれたので、流れを作れました。第3Qで17点をリードしてから3Pシュートを4本決められたところはいただけませんが、リードをちゃんとキープして勝てたことは良かったです」 脇は「後半でファイトできていたところはあったんですけど、トランジションでバートン選手に3Pシュートを決められた場面はもったいなかったです。そこをどうやってチームとして止めていくかが一番大切かなと思いました」と振り返った。
「スカウティング」と「遂行力」に見る進化
桶谷HCのコメントにもあったが、釜山KCCイージスとは今回の1試合のみの対戦となる。今シーズンは昨季から出場チーム数が2チーム増えたため、スケジュールの都合もあり、ホーム&アウェーで2試合を行う相手もいれば、1試合だけを戦う相手もいる。 EASLでの戦いについて、岸本隆一が各チームやプレーヤーについて「ほぼ初見です」と言う通り、事前の対策や試合中のアジャストが勝利の大きな鍵を握ることは間違いない。釜山KCCイージスのように一発勝負となればなおさらだ。 さらに、各チームとも個性が強い。今回のバートンのように個の得点能力が秀でている選手がいるチームもあれば、前回対戦したマカオ・ブラックベアーズは身長230cmのビッグマンを筆頭に高さが際立つチームだった。国や地域ごとでバスケットボールのスタイルも異なる。 Bリーグでの週末の連戦と水曜ゲームを合わせ、ほぼ中2日で試合をこなしているキングスにあって、コーチをはじめ、相手のスカウティングを担うスタッフ陣がフル稼働していることは想像に難しくない。桶谷HCも以下のように語る。 「もうスタッフたちはすごいですよ。ほぼ休んでないです。相手チームの映像とかを見て、情報を持ってくるだけではダメで、それを選手たちにしっかりと落とし込まないといけない。どういうふうにしたら一番選手たちが動きやすいかを考えながらやっていて、みんな本当にいい仕事をしてくれています」 悔しい結果に終わった昨シーズンを経て、進化したポイントも話してくれた。 「今シーズンに関しては、プランが1個、2個とかではなく、いろんなプランを持って試合に臨めています。それに対し、ゲーム中に選手たちがアジャストしようとしてくれている部分があるので、そこは良くなったところだと思います。今日もゲーム中にいろいろ変わることはありましたが、選手たちがエクスキューション(遂行力)を高くやってくれました。これは今シーズンの強さだと感じます」 細かいスカウティングを基にゲームプランを練るが、試合が始まれば、プラン通りに進まないところも当然出てくる。だからこそ、選手とスタッフ陣がベンチやハーフタイムのロッカールームでコミュニケーションを取りながら、その都度アジャストしていくことに必要になる。選手側から発信することも多いという。 以下は岸本のコメントだ。 「試合の中で、スカウティングの部分と実際に起こっていることの違う側面が出た時に、できるだけ早くコーチ陣に共有できるように意識しています。そこら辺の兼ね合いは、自分がやらなきゃいけない部分だと思っているので、うまく感じ取れるようにはしたいとは思っています」 スタッフ陣の働きぶりに対して「自分たちが良いパフォーマンスができるために、みんなが身を削って作業をしてくれていることには本当に感謝しています。『結果で返す』ということは、僕だけじゃなく、選手がみんなが思っていることだと思います」とも言った岸本。選手とスタッフの団結力の強さが、厳しいスケジュールでも白星を重ねられる要因になっている。
千葉J戦の連敗も引きづらず「同じ方向を向いている」
この試合ではもう一つ、注目すべき点があった。 11月30日、12月1日にアウェーであったBリーグの千葉ジェッツ戦で悔しい2連敗を喫した直後だったため、うまく切り替えができているかどうか、という部分である。昨季はレギュラーシーズン終盤で調子を崩し、プレーの強度が上がらずにそこからなかなか脱することができなかったり、苦しい展開の時に個人技に走ってしまう選手がいたりしたためだ。 しかし、桶谷HCは今季のチームに対して明らかな違いを感じている。 「千葉Jに連敗して、今日はどういう雰囲気でバスケットをするのかなって思っていましたが、今シーズンはチームが崩れることが全然ありません。千葉J戦のしんどい時間帯も、誰も『俺が、俺が』とはなりませんでした。チームで我慢強くプレーしているので、タフさを感じます。連敗して(ホームに)帰ってきても、しっかり今日の試合に集中していました。みんなが同じ方向を向いてプレーできていることが、今シーズンの強さだと思っています」 EASLのグループステージは残り3試合。キングスは12月25日(水)に元NBAスターであるジェレミー・リン率いるニュータイペイキングスとホーム戦を行い、1月にはニュータイペイキングス、メラルコ・ボルツ(フィリピンPBA)の両チームとの海外アウェー戦に臨む。 現在、11勝5敗で西地区2位につけるBリーグを含めた厳しいスケジュールを乗り切るため、これからもスタッフと選手が一丸となり、チームとして戦い続けたい。