【岩崎宏美 50周年記念インタビュー】① TBS歌唱映像の見どころと “いま” の心境
TBSが保有する岩崎宏美の歌唱映像を約7時間半収録!「HIROMI IWASAKI 50th TBS Special Collection」
“天まで響け!! 岩崎宏美” のキャッチフレーズで1975年4月25日に「二重唱(デュエット)」でデビュー。以後「ロマンス」「センチメンタル」「思秋期」「万華鏡」「すみれ色の涙」「聖母たちのララバイ」など、あまたのヒット曲を放ち、ミュージカルやドラマでも存在感を示してきた岩崎宏美が4月で50周年を迎える。アニバーサリーイヤーとあって、新曲発表に記念コンサートの開催など、いつにも増して精力的な活動が予定されているが、3月5日に発売されるDVD6枚組ボックス『HIROMI IWASAKI 50th TBS Special Collection』は周年企画の第1弾。
TBSが保有する岩崎の歌唱映像を約7時間半(444分)収録した同ボックスはデビューから現在まで50年の軌跡を最新のデジタル・レストア&サウンド・マスタリングが施された映像で楽しめるほか、本人が執筆した解説も読みごたえ十分の内容となっている。常に第一線で活躍を続けてきた岩崎への2回にわたるインタビュー。前編は現在の心境と、ボックスの『DISC1』〜『DISC3』にまつわるエピソードをお届けする。
素晴らしい作品にたくさん出会えてたので、歌手冥利に尽きる50年だと思います
―― 50周年おめでとうございます!まずは現在のお気持ちからお聞かせください。
岩崎宏美(以下、岩崎):昭和100年の年にデビュー50周年ということで感慨深いものがありますね。振り返ればいろんなことがありましたけれど、素晴らしい作品にたくさん出会えたので、歌手冥利に尽きる50年だと思います。よいときばかりではありませんでしたが、不安を抱かずに歩んでこられたのは応援してくださったファンの皆様と、活動をしっかり支えてくださったみなさまのおかげ。あとは私の気の強さでしょう(笑)。
―― 半世紀というのは長い時間ですが、歌への向き合い方に変化はありましたか。
岩崎:50年の間に結婚して、子供が生まれて、最近は孫も授かって、かつては想像で歌っていたことが月日とともに分かるようになってきました。ですから、歌い始めたときより今の方がずっと楽しい。ミュージカルやドラマ出演に関しても、そのときは大変な想いをしましたけれども、今はいろいろ経験できてよかったと思っています。
―― 来年4月までの50周年イヤーは記念企画が目白押しのようですが、その第1弾にあたるTBSの映像集はDVD6枚組。大きな節目にふさわしい、質量ともに充実の内容です。
岩崎:こういうボックスを出していただけるのも歌手として幸せなこと。素材を確認するまで忘れていたものもたくさんありましたが、“こんなこともやっていたんだ” と自分自身、楽しむことができました。“もう1度観たい” と思っていたものが綺麗な音声と映像でDVD化されたことも嬉しいです。皆さんがご覧になったことのない映像もたくさんあるでしょう。“ここまで応援してきてよかった” と感じていただける内容になっていると思います。
―― 家庭用ビデオが普及するのは1980年代半ばでしたから(注:1980年の世帯普及率は2.4%。1986年に30%を突破)、1970年代の映像は特に貴重だと思います。『ザ・ベストテン』の初期や、日本レコード大賞の部門賞発表のシーンなどはリアルタイムで観て以来の “再会” で感激しました。宏美さん自身はどうご覧になりましたか。
岩崎:怖さを知らない強みのようなものを感じました。なにせほとんどの歌番組が生放送で、ビッグバンドの演奏に合わせて歌っていましたからね。リハーサルのとき、指揮者の方に自分からテンポ出しをしていたのですが、時間が押してくると曲のテンポが速くなるんです。イヤーモニターも、転がし(フロア用のモニタースピーカー)もない時代で、後ろの演奏の音だけで歌えていたのは怖さを知らない者の強みだったと言うしかない。そのおかげで鍛えられて逞しくなりましたけれど(笑)。
「8時だョ!全員集合」では、どんな状況でもイントロが鳴ったら歌の世界に入っていました
―― ここからはボックスの内容に沿ってお話を伺います。今回の映像集はTBSの番組ごとに構成されていますが、『DISC1』には高視聴率を獲得して “お化け番組” と言われた『8時だョ!全員集合』における歌唱シーンが「センチメンタル」(1975年)から「未完の肖像」(1984年)まで25曲も収められています。
岩崎:公開生放送の番組で、会場が渋谷公会堂のときは電車に乗って渋谷駅から公園通りを上がって楽屋入り。バンド(ゲイスターズ)の指揮をされていた岡本章生さんにはたくさんお世話になりました。『8時だョ!全員集合』って音合わせとカメリハが1回あるだけなんですよ。(ザ・ドリフターズのリーダーだった)いかりや長介さんが厳しくて、リハーサルはほとんどコント。本番が始まる8時まではずいぶん時間があったので、近所の「壁の穴」にマネージャーさんが行ってくれて、楽屋で伸びたパスタを食べた思い出があります(笑)
―― いかりやさんはゲストには優しかったそうですが、ドリフのメンバーには厳しかったとか。
岩崎:リハーサルでは怖かったなぁ。そういえば川中美幸さんと一緒に出演したとき、長さんが私たち2人をまじまじと見て “お前たちは顎きょうだいだな” とおっしゃったことがありました。自分だって顎が長いのにね(笑)。
――(笑)『8時だョ!全員集合』は前半のメインコントのあとと、後半の「少年少女合唱隊」のあとにゲストが歌う構成でした。何か思い出はありますか。
岩崎:本番で歌のコーナーに出たら、舞台転換で大きな音がしたり、ステージが水浸しだったり、いろいろなことがありました。今回、映像を拝見したら聖歌隊の衣装とベレー帽をぬいでから歌うシーンがありましたが、髪が乱れないようにスプレーで固めている今なら考えられません(笑)。生放送の緊張感のなか、なんでも当たり前のようにこなしていたのは若さでしょうね。どんな状況でもイントロが鳴ったら歌の世界に入っていました。
歌手にとって「ザ・ベストテン」に出るのは誇らしいことだった
――『DISC2』は歌番組の金字塔『ザ・ベストテン』の映像集。注目曲を紹介する “今週のスポットライト” コーナーに登場した「春おぼろ」(1979年)から、やはり “スポットライト” で歌われた「決心」(1985年)まで23シーンが収録されています。
岩崎:歌手にとって『ザ・ベストテン』に出るのは誇らしいことだったので、初出演した「春おぼろ」ではミラーゲートの後ろで待っているときから嬉しかったことを憶えています。歌の前のトークが長かったことに驚きましたが、受け答えする私の口調がやたらと女の子らしくて可愛かったことも意外な発見でした(笑)。
―― ベストテンファンとしては、司会の黒柳徹子さん、久米宏さんとの会話がたっぷり収められていることも嬉しかったです。黒柳さんといえば、宏美さんは2023年から『徹子の部屋コンサート』に2年連続で出演されるなど、今も交流が続いていますね。
岩崎:徹子さんは頭の回転が速いからお話が面白いし、今も可愛らしくて大好きな方です。久米さんとのやり取りも面白くて、いつもお2人に会えるのが楽しみでした。今回のDVDは黒柳さんのファッションやコメントも楽しめると思います。
―― 久米さんのコメントにもありましたが、番組が始まった1978年1月以降、宏美さんの曲は20位以内には必ず入るのに、なかなかベストテンに届きませんでした。ですから「春おぼろ」が9位に入ったときは嬉しくて小躍りしたものです。
岩崎:福岡でコンサートをしたあとの打ち上げ会場からの中継でしたね。なので当時のバンドやコーラスの皆さん、初代マネージャーの市原稔さん(のち芸映の社長に就任。2023年没)の姿も映っています。お世話になった方ばかりで懐かしかったです。
―― 同じ年に「万華鏡」(1979年)が2度の返り咲きを含め通算5週ベストテン入りしています。
岩崎:皆さんが頑張ってリクエストしてくださったおかげです。当時飼っていたミニチュアダックスフントのガンバロンとミルミルをスタジオに連れて行ったときの映像も入っていますが、躾らしいことは何もしていなかったのに、歌唱後、2人とも一目散に駆け寄ってきてくれて。あれは嬉しかったなぁ。ダックスフントは体型が可愛くて、抱っこしたときに収まりがいいので、以来ずっと飼っています。ちなみに今はシンバというミニチュアダックスフントと、モカというトイプードル。50周年のロゴには彼らのイラストも使われています。
―― 私は「万華鏡」の「♪みるみるうちに この通りは河になるわ」のフレーズを聴くたびにミルミルのことを連想しています(笑)。続く「すみれ色の涙」(1981年)は最高4位で9週連続のベストテン入りを果たしました。
岩崎:それまでの6曲は残念ながらランキングされなかったんですよね。ありがたいことに毎日が忙しかったので、私自身は焦りや悲壮感は全くなかったのですが、今思うともう少しハングリー精神が必要だったかも。地方から出てこられた方は故郷を背負っているようなところがありましたが、私は東京出身で実家暮らしだったことも影響しているかもしれません。
5週連続の1位となった「聖母たちのララバイ」
―― 代表曲の「聖母たちのララバイ」(1982年)は5週連続の1位となりますが、今回の映像集には1位の回すべてが収録されていて見ごたえがあります。
岩崎:2週目のときはヘルニアで入院中だった2代目ディレクターの飯田久彦さんからお電話をいただいて。お祝いの言葉を聞きながら目が潤みましたが、“泣かないで歌ってね” と言われたので頑張って歌いました。5週目はお祝いとしていただいた江川卓さん(当時は巨人軍投手で岩崎が大ファンだった)のサイン入りボールを持ちながら歌っていますが、そのボールがなぜか行方不明なの(苦笑)。江川さん、ごめんなさい!
―― 見つかることを祈っております。大ヒットした「聖母たちのララバイ」は12月30日に放送された『さよなら1982 ザ・ベストテン豪華版』で年間2位をマーク。ボックスにはその映像も収められています。
岩崎:水谷良重さん(現:水谷八重子)がお祝いに駆けつけてくださって、今観ても恐縮してしまいます。少し顔がむくんでいるのは、くたびれていたのかな。この年(1982年)は信じられないくらい忙しかったですから。大晦日は『年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京系)にも出演したので、初めて年末の大型歌番組を3本掛け持ちしたのですが、我ながらよく頑張ったと思います。20代の頃は深夜の帰宅後にシャワーを浴びて、身だしなみを整えてから行きつけだった六本木のお店に遊びに行っていましたが、そうやってストレスを発散していたんですね。
事務所を独立した直後のヒットだった「決心」
――「聖母たちのララバイ」に続いて『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ系)の主題歌に起用された「家路」(1983年)もベストテン入り。その2年後がスポットライトコーナーの「決心」でした。
岩崎:(「タッチ」がヒット中だった)ヨシリン(妹の岩崎良美)と一緒に出演した回ですね。事務所を独立した直後のヒットでしたから、とても嬉しかった記憶があります。『男女7人秋物語』(1987年 / TBS系)の打ち上げで「決心」を歌ったら、共演した片岡鶴太郎さんが “この歌がいちばん好きです” とおっしゃってくださって。「♪いい男になってね 時間をかけて」という歌詞に触発されて “自分もいい男になろう” と決心されたそうです。
10代の映像は、歌声がとにかく元気なことにも驚きました
―― 素敵なエピソードですね!続いて『DISC3』は『ロッテ 歌のアルバム』のほか、様々な番組から厳選された24曲の歌唱シーンで構成されています。うち10曲が10代の映像ですが、今ご覧になって感じることはありますか。
岩崎:デビュー間もない頃は子犬みたいな顔をしているなと(笑)。歌声がとにかく元気なことにも驚きました。あとは髪かなぁ。10代の頃はキューティクルがありすぎて毛髪量も多かったので、夕方になるとベタッとしてきたんです。だから洗面所にある緑の水石鹸で前髪だけ洗って、ドライヤーで乾かしてサラサラにしていました。今考えると異常な行動ですよね(笑)。
―― 個人的には『みどころガンガン大放送』『たまりまセブン大放送!』『マジカル7大冒険!』『たのきん全力投球!』など、バラエティ番組での歌唱映像も懐かしくて楽しめました。
岩崎:コントをやる番組が多かったから、今回のボックスでもコントで使ったセットの前や、役どころの衣装で歌う映像がいくつもありました。あの頃はものまね番組や運動会などもありましたけど、私はどうも苦手で(苦笑)。
―― 楽屋は今のように個室ではなく、大部屋が基本だったようですね。
岩崎:ヘアメイクやスタイリストが付き始めるまでは男性用と女性用の楽屋がひとつずつという形でした。新人は出入口のそばに座るのが決まりだったので、待ち時間はみんなでおしゃべりをしていました。私がデビューした頃は『スター誕生!』(日本テレビ系)出身の同世代の歌手がたくさんいましたので、学校みたいな雰囲気でしたね。あるとき渋谷公会堂の楽屋で桜田淳子ちゃんと一緒にラーメンをすすっていたら、通りかかった八代亜紀さんが「こんな冷たいラーメンを食べているのをお母様が見たら泣いちゃうわよ」と心配してくださったことがありました。八代さんはすごく優しい方で大好きな先輩でしたから、2023年にお亡くなりになったときは悲しくてね。最近はお世話になった方が遠くに行ってしまうことが多くて本当に寂しいです。
後編では『DISC4』以降に関するエピソードと、他の50周年プロジェクトに関するお話を伺います。
Information
HIROMI IWASAKI 50th TBS Special Collection
・発売日:2025年3月5日(水)
・仕様 :6枚組DVDボックスセット(三方背豪華BOX / 特製デジパック仕様 / 解説書付き)
・価格 :29,480円(消費税込み)
・DISC1「in 8時だョ!全員集合」(66分)
・DISC2「in ザ・ベストテン」(100分)*数々の名場面を久米宏&黒柳徹子とのトークも含め収録
・DISC3「in ロッテ歌のアルバム +(プラス)」(64分)
・DISC4「in サウンド・イン“S” +(プラス)」(71分)
・DISC5「in BS-TBS」(68分)
・DISC6「award 日本レコード大賞 +(プラス)」(75分)
合計444分