第33話「先帝」は愛憎がこもった大人なドラマ――『薬屋のひとりごと』第2期、安氏と先帝の物語を能登麻美子さんが振り返る/インタビュー
大人気後宮謎解きエンターテインメント『薬屋のひとりごと』。2025年1月10日よりTVアニメ第2期が放送中! 第1期から続く未解決の謎が後宮を不穏な空気に包む中、猫猫と壬氏の前に新たな難事件が立ちふさがります。
今回、現帝の母で皇太后の安氏を演じる能登麻美子さんにインタビュー! 第1期や第32話、第33話を振り返ったお話を伺いました。
悠木碧さんの唯一無二の演技に尊敬
──『薬屋のひとりごと』の印象をお聞かせください。
安氏役・能登麻美子さん(以下、能登):もともと大人気作品と存じ上げていました。アニメが始まってからは、その映像美に引き込まれましたし、なにより猫猫ですよね。あんなヒロインは見たことがなくて、好きにならざるを得ないといいますか。もう第1話から引き込まれてしまって、畳み掛けるように拝見しました。
──猫猫に惹かれる気持ちはよくわかります。
能登:それを碧ちゃん(猫猫役・悠木碧さん)がこんなにも魅力的に仕立てているということで、改めて素晴らしい役者さんだなと思います。ほかの人が演じても絶対にこうはできないです。それくらい唯一無二の、碧ちゃんだけのアプローチだなと思いますね。
──役者さんからご覧になってもそれだけすごいのですね。
能登:自分ではできないなと思いますし、こういうアプローチの仕方があるのかと。碧ちゃんが演じることで猫猫の魅力がさらに輝いていて、まさに運命的な出会いだったんだなと感じさせられました。
またモノローグもすごいんですよね。今回、私のセリフ量もかなり多かったんですけど、どこを見ても猫猫のモノローグが挟まっていて。改めて「碧ちゃん、すごいな」と尊敬しちゃいました。
──本作は会話とモノローグを切り離さずに収録されていると聞きました。
能登:もう天才ですよ。
──映像もスタッフ陣のこだわりがふんだんに詰まっていますよね。
能登:みなさん、ちゃんと寝ていらっしゃるんですかね?(笑) それくらいのクオリティで作り上げられるのは、絶対にみなさんのこだわりと熱意がなくしてはできないことだなと思います。
人間の全てが詰まったドラマチックな世界
──後宮を舞台とした世界観ということで、そこで描かれるドラマをご覧になっていかがでしたか?
能登:個人的に好きな世界観です。日本で言う大奥のような特殊な場所を舞台に、どんな立場でも生きていくのは大変なんだなと思わされたり、それゆえの人間の業が描かれていたりと、人間の全てが詰まったドラマチックな世界ですよね。みんな“生きるか死ぬか”みたいに生きていて、大変興味深く見させていただきました。
──演じられる安氏は妃たちのトップという重要人物です。
能登:第1期は第22話『青い薔薇』での園遊会での「まぁ」という一言でお邪魔したんですけど、その「まぁ」を何度かトライさせていただいていて。なかなかOKにたどり着かなくて「これはすごい作品だな」と。それだけ、圧倒的な存在感を出そうとスタッフのみなさんがこだわっていたんですよね。だから第2期は「これは心してかからないと」という気持ちでした。前日もよく眠れなくて。でも収録はやり切ることができたので、夜はよく眠れました(笑)。
──(笑)。第1期の時点で大変な予感がしていたのですね。
能登:そうですね。やはり、あれだけのクオリティの作品を作られていますから。それはもう自然なことなんですけど、やはり第1期のジャブが効いていて、本番はドキドキしながら収録していました(笑)。
──第32話、第33話を通して安氏にどんな印象を持たれましたか?
能登:原作・コミックを拝見して、侍女から頂点に上り詰めるだけの説得力を感じました。第33話の部分は後半、ほぼ彼女のモノローグでしたが、ふたりの子を成して、何度も命の危機にさらされながらも頂点に上り詰めるというのは並の人ではないですよね。
ただ、演じるうえでは、彼女の言葉の中にある憎しみややるせなさといった何層にもなっている感情をスピーディーに切り替えないといけなく、かつ、見た人を「この人は皇太后になるよね」と納得させないといけなかったので非常に難しかったです。
──たしかに、すごく説得力を感じました。
能登:生い立ちや後宮に入ったときの身分、10歳の子供なのに「自分が成り代わるんだ」と姉が見せた一瞬の隙をついたというのは非常にドラマチックですよね。まさに「生きるか死ぬか」だなって思いました。
──したたかさがありつつ、妃としての聡明さを欠かしていないところも流石だなと。
能登:そうですね。優しくありながらも非常に冷徹なところがありますが、なにより先帝に対する憎しみであったり、愛憎ですよね。あそこはちょっと痛々しいところもありましたが、この世界、安氏と同じような経験をした女の子はごまんといるはずなんですよね。架空の世界ではありますが、現実でも近しいことがあったと思うと考えさせられるものがあるなって。もし自分がここに放り込まれたらすぐに出家しちゃいます(笑)。
でも今回の安氏のモノローグを通して、猫猫や妃たち、現帝の人生について、感じ、考えさせられるところがあったんじゃないかなって思いました。
──先帝とのドラマは複雑で見ごたえがありました。
能登:安氏は“知ろうとしないこと”を選びました。でも、あの絵は先帝のお母さんなのではなく、私を描いていたのかもしれない、だけど、そうであると……。
──これまで勘違いをしていたことになりますからね。
能登:そうですね。これまで積み上げてきたものが崩れてしまうんですよね。生きるために切り捨てていく感情を持ったり、決めつけることによって身を守っていたけど、途中までは大事に思っていたという。
すごく印象的なのは、先帝が絵を描いているとき、優しい眼差しで安氏を見つめているんだろうなっていうカットです。あのとき、安氏は幸せだったんだろうなと思うと、ちょっと切ないものがあるなって。本当に、憎しみも、愛もある、非常に大人なドラマですよね。第33話は、特にいろいろなものが内包されていたなと思います。
──今回、壬氏との関係もハッキリしました。
能登:すごいドラマですよね。ここを機につまびらかになっていくということで、そういう意味でも第32話、第33話は大事な回だったなと思いますね。
3つの面を意識した演技
──第32話、第33話に関して、ディレクションやオーダーなどはありましたか?
能登:テストの段階で非常に細かくディレクションをいただきました。猫猫たちに見せている表の顔は柔らかく優しさを強調しつつ、内面は明確に違う色で。さらに、先帝に対しての憎しみといったドス黒い感情はダークに。その3段階は明確に意識したところです。
──ひとりで何役も演じられているような。
能登:気持ちとしてはそうでした。ほかにも10歳になったり、30歳になったりするので、何通りも内包して演じていますね。
そんな中、特に印象的だったのは、モノローグで先帝のもとに歩み出すときの「けれど」というセリフです。そこだけは「行くんだ」という安氏の気持ちみたいなものを乗せてください、という素敵なディレクションをいただいて。ほかにも寝屋で復讐するところとか、丁寧に丁寧にディレクションをいただきつつ、互いにすり合わせながら演じさせていただきました。
──お話ありがとうございます。最後に、今後の放送を楽しみにされている方々へメッセージをお願いします。
能登:今クールのクライマックスに向け、みなさんの期待値がどんどん上がっているところだと思います。この先もその期待を裏切らないのはもちろん、むしろびっくりさせるような映像美が続くので、ぜひとも最後まで楽しんでご覧ください。
【インタビュー:MoA】