【前編】生成AIとは? 生成AIの必要性とビジネス変革の背景・リスク・活用実態を解説
ここ数年で知名度が急激に高まった生成AI。ニュースやインターネットなどで「生成AI」という言葉を耳にしたことはあっても、この技術が私たちの生活やビジネスをどのように変えるのかについて、具体的にイメージが湧かない方も少なくないのではないでしょうか?ここでは、社会に計り知れないインパクトを与えるといわれている生成AIについて解説します。
この記事では以下の5点をレポートします。
前編 生成AIとは? 生成AIが注目される背景と世界の導入状況 後編 生成AIビジネス利用の実態 さまざまな業界における生成AI活用事例 生成AIをめぐるリスクとITリテラシー
生成AIとは?
総務省の「情報通信白書(令和5年版)」によると、生成AI(ジェネレーティブAI)とは「学習データを基に自動で画像や文章等を生成できるAI」のことです。(※1)
生成AIの基盤になっている技術は「ディープラーニング(深層学習)」です。ディープラーニングとは、人の手を介さずに機械やシステムが大量のデータを学習して、その中から特徴を見つけ出す技術手法で、ディープニューラルネットワーク(DNN)という技術がベースとなっています。
多くの複雑な情報に対応するためには、脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」よりもさらに深い階層に適応させ、多層化した(ディープ)仕組みになっているDNNが必要になるのです。
生成AIが登場する前、従来のAIは、情報の検索やチャットボットのように準備されているデータの中から関連性の高いデータを見つけてくるように構造化されているに過ぎませんでした。つまり、入力に対して決められた出力が自動化されているだけで、出力されるものは数値データやテキストデータなど、新しく創造されたものではありませんでした。それに対して、生成AI(Generative AI)の「generative」とは「生産できる」ということであり、新しいコンテンツを生み出すことができる点で大きな違いがあります。
そのため、日本政府も生成AIに注目しており、経済産業省は「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方(令和5年8月)」の中で「生成AIの技術は、ビジネスの機会の創出や様々な社会課題などに資することが期待されている」と述べています。(※2)
出典:
※1「情報通信白書(総務省・令和5年版)」
※2「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方(経済産業省・令和5年8月)」
生成AIが注目される背景と世界の導入状況
社会を大きく変えるインパクトを持つAIは世界中のさまざまなシーンで導入されており、その割合は着実に高まっています。
例えば、IBMが2023年に行った調査レポートによると、従業員1000名以上の大企業の約42%が自社のビジネスにAIを導入済み、40%はAIの導入を検討していると回答しました。また、AIをすでに導入、あるいは導入の検討を行っている大企業の59%が今後AIへの投資を加速させると述べています。また、国別にみると、AIの利用率がもっとも高かったのはインドで59.0%、次にUAE(58%)、シンガポール(53%)、中国(50%)と続きます。(※3)
また、NRIセキュアテクノロジーズが2023年8月から9月にかけて行った調査によると、「生成AIサービスについて、セキュリティルールを整備の上、導入・検討していますか?」という質問に対し、日本の企業は合計18%で、アメリカの73.5%、オーストラリアの66.2%を大きく下回りました。また、日本においては、従業員規模に関係なく約1割の企業が「生成AIは利用禁止のため未導入」と回答しましたが、アメリカ0.9%、オーストラリア2.0%に比べ、禁止の割合が高いことが分かります。これらの調査結果から、日本の多くの企業が生成AIの導入に対して慎重であることが分かります。
また同調査によると、生成AIのセキュリティである、偽装メール対策「DMARC」の実施率はアメリカ81.8%、オーストラリア89.4%に対して、日本では13.0%で大幅に低い状況が明らかになりました。(※4)
世界各国で生成AIの導入が進む中で、日本企業においてAI導入が遅れているのはなぜでしょうか?
アデコ株式会社が上場企業に勤務する40代から50代の管理職を対象に2021年に行った調査によると、その多くが「AIが今後の日本社会に不可欠」と考えており、その理由として「国際競争力」と回答したのは72.3%、「利便性維持」と回答したのは73.9%でした。また、6割以上が日本のAI導入は諸外国に比べて遅れていると認識していました。その理由としては、3割以上が「人財不足」を挙げました。(※5)
国が進める「AI戦略2022」とは
政府が2019年6月に策定した「AI戦略2019」では、4つの戦略目標(人材、産業競争力、技術体系、国際)を掲げましたが、各施策の具体的成果を十分には実感できませんでした。そこで「AI戦略2022」では、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックなど、多くのリスク要因などを反映し、従来のAI戦略をさらに拡張した戦略方針を提示し、AIの社会実装をさらに推進しています。
具体的には、「AI戦略2022」において多言語翻訳をはじめとする自然言語処理技術、脳情報を活用した次世代AI技術、AIによるリモートセンシングデータ活用技術等を実施しています。(※6)
出典:
※3 IBM Global AI Adoption Index 2023
※4 NRIセキュア、日・米・豪の3か国で「企業における情報セキュリティ実態調査2023」を実施
※5 管理職を対象にした、AI(人工知能)に関する意識調査 Adecco Group
※6 「AI戦略2022」の概要(令和4年4月 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局)